39話:ウルファング中原のおすすめチャンネルす
要するにこういうことだ。
変身ダンジョンをクリアして元に戻れなくなった狼男は、戻る手段を探していた。
星野さんの「ダンジョンに入れば良い」のセリフを思い出した妹が、TMITTERで狼男さんに連絡。
TOUYUBEの動画を観せて、うちのダンジョンの事を教えた。
「どこまで話したのじゃ?」
「えーっと、ほぼ全部? やっぱまずかった?」
さすがの妹も事後承諾になったのはやっちまったかなーと思ったようだ。
「人助けだと思って連絡したのじゃろ?」
「うん」
「それじゃあ助けてやらねばのう」
「だよね!」
ダンジョンで姿が変わってしまった辛さは俺にもよくわかる。
のじゃロリ幼女となった俺は、翌日再び朝から女子の玩具にされた。しかも透明パンティーだ。激写された。もうお嫁にいけないのじゃ……。
狼男の事はみんなに伝えた。ダンジョンクリアにはみんなの協力が必要だからだ。それに、一発クリアを目指したい。
帰宅後のダンジョン探索は俺と南さんが元に戻るために一日使った。南さんは事情が事情なので頼むような事はしていない。むしろ「協力したい」と言われ俺は断ったのだが、「友達……」と寂しそうに言われて押し切られた。
南さんがいればスライム確殺なので、もう怖いものはない。
攻略は全員が能力の使える変身後の姿である。
そして全力一発攻略を目指すのでアイテムを持ち込む。以下、持ち込むアイテムと道具だ。(ポーチや鞄などを除く)
俺:メモ帳、ペン
妹:【青銅の剣】
南さん:【雷の魔導書】、【爆発の杖(3)】、カロリーブロック(食料)
北神エルフ:【風の魔導書】、【弓(矢筒と矢セット)】
星野さん:【遠投の腕輪】、【混乱の草】、100均包丁
ミノタウロスの斧は持ち込むか迷ったが、もし失敗したときの予備としておくことにした。いやまあ平気だろう。油断とかでなく。
唯一の問題は俺がやくたた……げふんごふん。コウモリを使役するくらいしか能がないことだが、コウモリちゃんは役立つので問題ない。
黒いフードを被った黒コートの190cmほどの背の高い男が現れた。ちょっとダンジョン探索にファンタジー心を揺り動かされてしまったファッションというわけではない。その狼男の風貌を隠すための姿なのだろう。この格好はこの格好で目立つのだが、剥き出しよりはマシということなのだろう。
「始めまして。中原す」
そう言って中原さんが差し出した手は、掴むのを戸惑うほどに犬だった。
俺と妹と北神くんは軽く挨拶をして、早々に車に乗り込んだ。彼は立っているだけで目立つからだ。
「すごい車すね」
「はい。こちらの友人の協力なんです」
「色々すんません」
狼男の中原さんとはぎこちないまま車内で会話した。彼は背を丸めて座っている。
彼は大学生とのことだ。
ダンジョンの事はすでにネットで話しているので、再確認として俺は釘を差しておく。
「すでに伝えていますけど、人間に戻れるとは限りません。むしろ今より目立つ姿になるかもしれません。そこは覚悟しておいてください」
「理解してます。それでも希望があるなら、戻りてえす」
「ただ法則性みたいなものはあるので……。妹よ、これってもう伝えた?」
「うんにゃ」
妹は首を振った。
「ええと。確実というわけではないんですけど、今まで俺たちは6人TS……じゃなかった変身を経験しているわけなんですけど、全員の性別が入れ替わってます」
「それは聞いてるす。狼男よりは女になった方がましす」
そういうもんかなぁ。人外と女性化。どちらを選べと言われたら、きっとどちらかになった事がないとわからない選択肢なのだろう。
いやまて、俺はロリ吸血鬼になってるからどっちも経験してるのか……?
「2つ目として、全員がサブカルやエンタメといったものを元に変身しています」
「なるほど……。ではオレもこの姿のまま女になるという可能性もあるってことすね」
そうなのだ。狼男も元は伝承であっても、多くは物語のキャラクターだ。その範疇であるから、狼化が嫌で再変身するのに、さらに女性化するという悪化するパターンもありえなくはない。
「でも3つ目のパターンとして、それはまずないと思います。変身は『憧れ』に対して反応します。中原さんは普通の姿や生活に憧れていますよね?」
「そうすね。狼男が嫌だから来たんすから」
今まではみんな目立つ姿のパターンが多かったが、今回はもしかしたら地味な変身パターンとなるかもしれない。
「もしかしたら強くイメージすれば、成りたい姿を選べるかもしれません」
「どんな姿になりたいの? ウルファングさん」
ウルファングさん? どうやら中原さんのTMITTERネームらしい。あれ? 狼男が嫌と言いながら結構ノリノリな名前付けてね?
「そうすねぇ」
ウルファング中原はすっと目を閉じた。
「胸が大きい女すかね」
やめろウルファング中原! その答えは妹に敵対的言動に思われるぞ!?
(※ウルファングのネーミングはSE●Aとは無関係らしい)
さて、部屋に着き、挨拶もそこそこに、俺たちはダンジョンへ突入した。
「TSローグライクダンジョンへようこそ」
さてウルファング中原はどんな姿になったかというと、切れ長の目の巨乳の狼耳の妙齢美女であった。
その姿を見て一同「ええ……」という感想であった。狼から抜け出せてない……。
「ええと、中原どの……どうするのじゃ?」
「すばらしいす」
あ、喜んでる。いいんだ……。
「狼要素が抜けて無いのじゃが、良いのかのう」
「鼻マズルの毛むくじゃらじゃなければなんでもいいす。もしかしたらそこが願いで出たのかもしれないすね。『せめてケモミミ程度だったら』と思っていたんで」
なるほど……。星野猫人もめっちゃ頷いてる。
もふもふは触って楽しむもので、自分がなるものではないと……。
星野さんは一日しか猫人でリアル生活をしていないはずだが、相当不便だったようだ。
中原さんと星野さんが「翌日のベッドの抜け毛凄いよね!」とか獣人あるあるネタで盛り上がっている。二人以外会話に入れない世界だ……。
「中原どのがいいならそれで良いのじゃが……。女子になったのも構わぬのか?」
「人外のまま生きていくよりはマシすよ。それに顔も少し男っぽくもあるし、男装するんで」
いやそれにしては、その大きいおぱーいが邪魔だと思うのだが。
いいのかそれで……いいのか?
さてはて。攻略はヌルゲーである。
ウルファング中原の能力の検証もなしで、全力でチュートリアルダンジョンを進む。
星野さんが感知し、使役コウモリを囮にし、北神エルフが弓矢を、南さんが電撃魔法を、妹マッチョが剣を振り回す。
負ける要素がない。これ、新規の人を連れ込んで全力攻略美味しいで。来週は北神妹も巻き込もう。
「勝ったな! がははっ!」
負けフラグ? そんなものは今の俺たちには存在しない。
ボス戦の雑魚を正面から排除。ボスのミノタウロスもかなしばりの杖で動きを封じた。
「たこ殴りじゃあ!」
身体を痙攣させて棒立ちのミノタウロスに電撃魔法が撃ち込まれ、全員の攻撃がミノタウロスの身体を切り刻む。そして妹がその首を刎ねた。
「とったどー!」
そしてミノタウロスからは上級ポーションのドロップが! 時価100万超えるとか。すげえ……。わち金持ちじゃ……。でも使うんだろうな。女子二人(マッチョ男と猫男)が両手を取り合ってキャッキャはしゃいでるし。
「ありがとうす。君たち」
「いいってことよー!」
妹マッチョが乙女ファング中原の背中をばしばしと叩く。おい、誤って殺すなよ?
今回のアイテムの中にはなんと追加の魔導書があった。北神妹にプレゼントできる! ちなみに爆発の魔導書だ。なんか爆発物多くね?
「それじゃあ、死ぬとするかのう」
乙女ファング中原が「え?」という顔で振り向いた。あれ? 言ってなかったっけ?
「そこを通るとクリアになって、このままの姿で戻ってしまうのじゃ。だから自決が必要なのじゃ」
「ティルちーはクリアしようね」
なん……じゃと……?
明日は日曜日。撮影か。また撮影か!
ということは北神エルフもじゃな? 巻き込んだ。
「じゃあの。妹よ。星野さんよ」
「痛くないように頼むぜ」
「よし死ねぃ!」
「あれ? ちょっと感情入ってないお兄?」
そして手を下すのは俺ではなく南さん。だって南さんの雷が一番火力が高くて確実なんだもの。
南さんはおどおどとしながら手を下した。強か乙女になったのう。
「え、ええ……」
この光景にドン引きする乙女ファング中原。まあそりゃね。
少しトラウマになってしまった様子。「本当に生き返ってる良かったす……」と部屋に戻って安堵していた。
すまぬことをしたのじゃ……。
「もう遅いですし、良かったら泊まっていってもよろしいですよ」
と北神エルフが誘ったが、乙女ファング中原は「これ以上世話にはなれねえす」と断った。北神エルフが超絶金髪美エルフすぎたせいかもしれない。
美人局とかじゃないよ?
「今日はありゃーしたす。これからのTOUYUBER活動応援してるすわー。宣伝しとくす」
は!? そういえばTOUYUBERのチャンネルを知られているんだった!
ウルファング中原は、狼男としてブログ記事で注目されるほどの著名人であった。そんな彼が突然、脱狼男して狼ケモミミ美女に変身したのだ。乙女ファング中原はその持ち前の巨乳でさらに注目を浴びることになる。
そんな彼がのじゃロリ吸血鬼チャンネルを紹介した。わちとの記念撮影と一緒にじゃ。
そして一夜にして、チャンネル登録数が5000人を超える勢いで増え、わちは注目を浴びてしまったのじゃった……。




