43話:メイドインダンジョン -Maid in Dungeon-
そして2週間が過ぎ10月31日、土曜日。文化祭の日となった。
今日は一般入場はなく校内生徒だけの日だ。
「はぁはぁ……ティルちゃんのメイド服姿かわいいよぉ……」
わちの着替えを手伝う女子生徒から危険を感じる。その筆頭が星野さんなのじゃが。
そしてわちはふりふりで行動が謎のメイド服姿となった。
といっても本格メイド(いやふりふりの時点で本格もないが)というわけではない。時期的なこともあって、身長が130cmほどのわちの衣装は、子供のハロウィンコスプレ用である。二の腕辺りが丸見えの袖が別パーツになってる腋見せの謎構造だ。
「ティルちゃんのつるつる腋……じゅるり」
「落ち着くのじゃ、しのお姉ちゃん」
星野さんの残念女子が漏れてしまっているが、他の女子もこれと大して変わらない状態になっていた。わちのかわいさが罪すぎる。
「飛んでみて! ちょっと飛んでみて! 下から覗くから! 写真撮るから!」
「盗撮の意思を少しは隠せなのじゃ! す、少しだけじゃぞ」
わちはミニスカワンピースの状態でふわりと教室で宙に浮いた。
そう。なんとわちは空を飛べるようになったのじゃ!
といっても、能力が開眼したとかそういうわけではない。背中に付けた黒いコウモリの翼。これをダンジョンでゲットして持ち帰ることができた。そう、この装備の効果である。「飛ぶ」と念じると翼がパタタと羽ばたき、わちの身体がふわりと地面から離れるのじゃ! しゅごい!
ただし空を飛ぶとお腹が減るので長くは飛べない。がっかりである。
パシャパシャパシャパシャパシャ。
わちの公認盗撮が軽く行われたところでふんわりティルちータイムは終了。
「今日のティルちゃんは透け透けおぱんつだとぉ!?」
セクシーティルちーに震えるがよい。
「隊長! これは危険では……?」
「私は良いと思う」
「よき」
「よきかな」
女子首脳陣の許可が出たものの、「男子には見せられない」と話しは難航。その結果、ティルミリシアの担当は女子生徒だけを相手するという話しになった。
ところで朝にこれを穿かせてきたのは妹だ。
さて、我がクラスの出し物、メイドインダンジョンはこのような構造となった。
・ダンジョンゲートを模した入り口。黒いセロファンののれんが掛かっている。
・ダンジョンに入ると扉は閉められてしまう。非可逆帰還のダンジョンだ!
・最初の部屋にはいきなり宝箱が置いてある。中にはアルミホイルを巻いたダンボール製の剣が入っている。
・先の通路を進むとゴブリンマスクをしたモンスターが現れる。
・そして部屋の中のメイドさんを救出。
・馬のマスクを被ったボスのケンタウロスが出現!(演じる二人の係の負担がちょうでかい)
・メイドさんと一緒にダンジョンを脱出してクリア!
・最後にメイドさんからお礼の手作りクッキーが渡される。
お化け屋敷みたいに驚かせる仕組みはないけど、演じるメンバーが最低4人と受付1人は最低限必要なので大変だ。
そしてメイドメンバーは、ティルミリシア、北神エルフ、南さん、ニッシーの四人だ。ニッシーはハズレ枠すぎる……。
一応、我が校一の美人と謳われている星野さんもオブザーバーで参加する。星野さんは美術部がメインだからごく短い時間だけの参加だ。
そして最初の女性客がやってきた。マイ妹である。
妹のクラスの3人を引き連れて、両手に発泡スチロールの斧を持ったケンタウロスと対峙し退治する。妹よ。パンチはあかんで。馬が壊れる。
「わちを助け――」
「ティルちー! 助けに来たぞー!」
「ヒメちんの妹さんきゃわわ!」
「ティルちゃん動画観てるよー!」
「写真撮って良い!?」
セリフ言わせろなのじゃ。
わちはおぱんつが見えない程度に浮かび上がる。
「すげー! 浮いてるのじゃ!」
「さすが吸血鬼じゃ!」
「待って! 動画モードするから待って!」
「騒がしいのう、人間どもよ。いいからここから脱出するぞい」
わちは女子生徒に囲まれながらダンジョン(教室)を進み、後ろのダンジョンゲート扉から出た。
「クリアおめでとー!」
受付で鐘がカランカランと鳴らされた。これはダンジョン内の人への合図でもある。
そして受付からクッキーの袋が渡され、それをわちが四人に配る。
「お礼なのじゃ」
「わーいありがとー!」
「隣のクラスに遊びにきてねー!」
わちは四人にぎゅむっと抱きしめられた。お触り禁止なのじゃ!
あ、忘れずに剣も回収じゃ。
そして妹が当然のように、ボスへの疑問を聞いてきた。
「ケンタウロスなのになんで馬のマスクしてんの? あれいらなくない?」
「担当が買ってから気づいたらしいのじゃ」
「悲しいな……」
さて、メイドインダンジョンは好評を博した。入場待ちの列が作られ整理券が配られるほどだ。無理もない。一巡に結構かかる上に一度に5人までの入場制限だ。メイド係も二人一セットで回転する。
なんと言っても人気の原因はエルフメイド北神である。エルフメイド北神が手渡しで手作りクッキーを渡す光景を観て「俺も俺も」と入場していく。だが、次に一回交代で待ち構えているのはニッシーメイドである。
もうこうなってくると、俺も女性客だけを相手とか言ってられない。ちんちくりんでがっかりされるが驚きの浮遊演出を見せるので勘弁して欲しい。
そうそう文化祭と言えばもう一つ。俺の漫研のノルマだ。
ほぼネーム状態だがなんとかギリギリ提出した。マッチョとのじゃロリの冒険譚プロローグである。妹マッチョがダンジョン内のティルミリシアを助けるシーンでは、メイドインダンジョンをパク……げふんごふん、ネタにしてボスにケンタウロスを描いた。
合同誌は一つの冊子となり、それを開いた時もうちょっと早くから描けば良かったなと後悔した。だけどちゃんとこのように形となってとても嬉しい。
暇つぶしになるように、うちのクラスの受付に置いておいたが、受付係にこれを開くような暇はなさそうだ。
「おつかれさまー」
「おつかれー」
大きな事件もなく、文化祭一日目を終えた。残念なことといえば美術部を覗きにいく余裕がなかったことだ。
出し物の課題としてはニッシーメイドが不人気すぎること。南さんの水色の髪色で驚かれること。北神エルフが人気すぎること。わちがちんちくりんすぎること。
待て、わちの身長はどうにもならんぞ!
それとボスのケンタウロス係が大変すぎるのも問題となった。途中から馬のマスクは脱ぎ捨てていた。あと斧が壊れたので修繕も必要だ。
人が来すぎてクッキーが無くなり、明日に向けて各自量産が必要なのも問題だ。
「ほら混ぜて! 伸ばして!」
「んああ……」
家に帰ったわちは白い粉だらけになりながら、星野さんと南さんと一緒にクッキー作りだ。
妹はアップロードする動画用の撮影である。そもそも隣のクラスで関係ないしな
ちなみに妹のクラスではボールと風船を詰めたやつをやっている。小さい子供が喜びそうなやつ。わちか? わち狙いか? 遊びにいったらめっちゃ女子にわちゃわちゃされた。そしてメイドスカートの中を覗かれた。やはり人類は滅んだほうがいいかもしれん。
「棒状にして! 切って! 重ねて! ラップで巻いて! 冷蔵庫入れて!」
プレーンとココアの市松模様を作るらしい。わちは指示通りに動く。
そして生地を寝かせるために30分休憩。ふいー。
紅茶を飲みながら文化祭の話で花を咲かせる。
「そうそう。ウルファング中原は開門の9時に真っ先に来るからよろしくなー」
「わかっておるわかっておる」
ウルファング中原は狼耳美女TOUYUBERとなった。狼男として元々話題の人であり、さらに巨乳美女化して乙女ファング中原はバズった。チャンネル数は一気に銀盾の登録数10万人まで伸ばし、今や時の人だ。
彼の狼娘チャンネルで宣伝動画を上げてくれたおかげもあり、わちののじゃロリ吸血鬼チャンネルも2万人まで伸びている。凄いのじゃ。
そんな彼が、メイドインダンジョンに撮影にやってくるという。そしてわちとコラボ動画とするそうだ。がくがくぶるぶる。
もちろんクラスのみんなにも話は通してある。いつも突発な妹もちゃんと段取りがつけられるようになったのじゃ。
「ほら切ってー! 焼いてー! うーん。絵面が弱いなぁ。ちょっと爆発が欲しい……風花ちゃんを呼んで……」
「やめっやめるのじゃ!」
クッキー作成動画に見どころはいらん!
ほぼノー編集(寝かせてる時間はカット)の動画はその日のうちにアップロードされた。
「文化祭で手作りクッキーを配るのじゃよー」
と言ってしまったせいで、『どこの小学校!?』と質問が沢山ついてしまった。
小学校じゃないのじゃ。
※バズる:BUZZ。急激に話題となること。
※銀盾:登録数10万人で贈られるトロフィー。




