31話:STOP TO DUNGEON
翌、金曜日。
昨日アップロードされたダンス動画を観た女子たちが、わちに生ダンスをさせてきた。
ダンハラ(ダンスハラスメント)じゃ……。
「はいっ はいっ さんっ しっ ターンっ!」
「んなーっ」
くるりん。
手拍子に合わせてわちは踊る。1分。2分。3分。そろそろ限界なのじゃが?
「はひーっ……ふひーっ……」
「そんなんじゃ世界一のアイドルになれないよー!」
なぜそんな話しに?
しかしダンジョン攻略にダンスは必須……。これは必要なこと……。みんなわちに協力してくれとるのじゃから……。
いや、こやつら、楽しんでるだけじゃ!
「今日のティルちゃんの下着は水色縞パンを確認!」
「あのアニメでしか存在しないという!?」
「実際見るとクソダサという!?」
「写真共有を願います!」
セーラースカートから見えたパンチラ写真がLIMEの女子グループに拡散されていく。
やはり人類は一度滅びた方がいいかもしれん……。
「男子にも写真送ってくれよ!」
に、ニッシー……。俺の中のニッシーの株がストップ安だ。
「変態」
「ロリコン」
「ティルちゃんが汚れる。近づくな」
虐げられるニッシー。だがティルミリシアの中の俺が「わかるよ。男ならパンツ見たいもんな」と脳内で囁いてくる。
「文化祭のダンジョンにダンスも入れるー?」
「いいねー!」
やめろ! メイド服姿を晒される上に、さらにわちを辱める気か!
というか、本当にダンスが必要なのか? 騙されてる気がする……。
そしてわちの特訓は続いた。歌って踊れるアイドルTOUYUBERを目指して……。
「足がぷるぷるなのじゃあ……」
その結果。脚が生まれたての子鹿のようになった。ぷるるるるるるっ。
そして今日のダンジョン。ダンジョンに入ると全ての状態がリセットされるようなので、探索に支障はない。
だが、今日の探索は妹からストップが出た。
「明日、北神ダンジョンへ撮影に行きます!」
「明日なのか」
北神くんをちらりと見た。北神くんはこくりと頷く。いいのか。
「なので、北神くんをエルフにします!」
「エルフにするのか」
北神くんをちらりと見た。北神くんはふるふると首を振る。だめなのか。
「北神。諦めてノースちゃんになれよ」
「すまぬのう」
北神くんをちらりと見た。北神くんは項垂れた。あきらめたか。
「南さんも誘うからド派手になるぜ」
「おお!」
だが、オリキャラのティルミリシア、ありふれた金髪エルフのノース、これらとは違い南さんは元ネタが人気バーチャルTOUYUBERだったはずだ。大丈夫じゃろか。
「大丈夫。他人の空似だから」
「他人の空似」
「服着てないコスプレイヤーみたいなものだから」
「全裸みたいな言い方じゃな」
妹曰く、「言われてみれば似てる」というくらいの空似らしい。元ネタは南さんみたいながっつりした水色ではなく、もっと白っぽいとか。ところどころに差異があり、確かに似ているキャラって感じだ。
そういえば俺のこのティルミリシアの姿も、俺が描いたイラストとはかなり違う。元絵はもっと下手でこんなにかわいくないから。くそっ。自分で言ってて自分にダメージが返ってきた!
「僕からも一ついいかな。土曜日は妹を連れていいかな」
「北神妹!?」
妹が興奮しだす。北神の妹ならば、さぞ見栄えも良いロリだろう。配信映え……視聴者数……お金……。妹が呟く声が呪詛に感じる。
北神くんをダンジョンに送り出し、俺たちは部屋で待つ。
わざわざ死ぬために冒険に行くのもなんだし、残りのメンバーはお休みでいっかということになった。
暇だからゲートを観察していたら、北神くんがダンジョンに入った約1分で閉じた。ふぅん時間制限けっこう余裕あるのね。妹がスマホでダンジョン情報を調べたところ、どこも同じような仕様らしい。
「知ってるお兄ー。ダンジョンっていつか消えちゃうんだって」
「知っとる知っとる。常識じゃぞ」
ダンジョンとは泡のようなものだ。ぽこぽことあちこちにできては消えていく。人が入っても入らなくても、攻略しても放置してもいずれゲートは早かれ遅かれ消滅する。だからみんな入りたがる。ソシャゲの期間限定イベントみたいなものだ。
全長約1kmの中型サイズで約6ヶ月。
全長約500mの小型サイズで約3ヶ月。
全長約100mの極小サイズで約1ヶ月。
ダンジョンの寿命は意外と短い。放置されたダンジョンはさらに早く消えることから、どんどん出来ては消えていく。
そんな無管理の闇ダンジョンの情報を共有してダンジョンに潜る者たちは、冒険者と名乗っている。実際は不法侵入かつ盗掘でアイテムを売り飛ばして金儲けする犯罪者共じゃが。
法整備が遅れてるので取り押さえるのも難しい。STOP TO DUNGEONを政府が謳っても盗掘屋は言うことを聞かない。トウクツヤーは死すべき!
「お待たせいたしました」
北神は無事にノースちゃんとなって帰ってきた。
明日は北神家ダンジョンで撮影である。
翌、土曜日。
「お兄様。この方々がご一緒するご友人方なのです?」
北神エルフの服の裾を握ったロリっ子が、キッと俺達のことを睨んできた。
お……、おにい……さま……だと……?
俺もそんな風に呼ばれたい……! ロリっ子にお兄様と呼ばれたい! うちの妹はいらないわ。
そんなことよりなぜ睨まれているのだろう。ふうむ。身に覚えがありすぎる。
「きゃー! かわいー!」
「触らないでっ」
ロリっ子がぺしっと妹の手を弾いた。
おお……やるなロリっ子。だがその程度の抵抗でうちの妹が防げるとでも?
ロリっ子は妹と星野さんに挟まれた。
「やっ! やめっ! んくっ! しつこいっ!」
ロリっ子はもみくちゃにされ、抵抗するも已む無く懐柔された。
顔真っ赤のへとへとになったロリっ子は、妹にぷらーんと抱きかかえられながら「風花」と名乗った。
「ねえねえ北神! この子持ち帰っていい?」
「ダメです」
「だめじゃぞ」
捨て猫拾ったみたいに言うでない。
「のう、ノース。ところでわちら6人じゃが、人数ギリギリではないか?」
「そうですね。護衛がいませんから本日は浅いルートへ参りましょうか」
だが妹がそれに対し「動画の撮れ高が大事」と噛み付く。
そんな中、スーツで眼鏡の柴原さんはタブレットを星野さんに渡して使い方を教わっていた。
え? 本当にわちらだけで行かせるの? 大丈夫か? 大丈夫かのう? もっと過保護になるべきでは?
ほら、北神妹は中学生くらいじゃし、南さんも同じくらいの体型だし、わちなんか幼女ぼでーじゃぞ。子供三人。女子高生二人。エルフ一人じゃぞ。
わちならSTOP TO DUNGEONするぞ。英語がおかしい? 政府に言え。
でもエルフ一人の戦力がおかしいな。弓と風の魔導書持ってるし……。あいつ一人で過剰戦力かもしれん……。
「南さんも雷の魔導書を持ってきたのかの?」
「(こくこく)」
南さんはじゃーんといった感じに掲げて見せた。少女動作が板についてきておる。
その本を、妹の魔の手から逃れた風花ちゃんががばっと掴んだ。
南さんは抵抗することもなく、風花ちゃんに魔導書を渡した。
「あ、あぶないよ?」
「お兄様! 風花もこれ欲しいです! お兄様とおそろいになるです!」
「そ、それおれにしか使えないから……」
北神エルフに「返しなさい」と言われ、風花ちゃんはぶーっと口を膨らませた。
「北神ダンジョンでは魔導書は拾えないのかのう?」
「拾えるわけないですよ、こんな魔法が使えるなんてファンタジーな物。他のダンジョンでも聞いたことがないですし」
え? まじか。
「通常のダンジョンで拾えるアイテムは、ポーションを含め魔法のアイテムではありますが、ここまではっきりファンタジーな魔法という魔法を使えるようなものは存在しません。一般的な物はいわば凄いパワーストーンみたいなものです。不思議な力で確かに魔法のような効果ははっきりと現れますが、このように――」
北神エルフは風の魔導書に手を触れ、辺りにうずまきの気流を起こした。
「わぁ! お兄様の魔法すごぉーい! 風花もやりたいのです!」
「このようなはっきりとした事象が引き起こせるものなんて、価値にしたら億は下らないのではないでしょうか」
おく……。億?
「冗談……じゃろ?」
「おい北神。首をへし折られる前にその本をあたしに寄越すんだ」
おい妹。北神家の護衛の前で強盗殺人すな。風花ちゃんが北神エルフに抱きついて睨みつけてるぞ。そもそも本人にしか使えないし。
あ、億の価値と聞いた南さんが顔面を髪色のように真っ青にして死にかけてる……。




