37話:なぜ俺はここにいるー!?
「なあなあ聞いてくれよアズマぁ!」
登校から席に着いた後、真っ先にやってきたのはいつものニッシーだった。
「今日の俺はいつもとは違うぜ!」
いつもとは違ったらしい。
「なんだと思う? なあなんだと思う?」
「どうせフォールンガイズで一位取ったとかだろ」
「ちげーよ! テスト前日でゲームなんかしねえよ!」
なん……じゃと……? ニッシーみたいな馬鹿がゲームしてないだと……?
「聞いて驚け! なんと俺は昨日、勉強をした!」
「うわーすごーい」
そういえば、勉強しろって命令してたな。
こんな下らない会話ができるのも、今日は女子たちが静かだからだ。流石にテスト期間に囲んでくるようなことはしないらしい。ほっとした。
「おしっこー」
「おう」
ニッシーは男だから、女子と違って連れトイレにやってこない。なぜ女子高生は群れるのだろう。
わちはスカートからパンツを下ろし、便座に座った。ふいー。なんでテスト前の緊張するとトイレ行きたくなるんだろう。
用を足して個室の戸を開けると星野さんがいた。星野さんもおトイレか。やほー。
なぜか星野さんが驚愕している。
「どうしたのじゃ?」
「どうしよう。私なんて言ったらいい?」
わちは手を引っ張られて洗面所の鏡の前に立たされた。
ふむ? わちが男になってるのじゃが?
「なぜ俺はここにいるー!?」
「ごめんアズマくん。私にはヒメちゃんみたいに上手くツッコめない!」
俺はセーラー服を着て女子トイレに立っていた。
通りで奇異の目で見られると思ったわ! くそ! ティルミリシアの銀髪ロリの奇異の目で見られる事に慣れすぎて気が付かなかった!
妹がなんか余所余所しかったのもそのせいか! 急に「一緒に登校して噂されたら恥ずかしいし……」なんていつの時代のヒロインだよみたいな事を言い出したと思ったら!
「俺はどうしたらいいと思う。星野さん」
「とりあえず女子トイレから出るべきじゃないかな……」
こんな言い訳不能のパーフェクト変態に成り下がった俺に優しくしてくれる星野さん。まじ天使。星野さんが連れ添ってくれなかったら今頃家に駆けていたね。
「大丈夫。みんなわかってるから」
うんうん。そうなのじゃ。ちょっとのじゃロリが癖になってただけなのじゃ。
「アズマくんがそういう性癖なんだって」
「いや、ちげーから!?」
星野さんが聖母のように微笑んだ。俺は泣いた。
もうどうしようもないので俺はセーラー服のまま教室へ戻った。スカートの中の女性もののおぱんつだけは絶対に見られてはいけない。
そもそもニッシーはなんだったんだ。何事もないかのように女装の俺に話しかけてきたぞ。もしかしてまだ使役の効果が残ってて、俺に逆らわないようになっているのか?
「そういう趣味なんだろ? 俺は否定しないぜ」
キラン。ニッシーの歯が朝日に輝く。
ぶるり。悪寒がした。
そこは否定しろ。というかツッコミを入れろ。そうすれば身体を張ってウケ狙いしたバカになれただろ俺。それはそれで辛い。
せめて俺がもっと美形だったら……。俺じゃなく北神くんなら似合いそうだし……。そうだ!
「北神くん。制服を交換しないか」
「え? 嫌だけど」
MISSION FAILED.
俺は今日半日のテストをセーラー服で過ごす事が決定した。
テストはなんとかこなした。脳内のじゃロリ化して心の痛みを受け流すことも考えたが、勉強内容が吹き飛ぶ可能性があるので俺はなんとか耐えた。まあ慣れればセーラー服で過ごすくらいなんともない。ここ最近ずっとセーラー服だったしな。
星野さんがLIMEグループで俺の状態を知らせてくれたおかげで、俺のセーラー服状態は騒ぎにならなかった。生暖かい目で見られた。
「大丈夫。ちゃんと女の子の姿をするのが好きだってみんなに教えといたから」
「んんんん!? ちょっと違うぅッ!」
「え? だって、女の子になることに憧れてたって言ってたでしょ?」
「んんんん!? 言った気がするのじゃあ!」
のじゃロリに憧れてたってわちは言ったのじゃあ!
俺は諦めた。俺は女の子になりたかったんだ。だからセーラー服を着ている。何も問題はないだろう?
「アズマ。放課後職員室に来い」
問題だったらしい。
さて。クラスの中で俺の女装問題は大きく取り沙汰されなかった。というのも、「女の子になりたい」という願いを叶えた南さんがうちのクラスにいるからだ。
それに俺は先週までティルミリシアというぷにぷに幼女の姿だったこともあり、「そういうことなんだなぁ」という扱いであった。
南さんは仲間意識からか、ウキウキしていつもより饒舌に話しかけてくれた。
すまぬ……。わちは別に心が女の子というわけじゃないのじゃ……。
「妹ぉ! なぜ貴様は黙ってたぁ!?」
「こんな面白いの黙ってるに決まってるでしょ」
「てめぇ!」
「それに気づかないのが悪い」
「そりゃそうだ」
出かける直前に着替える習慣が仇となった。
どうして俺はもっと早く気が付かなかったんだ……。
「大丈夫お兄。幼女になれば全て解決」
「解決になってねえのじゃ!」
わちはぴええんと泣きながら職員室へ向かった。
職員室入る。
中略。
職員室出る。
「お勤めご苦労です兄貴」
「おう妹よ。今戻ったけぇ」
これが俺のテスト初日であった。
ちなみにテスト期間中もダンジョンに潜ることにした。
もちろんちゃんと勉強もする。北神様ありがとうございます!
「これは困りましたね……」
「なんじゃなんじゃ?」
ダンジョン三階。北神エルフが巻物を鑑定すると、小首をかしげた。
「帰還の巻物です。これ」
「なん……じゃと……」
「わー! すごい!」
「今日なに拾ったっけ!? ポーションあったよね! ポーション! でかした北神ぃ!」
女子二人は素直に喜んだ。気づいているのか、いないのか。
「妹よ。アイテムを持ち帰れるとしても、姿がこのままになるのじゃぞ?」
「え? ティルちーが一人で帰還すればいいじゃん。好きなんでしょ。女の子になるの」
「ぐっ、ぐぬぬ……」
やめろ。ちょっと否定しづらくなってる俺がいる。
いや違うのじゃ。そうじゃなくて。
先週まで俺はティルちゃんとして女子からちやほやされていた。やかましく思っていたが、俺は優越感も感じていたようだ。
そう、今日の相手されなかった俺は寂しく感じてしまったのだ!
女子にちやほやされたい! むしろこれって男らしいだろ? そのために幼女化するのは女々しいか?
やばい。混乱してきた。
「わかった。ここはあたしに任せろ」
「い、妹よ……。本気かの?」
「ふっ。アイルビィバック」
妹マッチョはそう言って親指を立てた。
いや、死ぬのは俺らだが。
そして妹を除く俺らはお手軽死亡ポイント、お肉屋さんに来店し、瞬殺された。
それを見届けた妹は、帰還の巻物を開く。
「ふっ。戦利品ゲットだぜ」
俺たちの尊い犠牲、いや、妹マッチョ化の犠牲によって、俺たちは久々にダンジョンアイテムをゲットした。
【ポーション】
お肌が綺麗に! ネットオークション時価16万円。
【青銅の剣】
普通の青銅の剣。青銅といっても錆びてないから金色。かっこいい。使い道ない。
【爆発の杖(3)】
いつもの爆発魔法の杖。持ち帰っても使い道なくね? 危険物。
【爆発の壺】
投げると爆発する。持ち帰っても使い道なくね? 危険物。
【混乱の草】
食べると頭がおかしくなる。使い道なくね? 危険物。
【パンティー+3】
純白。
【鑑定の巻物】
北神エルフの能力があるからいらないやつ。
【遠投の腕輪】
遠投の腕輪は元ネタと違って、投げた物が壁を貫通したりしなかった。魔法アイテムでも物理学は破壊しないようだ。その名前の通り、ちょっと遠くに投げられるようになる。イチロウのレーザービームが放てるようになったりはしない。
ろくなアイテムがねえ!
改めて並べて気づいたのは、風来坊のシランが元のアイテムが多いこと。やはりコタツマウンテンだからか?
しかしそれにしても酷い。
俺の部屋が危険物保管庫になっちまった……。




