49話:汚れつちまつた のじゃショタに
黄金の小麦畑が風に靡いて波と成す。空は青空が広がって白い雲が流れ、遠景に碧い山が並ぶ。どこにでもありそうな、なんだかのどかな田舎の雰囲気。
その中に立つ四人の人物。
ただの女装が似合いそうなイケメン男子高校生。
ただの黒髪ロングの美人女子高生。
ただの世界クラスのボディービルダー並の肉体を持つゴリマッチョ。
ただの金髪ロング碧眼のちんちくりんショタ。
「ちんちん付いてるのじゃがー!?」
「かわいー!!」
早速わちはしのお姉ちゃんに抱きしめられた。
「待つのじゃしのお姉ちゃんよ。わちは男じゃ」
「そんなの知ってるよー! ところでなんで金髪なの!? ティルちー2Pカラーなの!?」
星野さんも妹と同じ発想か!
「違うのじゃ! この身体にはちんちんが付いてるのじゃ!」
「なん……だと……?」
妹ゴリマッチョが俺の股間を掴んだ。待って。潰さないで。
「なんじゃこりゃあ!」
「だからあると言っとるじゃろうが!」
慣れ親しんだぷるんぷるんじゃ。
星野さんは俺の前でしゃがみ、顔を近づけた。久々に見る猫男じゃない星野さんかわいい。
「うん。大丈夫。私いける!」
「待て待て待つのじゃ!」
いやそうじゃなくて。わちは貞操の危機に震える。
「待てよ? これお兄だけずるくない?」
「そうだね! ずるいね!」
「なにがじゃ!?」
ずるーいずるーいと女子高生とマッチョになじられる。北神くんは静観だ。こやつめ……。
「だってティルちーと金髪ショタの二択じゃん! どっちも美味しいじゃん!」
「私、大きくなったティルオくんと結婚するんだ……」
誰がティルオじゃ!
そして俺はやっとこの事態に気がついた。
「のう。わちの元の身体は?」
「そりゃ消滅したんだろ。ロストだロスト」
「いいなー。ティルオくんいいなー!」
え? 俺消滅したの?
「何を今更」
「ウルファングさんだって元の身体失ってるしねー」
まじで。そんなまじで?
お、俺の身体……。
「その結果が美少年ショタなんだからいいだろぉ! 抱き枕になれ!」
「ねーねーティルオくん。しのお姉ちゃんと結婚しよ? 今夜うちに泊まる?」
やばい。こいつらの目が肉食獣のそれだ。
「き、北神くーん!」
「え、うん。二人共落ち着こうか」
俺は北神くんの背後に隠れた。イケメンバリア!
「はぁはぁ……イケメンが二人……」
「待ってヒメちゃ。その姿でその発言はダメ」
いや、しのお姉ちゃんでもアウトじゃが。
「それで、出口はどこにあるんだい?」
「あっちの館の方じゃ」
俺は北神くんの背後から出て、青い屋根の館を指差す。
太陽が南にあるとして、館は東の方角だ。
「今日は冒険しないで出ようか。それで戻れるんだよね?」
「え? あ? いや?」
「どうしたのですか? アズマさん」
「だめかも」
北神くんと星野さんは「は?」と声を出した。俺は「あっ」と気づいてしまった。
「そ、そういえば、出た時に元に戻ったんじゃったか」
「そうそう。うんとね。あたしが入った時はまだダンジョンの形を成してなくってさぁ」
妹マッチョが説明をした。入った時には変化せず、出た時に変身した。
今回の場合は、以前と同じように入った時に変身した。出た時に戻るとなると、星野さんは猫男に、北神くんはエルフに戻ってしまう。
「えぇぇえええ! そんなぁあ! それじゃあティルオくんを連れ出せないしぃ!」
「え、そっち?」
わちよりも自身の身体の事を心配するのじゃ、しのお姉ちゃん!
「でも、昨日とは状況が違うということだよね。それなら今日は変わっているかもしれない」
「確かにそうじゃ」
小麦をかき分け一同は館へ向かう。
わちは妹マッチョに再び担がれている。
「待って! なんかいる!」
「え? 巨人……?」
小麦畑からぬっと身体を起こし、巨人が立ちはだかった。
と、トロールか?
小麦畑にトロール。相変わらずこのダンジョンはめちゃくちゃである。
小麦畑はエジプトで、トロールは北欧だ。そして館はゴシック建築か? 統一性が全くない。ダンジョンを創ったのは誰だ!
俺か?
「妹! 頼んだぞ!」
「無茶言うなよ!」
わちは星野さんに抱きかかえられ、北神くんと共に離脱。
妹ゴリマッチョは生身でトロールとぶつかり合う。
「なんとかなりそう!」
「まじか!」
さすがゴリラとぶつかりあったゴリマッチョだ。筋力が並ではない。
そういやゴーレムとも戦えるもんなあいつ。
「あっ。二匹目が」
俺はトロールに踏み潰されて死んだ。
「ぐえぇえ!」
ごろごろごろ。
俺は部屋の中に転がり出た。
後を追うように、部屋に星野さんと北神くんが現れる。
「お、おかえりぃ。戻った、ね!」
南さんが星野さんに手を差し伸べた。
本当だ。星野さんが黒髪ロングのままだ。
「僕も元に戻りましたか。今回は逆のようですね」
北神くんも、敬語口調は戻ってないようじゃが、男のまま戻った。
あれ? えっと?
逆? 死んだのにダンジョン内での姿のまま?
「あ、アズマくんはなんで色違い、なの?」
色違い言うな。
わちはティルミリシアじゃないぞ! ぷんぷん!
「紹介するね! ティルオくんだよ!」
「てぃるお……?」
「ティルオじゃないのじゃ!」
じゃあ何かと言われると困る。結局呼称をティルオにされた。
「やっほー! いま帰ったぜぃ!」
「おお。JKに戻っちょる」
妹もちゃんと女子になって戻ってきた。
妹ゴリマッチョはトロールに勝ち、ゲートから帰還してきたようだ。
ゲートから戻ると変身前の姿に戻る……。混乱してきたのじゃ!
結局、わちが金髪のじゃショタ化した以外はみんな元に戻ったのじゃ。
あ、ダンジョンに入ってない南さんは水色髪美少女のままだけど。
「これで確定ですね。今回は死ぬとそのまま部屋に戻されて、ゲートで戻ると再度変身となるようです」
「ええっと……ややこしいのじゃ……」
「お兄はどっちでも変わらないんだから関係ないでしょ」
変わるのじゃ! おちんちんの有無があるのじゃ!
「ええと、アズマくんはどうなったの……?」
「お兄は消えた」
消えた言うな。
「え、え?」
「金髪ショタか銀髪ロリになったの。ずるいよね」
「ずるいずるい」
ずるいと言われてものう。
ほら。南さんも困っておる。
「ず、ずるいですね……」
南さんも!?
き、北神くんは味方じゃよな。北神くん。北神くん?
「ずるいかはともかくとして、服には困らなそうですね」
なるほど。どっちの姿でもちんちくりんじゃしのう。
「そうだね。お兄はこれからは女児服だけあればいいもんなー」
「金髪ショタ女装……じゅるり」
星野さんがわちの事を良くない目で見ちょる……。
「細かいことは置いといてさー。みんなで久々にポーション風呂だ!」
「おー!」
「いてらーなのじゃ」
むっ。星野さんがわちを抱えるのじゃが。
「南さんはどうする?」
「わ、わたしはその……いえ……」
「じゃあ三人だね。お風呂狭いしなー」
ぱーどぅん?
「わち男なんじゃが」
「何をいまさら」
「ねぇ」
いやそうじゃなくて。
「おちんちん付いてるのじゃが」
「お兄のちんちんなんて何度も見とるわ」
「私も弟いるしー」
いやそうじゃなくて。
「た、たすけ……きたがみぃ……みなみぃ……」
手を振って見送られる俺。
んああああ。
汚れつちまつた のじゃショタに
今日もポーションの降りかかる
汚れつちまつた のじゃショタに
今日もドライヤーさへ吹きすぎる
ブォォォォオン。
「もうお嫁にいけないのじゃ……」
「男の子でしょ」
「大丈夫! 私が貰って上げるから!」
どうしてこうなった。
「しのっち、金髪ショタ王子とかストライクだもんねー」
「んふふぅー」
「猫男じゃなかったのかの……」
と俺が言うと「それはそれ」と返ってきた。
星野さんに後ろから抱きつかれ、頭にぷにょんがぽにょんする。
「いいなー。お持ち帰りしたいなー」
「あたしの抱き枕だからだめだぞー」
抱き枕じゃないが。
このあとめっちゃ両側から腕を引っ張られた。
わち、選ぶならそれを止めた南さんがいい……。




