55話:わちの動画は紳士向けのえちち動画じゃないのじゃ!
翌日の日曜日。
隣の男化女子三人より早く起きたようだ。
騒がしくなる前に朝の支度をしようと思う。
「おちっこぉ」
わちはいつものように便座に座る。ここでうっかり立ちションするような真似はしない。なぜならすっかり座りション派となっているからだ。
なのでおちんちんの有無は問題にならない。だが、幼女化したことがないとわからないと思うが、用を足した後にうっかり拭き忘れると悲惨なことになる。いざ幼女化した時のために、普段から座りションと、したあとに拭く習慣を心がけることをおすすめする。
と、ニッシーへLIMEを送信。
ニッシー『おれ立ちション派』
立ちション派は飛沫が飛び散るから滅ぶべき。
さてリビングでトーストを囓っていると、「お兄あたしもー」と寝ぼけた太い声が階段上から聞こえてきた。野太いマッチョ声にいまだに慣れず、朝のぼーっとしてる時間だとお尻がびくんと浮き上がる。
「あれ? 二人はどうしたのじゃ?」
「んー。部屋にパン持っていく」
まだ頭が回ってなさそうな妹を、トースト焼いてる間に顔洗ってこいと追い返す。
食パンにチーズを載せてオーブンに並べて突っ込みつまみを回す。チンと鳴って取り出し皿に載せた。
「えー。フレンチトーストじゃないのぉ」
「注文されてないのじゃ」
もぐもぐタイムを終了。パソコンでファーミングプリンセスを起動する。
この前南さんとID交換したからの。お友達登録を見たら南さんが追加されていた。
そして訪れた南さんが荒れ果てた畑を整備してくれていた。ありがたい……。
ちょっとプレイして部屋に戻る。
男化女子三人は妹の部屋にいるので平和だ。ちょっとむさい声が隣から響いてくるくらいで。
今はダンジョンゲートの復活待ちである。昨日のお昼に突入したので、今日は午前中には復活するはずなのじゃが。
のんびり南さん変身の元ネタになったシャチちゃん動画を観ていたら、妹どもがやってきた。
「戻る前に動画撮ろうぜい!」
「何を言うておる?」
今日は元に戻るためだけに入るのは女子三人衆だけで、わちはこのままでいるつもりじゃ。明日はダンジョン内でティルオになり、帰還能力を試したいからの。
そして妹が「これこれー」と得意気に見せてきたのは丸い輪っかの運動するあれ。
「わち、スニッチ嫌い」
ぷいっ。わちは顔を背けた。
「いいじゃんやろーよー」
「体力ない女の子をひぃひぃ喘がせるゲームじゃろ?」
「お兄の知識が歪んでおる」
しかし間違っていないはずだ。
わちがプレイした結果、どうなるかわかりきっておる。出来上がるのはセンシティブ動画だ。
「世間がそれを求めている」
「もうありがちなネタじゃろう。どこもかしこも同じような動画を上げておる」
ダンジョン探索のために身体を鍛えようと世間は筋トレブームなのじゃ。みんなもうそんな動画は上げまくりで流行り廃れてるのじゃ。
そしてわちは知っておるのじゃぞ。身体を酷使した割に合わず「今更かよ」とか書かれちゃうのじゃ!
「まあねえ。だが、あたしがいるだろう?」
「な!? おぬしまさか!?」
そして始まったリングスウェット動画撮影。撮影は星野さんと竹林さん。
はい。わちがんばった。
「ふひぃー。ふにぃー……」
「おつかれー」
ふっふっふ。なんとか最初のステージをクリアしたのじゃ! 1-1のことじゃ。
じゃあそういうことで。ゲームをリセット。
「ういーっす! あたしはぽんこつ吸血鬼のプロデューサーの妹でっす!」
「わーぱちぱち」
筋肉をムキッとさせてツッコミどころ満載の挨拶をした妹。
「じゃあ、負荷を測定……ふんっ!」
「あ! ばか!」
メキッ! ボキャ!
「ニャンテンドウは簡単に壊れるものを作るから困る……」
「また炎上しそうな発言しおって」
リングは星野さんの持ち物だったようで、星野さんは泣いた。
さて、わちのチャンネルだが、3万人にまで増えたのじゃ。休止期間が長かったのにちょっとずつ増えた。
結構多いように思えるが、今ノリのノッているダンジョン動画を上げているのにこの人数は、ダンユーバー全体的に見ればまあまあ中流といったところだ。ウルファングさんは20万人を超えていた。やはりおっぱいか。おっぱいが必要か!
実際わちの動画はロリ動画であり、ロリとはマイノリティなものなのである。
スマホを手にしてからエゴサーチで「のじゃロリ吸血鬼チャンネル」の話題を探してみたが、やはり獲得していたのはマニアックな層だけのようだ。ううむお外にお出しできないようなレスばかりされておる……。わちの動画は紳士向けのえちち動画じゃないのじゃ!
あとそもそも妹の動画編集能力が、シーンを切って繋げるだけのカット編集くらいしかできないのもいまいち再生数が伸びない原因だ。まあ頑張れ妹よ。
「動画編集に関しては秘策がある」
「なんじゃと?」
「北神妹に丸投げする」
「プライドないのかの?」
しかし北神妹もゲーム生配信が中心だったはずじゃ。普段は配信アーカイブを丸々動画として上げているだけで、編集するようなスキルはあるのだろうか。
あるそうだ。
と、言うことでさっくりスライム凸して死に戻った(ダブルミーニング)3人と共に、北神家へ向かう。
「風花っちー!」
「風花ちゃーん!」
「北神くんの妹さんきゃわわ!」
女子三人にもみくちゃにされる北神妹。ああ、普段北神くんがわちのことを見捨ててるのがわかった。これはうかつに手が出せない。
「はなれるぉです!」
ふむ。わちはその様子をスマホで動画撮影した。
「アズマくん?」
「うむ。痴女三人の証拠を撮っておる」
北神妹が「編集手伝わない!」って言い出し、やっと魔の手は収まった。
息を荒くし、顔を紅潮させて、服が乱れた風花ちゃんはなんかえっちじゃ。むふふ。
「アズマくん?」
「うむ。わかっておるわかっておる」
北神くんも動画が欲しいってことだろ? 送っておいた。
それはともかくとして、風花ちゃんの動画編集講座が始まった。
「まずスマホ動画はファイル形式が――」
「お兄ヘルプ!」
「早すぎるのじゃ」
まだ編集のへの字にも入ってないのじゃ。
早々に学ぶことを諦めた妹と星野さんだったが、竹林さんがパソコン適性を持っていた。そして「ティル様の動画編集を手伝います」と熱意でメモを取る。
その様子を妹は動画を撮る。
「何してるのじゃ?」
「しっ。動画にしておけばいつでも見返せるでしょ」
あ、賢い。でも妹は自分で観ることはなさそう。
さて、動画といえばもう一つ。
スマホをゲットしたわちは、クラスの女子LIMEグループに入っていた。わち男子高校生なのじゃが。もうその辺は普段から女子に混じって女子トイレを使ってるので深く考えないことにする。
そしてグループチャットには参加しないものの、個別で熱くメッセージを送ってくる者がいた。ちょっとヤンキーな見た目なプリン頭の轟さんだ。
彼女が熱心に動画の感想を送ってくるようになった。そして彼女は変身するわちのダンジョンに興味があると。
轟『私、目付き悪いじゃないですか』
轟『(猫キャラが泣いてるスタンプ)』
轟さんは普段は荒い言葉遣いなのに、なぜかLIMEでは丁寧だった。
轟『こんなこと誰にも相談したことないんですけど』
轟『私も星野みたいにかわいくなりたいんです』
轟『(猫キャラが照れてるスタンプ)』
うーん。どうしよう。
まず轟さんは色々と勘違いしているのだが、妹や星野さんが日々美人になっているのはポーションをじゃぶじゃぶ使っているからだ。
変身の事はもちろん知っているだろうが、性転換の事は知らないだろう。言ってないし。だからかわいくなりたいという理由で求められても困る。だが南さんのケースもあったので、余計に断りづらい。
動画についても、妹が金儲けで始めたことだが、なんだかんだでわち自身も楽しくはなっている。それに対し熱意を持ってメッセージを送ってくれるのに嬉しいことは違いはない。そんなわけでわちの中の轟さんへの好感度は急上昇しているのだ。
風花ちゃんの動画編集講座が終わった後に妹にこのことを相談したら、「面白そうだから誘ってもいいんじゃない?」と言ってきた。面白そうってなんだよ!?
「今のところ性別が変わったのは100%だけどさー。確実とは言い切れないじゃん?」
「うーん。まあ確かにのう」
「試してみるだけ試してみてもいいんじゃない?」
「そうじゃな」
ブルルンブルルンと震えるスマホに「おっけー」のスタンプを送る。
すぐに「今から行きます!」と気がはやりすぎた返信が来たので慌てて「今日は無理!」と送った。
今日はダンジョンゲートが閉じちゃったからもう入れないのじゃ。
轟『(猫がしょんぼりしたスタンプ)』
そして話題はダンジョンの事から明日の球技大会の事へと変わる。二学期のテストが終わったから授業がないのじゃ。
球技大会の事を口にすると妹が叫んだ。
「あああ! しまったぁ!」
「どうしたのじゃ妹よ」
妹が頭を抱えている。な、なにか問題があったのか?
「マッチョで明日参加すれば良かった!」
「それはずるじゃ」
下らぬことで騒ぐでない。わちのチャンネルがもっと盛り上がるように頑張るのじゃ、プロデューサーよ。




