38話:セクシーティルちーですまない……
さて、妹が現実でマッチョになってしまう軽いトラブルが合ったものの、次の日の火曜日は無事に過ぎ去った。
もちろんセーラー服登校の愚行はもうやらかさない。やらないからな。渡してきてもやらんぞ。
その日のダンジョンは妹が元に戻って終わった。
「ところで妹よ。トイレはどっちを使ったんだ?」
「ふっ、愚問よお兄。わちは女じゃぞ?」
わち言うな。マッチョが。
水曜日。木曜日のテストはそこそこ出来たくらいで過ぎていった。
「開・放・感ッ!」
木曜日の放課後。テストが終わったので部活動が通常に戻る。
2週間後に文化祭があるから、準備も慌ただしく始まった。
俺はこそこそと漫研に顔を出す。
「へへへ先輩。もう少し待ってくれませんかねぇ」
「言っておくぞアズマ。プロの週刊連載だってアシスタントが居て成り立ってるんだ。締め切り2週間の今でまだネームが上がってないということが、どういうことかわかってるよなぁ?」
「もちろんですとも先輩。じゃああっしはこの辺で」
すたこらさっさー!
俺だってやる気はある。ネタもアイデアもある。本気を出せば書き上げられるさ!
よし書くぞティルミリシア冒険譚! ロリ吸血鬼であるティルミリシアがダンジョン攻略をする物語である!
実体験で書けるからサクサクできるぜ……なんて思っていた時期が俺にもありました。
現実を元にして書くとさ、マッピングしかしてねえんよ俺。笑っちゃうね。ネタにならねえ!
いつものように部屋に集まった4人の前で、俺は白紙のB5コピー用紙を広げうーんうーんと唸る。
「どうした兄よ」
「妹よ。かくかくじかじか」
「なるほどな」
俺は漫画のネタが書けない事を切実に話した。
「安心しろお兄。ビッグアイデアがある」
「なんだと!?」
「ティルちーを主人公にしづらいなら、あたしを書きな!」
「なんだと!?」
なんということでしょう。
ロリ吸血鬼漫画が妹の手によってハリウッド系マッチョが暴れるダンジョンモノに大変身!
「そしてダンジョンで迷子になって泣いてるティルちーをあたしが救い出す」
「ロリ吸血鬼漫画とは一体……」
ヒロイン尊厳破壊漫画ができあがった。
だめだ……マッチョの性能が高すぎて活躍できん……。
それはさておき、今日もマイダンジョンへ。ちなみに南さんは彼女の意向で部屋でお留守番である。
昨日の探索は4階で普通にやられてしまった。4階の穴掘りワームと鎌ゴーストやべえ。
昨日と同じようにダンジョン内で俺はロリ吸血鬼になるので、豆柴山賊に噛み付いて使役した。他に使役できそうなモンスターがいない。ミイラとか噛みたくないし。干からびてるし。
でもこいつ、あまり使えないんだよな。
そういうわけで、順調に3階に着いたところでとんでもねえアイテムを拾ってしまった。
「これは、白紙の巻物だそうです」
「白紙じゃと!?」
その名の通り中身が何も書かれていない巻物。そのまま使っても効果はないが、書き加えることで好きな効果の巻物となる。
「持ち帰ってゴキブリにジェノサイドしようぜ!」
妹がとんでもない発案をしだした。ジェノサイドはその種別をこの世から消し去る効果だ。
「気軽に生態系破壊しようとするでない」
日本の東北以南で漏れなく嫌われているゴキちゃんは不快害虫である。その名の通り、害を為す虫ではなく、不快なので害虫扱いされているかわいそうな奴である。人間の住処に居着くのがごくわずかであり、多くのゴキちゃんは野山で静かに暮らしている。絶滅させるなんてとんでもない!
でも、ゴキちゃんは本物のやべえやつであるムカデちゃんを呼び込むので、やはり死すべき。
「それにゴキブリよりも蚊を滅ぼすべきじゃ」
この世で最も人間を殺す生物。蚊こそ死すべき。
「そもそも帰還を手に入れないと持ち帰れないでしょう」
という北神エルフの発言で、がっかりしたあと閃いた。
「そうか。帰還として白紙を使えばいいのじゃな! 今回のドロップはなんじゃったかのう?」
「んーポーションはないよー?」
女子二人の興味はポーションだけだった。武器とか増えても確かに困るのじゃが。
【こんぼう】
【革の盾】
【灯りの杖】
【耐冷の指輪】
【呪われた透き通るパンティー】
【解呪の巻物】
【白紙の巻物】
なんでパンティー毎回出るの? しかも今回は透明だし呪われてるし。解呪の巻物で呪いを解けと? そういうセットなの?
「今帰っても今回のお宝は耐冷の指輪くらいかのう。効果の程はわからぬが」
「わたくしの雪山ダンジョンで試してみたいですね」
あ、北神エルフが指輪を狙っておる!
「もう少しアイテムを探してみようぜ!」
妹マッチョがそう言って歩き出した途端、爆発が起こった。
その衝撃でわちは床をゴロゴロと転がった。
「ごほっ、一体なんじゃ!?」
「罠があったみたい!」
「なんと!」
星野さんがすぐに原因を床のスイッチと突き止めた。
妹の姿は見えない。爆発霧散してしまったのだろうか。妹が爆発した。
しかしそれにしても罠か。やはりあるのかそういうものが。しかもいきなり即死級のトラップか。
こんぼうと革の盾は妹が装備していたため、妹の身体と共に消し飛んだようだ。
「アズマさんの力がないとこの先は厳しいと思います」
「うんうん。私だけじゃ不安だよ。爆発するかもしれないし……」
「そう、じゃな」
帰還を決断するときか。
「じゃあティルちゃーよろしくね」
「死んでまいります」
え、ちょっと。
え、あっ。
『フレッシュミィイトッ!!』
白紙の巻物に急いでペンで「きかん」と書いて、「きかーん!」と叫んだ。
身体が光り輝き、意識が薄れる。
「また幼女に戻ってしまったんじゃが!」
「おかえりー」
星野さんに抱きかかえられながら、戦利品アイテムを床に広げる。
妹はその中から透明パンティーを拾い上げた。
「なんじゃ? 興味あるのか?」
「ティルちーに履かせてみたい」
なん……じゃと……?
わちはすでに星野さんに捕まっていた。逃げられない!
「ぬあああ!」
「ぐへへへへ……」
「ふひひひひ……」
わちは汚されてしもうた。呪われてしまった。
「どうよ! 呪いのパンティーは!」
「んぐ……脱げぬ……」
呪いアイテムの検証させられてしまった。がっちり肉に噛み付くように、まるで皮膚と一体化した感じだ。
「一生すけすけおぱんつで過ごすと良い」
「解呪があるじゃろ……」
うにゃむにゃんにゃ。穿いていた呪われた透き通るパンティーが光り輝き、普通の透き通るパンティーとなった。なんだよ普通の透き通るパンティーって。
「灯りの杖は次回普通に持ち込んで使えば良いな。耐冷の指輪は北神が欲しいのじゃろ?」
「貰っちゃっていいのかな?」
「どうぞどうぞ」
「どうぞどうぞ」
おや? 女子二人に意外と執着がない。
「その代わりまたポーション頼むぜ!」
「よろしくねー」
ああ、ぶれてないだけだった。
「効果の程はわからないけど、釣り合わないんじゃないかなぁ。あっ、指輪が高価過ぎる方の意味でね」
確かに装飾品として普通に価値が高そうだ。付いてる宝石はサファイアか?
なるほど。女子二人が欲しがらない理由もわかる。女子高生には分不相応だ。付ける場面が無さすぎる。現金化するくらいなら北神くんに渡した方が有益だ。
「ねーねー。これも魔法のアイテムなら南さんでも鑑定できるのかな?」
「どうかな?」
「あっ、はいっ……」
北神くんに指輪を渡されて照れる南さん。うーん。いけない場面に見えてしまうのじゃ。
「何か見えた?」
「ええと、はい。『雪山でパンツ一丁でも安心』と文字が浮かび上がっています」
「へえ! 南さんの能力だとそこまでわかるのか!」
なんと! どうやら南さんの能力だと、北神くんの能力より具体的に効果が見えるようだ。
というか、効果の説明具合がなんというか、妙にピンポイントというか。「雪山での効果」を調べたって感じになったのかな?
「ねえねえそれじゃあ透明パンティーは?」
「え、あっ、うん……」
妹に余計な事を言われて、南さんは照れながらそっと俺のお尻に手を当てた。恥ずかしいのじゃが。
「何も見えない、です」
「そうなのか。やはり見えるものが違うようだね。僕には『色気が上がる』と見えてたよ」
「なんじゃと!? セクシーなわちが爆誕していたじゃと!?」
なんてこった。俺は透明パンティーによって色気がアップしていたらしい!
色気というか、変態っぽいんじゃが。
「セクシーティルちーですまない……」
「ちんちくりんだが」
さて、今日の探索も無事終わって解散した。
……いや無事?
またティルミリシアとなってしまった俺は、寝る時に妹のベッドに連れ込まれた。
「やはりちょうど良い抱き枕感……これがないと安眠できない……」
「普通に枕を買えなのじゃ」
抱き枕にされることはとうに諦めているのだが、俺が男の時に舌打ちしながら「枕に変われ」と言ってくるのは止めて欲しい。枕じゃないのじゃが。
「そうそうお兄さー。土曜日暇っしょー?」
「暇じゃが」
「土曜日にさー、この前話した狼男がうちに来たいって。いいよね?」
「は?」
待て待て。色々話しが吹っ飛びすぎじゃないか?




