35話:雪山観光
ゲートを抜けるとそこは雪山じゃった。
「ぬほぉおお! 厚着させられたと思ったらまじかぁこりゃあ!?」
「カマクラ作ろうぜカマクラ!」
妹が降り積もった雪を目の前に、もう目的を忘れておる。
探索するんじゃろ。ぷんぷん。ふべちっ!
「おー、ティルちーの型が取れた」
「むぎー!」
俺は立ち上がりながらスキーウェアに付いた雪をはたき落とす。
雪は嫌いだ。雪はつべたい。雪は重たい。雪はうざい。
ああ、北神家がこの巨大開放型ダンジョンの探索は人を雇ってると言った理由がわかった。こりゃあ専門の人雇わないと無理だわ。
「先にスキーを履いてくださいねー」
北神スノーエルフ爆誕。もこもこエルフもかわいい。
水色髪の南さんも似合ってる。
わちは?
「雪にティルちーの銀髪映えねー。ノースしか勝たん」
「ぐぬぬ」
銀髪=雪国が似合うイメージあるじゃろ? 現実は白銀の世界に溶けるのじゃ。撮影に向かないのじゃあ!
しかも当然、全員ゴーグルを装着。雪で目がやられるからね。
それでも妹は撮るけど。
「だから言ったではないですか。ダンジョン探索の撮影には向かないですって」
「そりゃあ雪が積もってるなんて聞いたら止まんねえだろうがよぉ!」
だめだ。妹が超エキサイティング。妹はスキーで滑る勢いで風花ちゃんに突撃した。そして風花ちゃんと合体する。
「よし行くぞ風花号!」
「や、やぁー!」
拉致るな。
北神エルフが華麗に妹(可憐な方)を救出したところで、真面目に探索を始める。
と、言っても、探索をする振りだ。
「この辺り一帯は探索済みですから、何も有りませんけどね」
「なんだよー。マジでスキーしに来ただけじゃん。サイコー!」
「穴場だねぇ。でもスキーには向かないよヒメちゃー」
星野さんが冷静にツッコむ。
そう、ここはスキー場などではなく、自然の雪山だ。このスキー板はレジャーのためではなく、純粋に雪の上を歩くためのものだ。本来のスキーの活用である。
この状態でどうやって撮影するかというと、ヘルメットにカメラを装着するのだ。これは普段の雪山ダンジョンでの標準装備である。
「撮影記録は確実ですからね。マッピング範囲外に行きますと遭難しますから」
「そうなんだ」
冗談でなくガチである。
ただ。普通の雪山と違って安全な点は、熊とか狼とか猪とか猿とか、凶暴な奴らがいないことだ。
肉食と言ってもせいぜいいるのは狐だそうだ。
そんな狐は上に向かってジャンプして、逆さまに頭を雪に突っ込む。
え? ダンジョンだから雪の下に小動物はいないでしょ……?
「かわいー!」
人の気配がすると慌ててこゃーんと逃げていく。戦闘にすらならない。
妹がすいーすいーと後ろから俺に近づいてきて、目の前でターンして振り返った。上手いなこいつ。
俺は子ども用のスキー板でぺちぺち進む。めちゃむず。
「不思議だねー。なんなのこのダンジョン」
「それを言ったらダンジョン全てが不思議じゃろう」
「まあそりゃね」
考えだしたら止まらない。きっと宇宙の真理に辿り着くやつ。最後は頭がおかしくなって死ぬ。
世界中でいろんな学者が発狂してるんだろうなぁ。
トポロジーでも無理な解明じゃろて。
「あー! 風花がー! 風花が見つけたです!」
宇宙の真理を見つけちまったのか北神妹!?
そんなわけはなく、両手を振る風化ちゃんになんぞなんぞと近づいた。指差す方を覗いてみたら、キラリと光るものがあった。
「おお! 宝箱ですね。偉いです風花」
「えへへー。もっと褒めておに……お姉様!」
言いつけどおりに言い直し、北神エルフに甘える風花ちゃん。いいなぁ。こんな妹、俺にも欲しかった。
うちの妹は宝箱と聞いて、全力で滑り走り出していた。
「すごぉい! 氷だ! 氷に入ってるぅ!」
「なんじゃとー!」
雪山ダンジョンの宝箱はなんと六角柱の氷の柱であった。
その中に何か、メダルのようなものが入っている。
「あえ? これどうやって取り出すのじゃ?」
「そりゃあぶっ壊すんだろ!」
てえい! 妹は氷の柱(not氷柱)にパンチをかました。
「いってえ! 手首折れた!」
「そりゃそうじゃ」
妹の行動が脳筋妹マッチョになりつつある。手首は折れて無かったが。
「あい! 風花が開けるです!」
「よし。やりたまえ」
偉そうな妹の隣に立ち、風花ちゃんは氷の柱に手を当てた。
するとそこからメキメキっとひびが入り、ぱりぃんと氷が砕け散った。
「ふぉー! 綺麗じゃー!」
「むはぁー!」
妹が撮れ高で興奮しておる。こりゃあめちゃ映えじゃ!
北神エルフが中に入っていたメダルを拾い、鑑定をした。
「身体のキレが良くなるメダル、だそうです」
「なんじゃあそれは」
みんなが効果を聞いたとたん、俺の方を向いた。
「ティルちーに付けとこう」
「それが良さそうですね」
「風花が欲しかったけど、それでいいです」
なんでじゃ!? わちがにぶちんとでも言いたいのかの!?
すまん。とろくてすまん。
うにうに足を動かしてもみんなの移動速度について行けなかった。
基本的にスキーは滑走するものではないのだ。歩くものなのだ。歩くとなれば、歩幅で速度は決まるのだ。ぽんこつティルちゃんの速度はカタツムリ観光客であった。
おかしいな。体重が軽いほど雪山では歩きやすいはずなのじゃが? そもそもの運動能力が低い? 認めんぞ!
わちの首にぷらりとメダルがぶら下がる。なんだろう。なんだか幼女感がさらに増した気がするのじゃが?
結局、移動の遅いわちは、後ろから星野さんに抱きかかえられ、合体状態での移動となった。
南さんもかなり運動は苦手そうだったが、合体状態の俺とイーブンである。
「何かモンスター来い!」
妹は撮れ高に飢えていた。
「ケサランパサランならおりますよ」
北神エルフが指差した先には、雪の中で見づらいが、白いぼたん雪みたいなもこもこした物体が、ふわふわと辺りを漂っていた。
「かわいすぎて斃すとか無理ぃー!」
わかる。
みんなで追いかけて捕まえようとしたけど取れなかった。
手元からぬるってすり抜けていくのだ。毛の短い猫のように。
そしてティルミリシア形のくぼみが増えていく。
結局、綿毛のようなものを追いかけ回すだけで戦闘シーンは撮れなかったが、視聴者はそれで満足していた。後に動画はアップロードされ、「ロリ吸血鬼ティルミリシア、今度は綿毛に負ける」というコメントにグッドボタンが沢山押されていた。よくないのじゃが!?
ちなみに画面揺れまくりの六人の映像を、編集でまとめてまともに観られるようにしてくれたのは風花ちゃんであった。有能ロリ……。
さて、ダンジョンから出た後はお風呂タイム。
凍てついた身体にお湯が、かじかんだ手足をビリビリとしびれさせるぅ!
だけど今日も豪華ポーション風呂だ。冷えた身体も回復しちまう。ぽかぽかティルちー。
お風呂動画のアップロードはありません。
お風呂上がりにメダルの効果のテスト。
キャミソールとメダル姿で踊ってみた。
「むふーっ」
「ドヤ顔してるけど、大して変わってないぞティルちー」
おかしい。会心の踊りだったはずじゃが?
見る人の目が悪いせいか、傍から効果はわかりにくかったようだが、付けてる本人としては動きが良かった手応えはあったのじゃが?
「よーしじゃあ生放送やってみよっかー!」
「は?」
いつからそんな話しに?
妹が三脚にスマホを取り付け始める。
スマホでTOUYUBE LIVEとか配信環境悪すぎでは?
「なんとかなれり」
妹の行動力が怖い。やってみるかーの勢いで失敗を恐れない。
「わー楽しみー」
そしてそれに付いていく星野さんも割りと暴走列車とわかってきた。さすが妹と友人できるだけの事はある。
北神くんはやれやれ系主人公だし、常識人は俺と南さんだけだ。
「が、がんばって……!」
しかし南さんもバーチャルTOUYUBERの見た目になっちゃうくらい動画や配信好きだった。めっちゃワクワクキラキラしてる。
止める奴はもういない。
「ちょっと待つです」
いた! 北神妹風花ちゃん!
風花ちゃんはとてててと客間から出ていったと思ったら、ブルートゥースイヤホンマイクを手に戻ってきた。
「マイクくらいちゃんと使うです」
「風花っちでかした!」
止める奴はもういない。
「大丈夫だって。突発だから人来ないから」
「げり……?」
妹が何を言ってるのかわからん!
「それじゃあ始めるよー。いつもの紹介動画みたいに話せばいいから。チャットはタブレットに映すよ」
わ、わからん!
「……?」
タブレット画面にティルミリシアの顔が映ってる。
「もう始まってるよ」
「んな!? あっああ……あわわ……」
「そんな慌てなくてもまだ誰も観てないって。アーカイブには残るけど」
「あーかぶー?」
「いいからいいから、ほら挨拶」
わちは戸惑いながらいつもの口上を述べた。これ大丈夫かのう?
「コメント来てるよー。『なにこれ、テスト配信?』だって」
「テスト? テスト期間は明日からじゃが?」
「そういう意味じゃなくて。本番って言っておけばいいの」
「ほ、本番らしいのじゃ……?」
俺だってライブ配信文化を全く知らないわけではない。
ただそれが自分がやる側になるとさっぱりわからないだけで。
「こ、これ何をすればいいのじゃ?」
「うーん。雑談?」
無計画ぅ!
こうしてわちの初生配信が始まったのじゃった。




