44話:【コラボ企画】文化祭にできたダンジョンに潜入取材す!
「おはようございます。お待ちしておりましたウルファングさん」
「おはようす。ノースちゃん」
北神エルフがにこりと微笑んだ。
今日のメイドインダンジョンの開店はまずは準備中として、ウルファング中原さんの撮影が行われた。
と言っても、普通にダンジョン潜るだけなのでそんなに時間を取るわけではない。優遇というか、予約客扱いというわけだ。
狼耳おっぱい美女が色っぽい声色に合わない軽い口調で始まりの挨拶をした。
「どもーっす。おはファングー! ウルファング中原でーっす!」
おはファングて。
「今日はすねー、なんと、とある文化祭にお邪魔してるんすよねー! しかもすねー、今日はコラボ企画す! 一体どこのぽんこつのじゃロリ吸血鬼なんすかねぇー?」
ぽんこつ言うな。
「それではこちら入場剣をお持ちください」
北神エルフの受付は今だけのサービスだ。
剣は宝箱に入れ直すのが面倒なので受付で渡す事となった。
「おーう! これでモンスターを斃すんすねー! そうそう、今日はなんとダンジョンに潜るんすよねぇー! それじゃあ早速行ってみまファングー!」
行ってみまファングは流行らないと思う。
「おーっとぉ!? ゲートが閉まってしまったす!? これは不可逆ダンジョンすねー。不可逆といえばすねー、みなさんご存知かもしれないすけど、ウルファングも不可逆ダンジョンの生き残りなんすよねー。まあ一緒に入った仲間は死んだんすけど。ははっ!」
急に重いエピソードをさらりとぶっこんできやがる。
「それじゃあ行ってみましょう。この青い水晶の幻想的でいいっすねー。雰囲気でてるすわー」
ダンジョンの内装は北神ダンジョンが元となっており、テニス部の北神が中心となり張り切って制作された。下からのライティングで非現実的な雰囲気が作り上げられている。非常灯だけ付いてる真っ暗な地下室みたいなイメージだ。
「おっと、ゴブリンが出てきたすよー。それじゃあいってみますかー。ウルハウンド!」
ウルファングがそういうと、「ウオォォオオオン!」と狼の雄叫び、いや巨乳美人だから雌叫び? を上げた。
するとウルファングの右腕がもりもりと膨れ上がり、青い毛がもさもさと生えた。手も膨らんで爪が伸び、まさに狼の手だ。
だからもう肌寒い季節なのに半袖だったのか。
「フォームチェンジ完了す! さあゴブリンをやっつけるすよー!」
ってかこれ、ウルファング中原さんの能力か。
ビビっちゃってるじゃんゴブリン役の生徒! ああ、中身はニッシーか。じゃあいいや。
ウルファングは全力で爪で攻撃、なんてするわけもなく、アルミホイルダンボールの剣でずばっと切り裂いた。
「ぎゅへぇええっ!」
ニシゴブリンをあえなく撃退。
「ブルルルルッ!」
そして次のフロアでケンタウロスが現れる。
「おおっと! ボスが現れたぞー! そしてその隣にいるのはなんと! ティルミリシア=フィレンツォーネっすわー!」
「ふっふっふ。待っておったぞ勇者ウルファングよ! そなたにわちが斃せるかのぉ!?」
「え? 敵? 台本と違うす!」
わちはふわりと浮かび上がり、ケンタウロスの背中に乗った。しゃきーん! 究極合体!
ケンタウロスの四本足に二本腕、そしてわちの両手で四本腕! ちょうつよい!
負けた。
「うわ。ロリ吸血鬼弱すぎす」
「その腕は反則じゃあ……」
わちは狼化した右腕に捕まり、ぷらんぷらーんした。
「なんじゃその腕は。聞いておらんぞ……」
「すげーっしょ。てか台本破っちゃダメすよ。どうすんすかこの先」
「ふっ。よくぞわちを助けたのう! ではダンジョンから脱出するぞ!」
「急」
わちと巨乳ファングは出口に向かい、そして宝箱を発見する。
「おっ? 宝箱すねー。開けていいんすか?」
「どうぞどうぞ」
中には手作りクッキーが入っている。
「おークッキーす。これ昨日ティルちんが作ってたやつすか?」
「そうじゃぞー。ありがたく食らうのじゃ!」
わちは袋のテープを破り、クッキーを取り出し差し出した。
ウルファングはそれを口で受け取る。
ふむ。巨乳狼娘ちゃんを餌付け……。
「クリアおめでとうございます」
カランカラーン♪
北神エルフが鐘を鳴らす。
「いやー楽しかったすよー。みなさんはどうでしたー? 凄い完成度でしたすねーこのダンジョン。ほんとほんと。ってことで、今日はのじゃロリ吸血鬼ティルミリシアちゃんと、美エルフノースちゃんとのコラボでしたー。いやぁ二人のメイド服姿を眼福したすよぉ。最後にお二人にも一言ずつお願いす」
「チャンネル登録よろしくじゃぞー!」
「評価もお願いいたします」
「ってことで、さよならさよならさよならファングー!」
さよならファングも流行らないと思う。
73,810回視聴 2020/11/01 GOOD:2890 BAD:67
以上が【狼娘TOUYUBER】ウルファング中原★ちゃんねるに上げられた動画だ。
動画は好評で、わちが浮くところは「ワイヤーで吊ってるの!?」と驚かれた。まさか空飛ぶ魔法の翼があるとは思うまい。
さて動画はここで終わりだが、この後に一騒動待っていた。
「撮影終了。ご協力あざーっす」
ウルファング中原が手を振って別れようとしたところ、妹が慌ただしく駆け寄ってきた。
「うおーい! お兄ー!」
「なんじゃ騒がしい」
妹は息を切らしてやってきた。だがどうせいつものように大した用事ではないだろ。
「しのっちがダンジョンに呑まれた!」
「はぁ?」
ダンジョンなら今、ウルファングさんが出てきたところじゃが。
「中庭に急にダンジョンが出来て! しのっちがそこに入っちゃったの!」
「はぁ? ふぁああ!?」
え? マジもんの事件じゃん。
「それって戻ってきてないってことすか? 不味いすよそれ」
「だよなー!」
事故でダンジョンに入ってしまったとしても、普通はすぐに出てこられる。出てこないということはつまり、不可逆型だ。
「ひとまず行ってみましょう」
北神エルフの提案で、俺たちはその場から駆け出した。
メイド係は……南さんとニッシーがなんとかしてくれるじゃろ。
中庭に着くと人集りができていて、先生四人が輪を作り生徒たちを止めていた。
その中央には木が生えており、その目の前にダンジョンゲートが立っていた。
「先生! 星野さんがダンジョンに入ったと聞いて来ました」
「お? おう北神か。そうらしいな。星野ともう一人、竹林が入ってしまったようだ。戻ってこないからな、文化祭を中止して警察を呼ぶか考えているところだ」
それも仕方がないことだろう。
だがダンジョンゲートは開いたままだ。どうやら時間が経ってもすぐには入場制限が掛からないダンジョンのようだ。
「わちらが入って助けに行くのはどうじゃ?」
「おい止めろアズマぁ! これ以上、ダンジョン被害の生徒を出すわけには……うっ、胃が……」
今すぐ助けに行きたいが、その前にうちの担任の胃腸がやばい。
「生徒じゃなければいいんすか?」
ウルファング中原が俺の前に立つ。急に現れたおっぱい美女に先生の目は釘付けになった。
「ちょっと行ってくるすわー。警察は15分待っといて」
「え? あっ」
ウルファングは胃を押さえる先生の脇をすり抜けて、ダンジョンゲートに入って行ってしまった。
「うおおおい! 外部の人間がぁ! う……始末書……」
「せんせーせんせー。大丈夫じゃよ。彼女は強いからの。ちょっくらわちらも救出に行ってくるのじゃ!」
「え?」
ダンジョンができたら突入するだろう? いえーい!
北神エルフと妹も付いてきた。
しゅたっ。
「しのっちー!」
「ヒメちゃー!」
妹と星野さんが抱きしめ合う。そしてその後ろにいるのが竹林さんだ。
「う……ぐす……みんなごめんね……わたしのうっかりのせいで……」
どうやら竹林さんが出来たダンジョンに気づかずにするりと入ってしまい、星野さんが手を伸ばすも間に合わず一緒に呑み込まれたらしい。
不可逆帰還ダンジョンで戻るゲートが存在せず、竹林さんはうずくまって泣いてしまい、星野さんが慰めていたようだ。
「あたしらが来たから大丈夫さー! な! ウルファングさん!」
「おうっす」
妹はマッチョ状態ではないから戦力にならない。ぞろぞろとやってきた割りにはウルファングさん頼りだ。
そして妹はスマホを取り出した。ダンジョン内を撮影するようだ。
「こんな時にも撮影かの?」
「何言ってんの。情報残すのは大事でしょ」
とのことらしい。
「先に言っとくすけど、危なかったらみんな逃げるんすよ。おれが本気出すと危ないんで」
すっげえ自信ファングだ。右手だけじゃなくて全身狼化でもするんだろうか。しそうだな。
「それじゃ行くっすよー」
ダンジョンはシンプルな岩肌の洞窟。そして目線の上ほどの高さに洋灯が並んでいる。それらのガラスの中には魔法のような火の玉が浮いている。
最初の小部屋から通路に入り、次の部屋に着くと現れたのは豚人だった。ダンジョンで出る敵としてはかなり強いほうだ。もし星野さんと竹林さんが出口を目指していたら危険だったであろう。
ウルファングさんが狼化した右腕でオークを切り刻む。スプラッタグロ動画となったあと、血や肉片は光となって消え失せる。
その先の部屋には宝箱があり、中にはレイピアが入っていた。これは北神エルフが装備する。
ダンジョンの構造は一本道であった。これはダンジョンの中でも迷宮型と呼ばれるタイプだ。そのままだがラビリンスは一本道の構造だからだ。
その先にオークが3匹ほど現れたが、ウルファングと北神エルフが余裕で仕留めた。わちも宙を飛び、そのうちの一匹に頭に蹴りを入れた。
「そろそろ10分くらいすよね。ボスが近いすよ」
「やっぱボスがいるのかのう?」
「こういう構造は大抵いるすね」
いた。
「はは! 出し物のダンジョンみたいにケンタウロスっすよ! 助けるメイドさんはいませんすけどね」
「ここにいるじゃろ」
わちはふふーんと胸を張った。わちと北神エルフはメイド姿だ。
「それじゃあ守らないといけないすねー!」
しかしそれにしても洞窟にケンタウロスか。合わないな。メイドインダンジョンでの企画でも「おかしくない?」と思ったけど、実際に出るものなのか。
いや、もしや因果関係が逆か。ダンジョンの方が真似をした?
「ちょっと本気出すっすよー」
「わちもやるのじゃー!」
わちはぎゅいーんと宙を飛んで回り込み、その背中に乗った。
馬のたてがみはがっつり掴んで引っ張っても平気だが、ケンタウロスの上半身は人間だ。後ろから髪の毛を掴んで引っ張ってやると、首が上を向き、駆け出した足が止まった。
その隙に両手を狼化したウルファングがケンタウロスの両腕を切り裂き、北神エルフがレイピアで胴体の心臓を一突きした。
ケンタウロスは身体を硬直させ、そのまま横向き倒れ、光の粒となり消え去った。
「クリアじゃー!」
ケンタウロスはポーション瓶を落した。
「なんじゃこれ」
「ポーションだー!」
女子二人が盛り上がるも、ポーションの中身は血のように赤い。
「増血ポーション。飲むと血が増えるようです」
「なんだーいらねー」
「え? 結構よくない? あの日とか……」
おい女子二人! せんしちぶな話はやめんか!
そして無事脱出。
「お騒がせしたのじゃー!」
わちらが戻ると、担任はその場にうずくまった。
今回の被害は担任の胃潰瘍が悪化だけで済んだ。クリアされたダンジョンゲートの黒もやは消え去り、その後の文化祭は中止にならず決行された。
わちは事態が落ち着くまで美術部へ逃げ込んだので、のじゃロリコーナーを見ることができた。北神エルフと妹マッチョがモデルの絵画も混じっておる。そしてそれを写真印刷したポストカードと七宝焼を貰った。それらが美術部の販売品のようだ。
文化祭は無事に終わり、メイドインダンジョンはクラスの出し物三位を取った。
そして文化祭から一週間後。我が校にダンジョン部が設立されたのであった。




