47話:あれから俺はゲーム世界で金髪碧眼のじゃロリになって、小麦を育てていた。
あの日から一ヶ月が経った。
あれから俺はゲーム世界で金髪碧眼のじゃロリになって、小麦を育てていた。
「収穫なのじゃ!」
ゲームはゲームだ。俺ではない。
ファーミングプリンセスを終了し、パソコンの電源を落した。
季節は秋から冬へと移り変わり、朝の登校にマフラーと手袋が必要になった。
そんな中、胸元が開いたシャツで隣を歩く筋骨隆々な大男は一体誰でしょう。妹だよ!
妹は進化のポーションでゴリマッチョになった。着る服が少ないと嘆くものの、ゴリマッチョ化を受け入れていた。脳みそポジティブ筋肉かよ。
星野さんはウルファングさんにアドバイスを聞きながら、ケモ化生活をしていた。現状は受け入れがたいが仕方がないといった感じだ。俺に見せる顔に出さないだけかもしれない。
一番困った事になったのは北神くんだ。彼は北神家唯一の男子の跡取りである。家庭内で少し騒動があったようだ。北神エルフ自身は飄々としている。
俺以外の仲間たちはTSしたままとなった。
男に戻った俺は、クラスの立ち位置も元に戻った。
仲間たちは気にしないでと言ってくれるが、俺は責任を感じ心が痛む。
俺がダンジョンに誘い続けなければ、こんなことにはならなかったはずだ。
それと、なお人気者である彼らを見ていると、心がささくれていく。
俺だってのじゃロリに戻ればクラスの人気者の戻れるのに……。心が闇に呑まれていく。
「おーっすアズマ! 今日は突入メンバーだろ? 楽しみだなぁ!」
「はぁ……。ニッシーは悩みがなさそうでいいな」
「みんなそういうけどさ。本当に悩んでる奴は悩んでますって顔しないんだぞ」
その理論だとニッシーは悩み多き男子高校生になってしまう。
さて、部屋にダンジョンが失くなった俺は、ダンジョン部に加入した。
日々の走り込みと筋トレで筋肉が付いてきた気がするが、身近な比較対象が妹ゴリマッチョのせいで自分の身体はもやしにしか見えない。成長がわからん。
中庭ダンジョンは可逆帰還ダンジョンに変化したため、探索許可が下りた。
だが、中のモンスターが強いので、武器防具をしっかり準備することと、6人のフルメンバーで突入しなくてはならない。とはいえ、定員割れする事はありえないが。
放課後。頭に白いヘルメットを被り、肘膝にプロテクターを付け、胸当ても付ける。野球のキャッチャーのような格好だ。顧問の先生が鍵付きロッカーを開けて取り出したる武器は木刀である。
「今日はお前ら問題児が入るのか……? うっ……胃が……」
「先生は俺をなんだと思ってるんです?」
「考えなしに突っ込む馬鹿」
酷いのじゃ!
顧問の先生はうちの担任だ。大変だね。先生って。
ダンジョンに突入してオークを囲んでタコ殴る。たまに反撃されて怪我をするようなこともあるが、部活動なら怪我することくらいあるだろう。
ダンジョンを進む。宝箱を開ける。
ケンタウロスをみんなで協力して斃してダンジョンクリアだ。
しかしどこか虚しい。
俺が求めていたダンジョン生活なのになぜだ。
すっかり静かになった俺の部屋へ帰る。
部屋にはあの日持ち帰ったポーションがそのまま使われず置かれている。
妹も星野さんも、ゴリマッチョと猫男になってしまったから使う機会がなかった。
本棚もいつもどおりぽっかりと穴だけが空いている。
そして輝くレインボウパンティがぽつんと置かれていた。
どう見ても変態的だが、これも俺にとっては思い出の品なのである。
「うん?」
レインボウパンティの七色の光が激しく明滅しだした。やがてそれは白く光を放つ。
光はレインボウパンティを呑み込み、楕円形に形を成した。
「んああ!? ダンジョンだ!」
部屋にダンジョンができたら突入するだろう?
着替えも夕飯も後だ。もう我慢できねえ!
「いってきやぁーっす!」
ゲートをくぐるとそこは、真っ白い六畳一間の一室であった。
これ見たことある! 転生部屋ってやつだ!
「お前は何を望む?」
振り返るとそこには神がいた。
「ま、マッスル神!」
神はムキッとダブルバイセップスをした。
「お前の願いを叶えてやろう」
「神よ! 俺をマッチョメンにしてくれ!」
「違うだろう。お前の本当の望みは」
俺の本当の望み……?
そう俺の望みは――
「わちをのじゃロリ吸血鬼にしてほしいのじゃ!」
「わかった。お前の願いを叶えよう」
マッチョ神が俺の肩を掴む。
それにしてもこのマッチョ神、顔がハリウッド俳優である。
「妹よ。お前だったのか……ダンジョンを創ったのは……」
妹は静かに頷いた。
道理でいつも視線を感じるわけだ。まさかこんな身近な奴が神だったとはね。ははっ。
「そんなわけないだろう! しっかりしろお兄!」
「はっ!」
俺は目覚めた。妹はただの女子高生ゴリマッチョマンだ。
「うっかり信じてしまったではないか」
「お兄がピュアピュアすぎる」
それにしてもここは一体なんなんだ。
壁が真っ白なのは……テクスチャの貼り忘れ?
「はい! あたしわかった!」
「転生部屋とか言うなよ」
妹はウッとダメージを受けた。
くそ、妹と同じ思考をしていたか俺は!
「あれだよあれ。未完成なんだよきっと」
「未完成?」
あー、うーん?
RPGツクレーヨで、最初に真っ青な海が広がってる的な? これを何も始まらない永遠の状態から、エターナルの海と呼ぶ。ちなみに終わらない状態に陥った時のネットスラングの「エターナる」「エタる」の語源だ。
そんなことを妹に言っても「ふーん」としか気のない返事しか返ってこない。
「もしかして俺、早く入りすぎた?」
「やばいよ。あまてらすっちに怒られる前に出よう」
前から思っていたが、あまてらすっちはダンジョンに引きこもってるだけで、ダンジョン作者ではないと思う。
「もうちょっと調べてから……うん?」
「どしたお兄? うんこ?」
「うんこじゃねえよ」
白い壁を触ったら、ぷにゅんと手がめり込んだ。
「まるでおっぱいみたいだ」
「おっぱい触ったことあるのか?」
「ないが」
「触ってもいいよ。お兄ちゃん」
妹は谷間を寄せた。すばらしい胸筋である。
俺は無視して白い壁をぷにゅぷにゅと揉んだ。
「お兄の手つきがいやらしい」
「確かにこれは、開発中なのかもしれんな」
「お兄が卑猥な言葉でセクハラしてくるんだが」
「開発」を卑猥な意味で捉える女子高生こそ卑猥だ。
「ちょっと待てよ。ということは……」
「どした?」
「ちょっと静かに。まじで」
妹は静かに胸筋をピクピク動かし始めた。静かだが気が散る。
俺は目を瞑って集中する。
ダンジョンは人間の意識を読み取っているのは確かだ。そう考えないといくらなんでもおかしい事例が多すぎる。
すると、もしかするとこのダンジョンの卵は、無垢の状態。つまり何も意識が混じっていないと考えられる。
ならば、そこへ意図的に意識を伝えてみたらどうだろうか。
そうだ俺はダンジョンクリエイター。
今こそ俺はダンジョンを攻略する側から、開発する側となるのじゃ!
おっと、のじゃロリが思考に混じった。
「お、お兄!? なにこれ!?」
「うわぁあ!」
太陽を見た時のように、目を瞑っていてもまぶたが光を貫通し、視界が血の色で真っ赤へ変わる。
激しい閃光を、腕で網膜をガードする。
そして光が止んだ。
ダンジョン内なのに、清々しい風を感じる。
サササササと掠れる音と、土の香り。
「なんじゃあこりゃあ!? お兄何したの!?」
「何って……なんじゃ? なんじゃあ!?」
辺り一面に黄金色の麦畑が広がっていた。
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