30話:アイドル・オブ・のじゃロリヴァンパイアダンサー
探索は3階の地下墳墓まで順調に続いた。
今回は100円均一でライターを買って持ちこんだ。教会の蜜蝋に火を点けて地下に潜り、地下の松明に火を点ける。暗闇に揺らめく炎が現代人の目に慣れない。特に星野さんは松明自体を持つことを嫌がった。猫だし。
「燃えろ燃えろぉ! ひゃっはぁー!」
ミイラを松明で殴りつけ火を着けていく妹マッチョ。乾燥していてよく燃える。「ほうら明るくなったろう」じゃねえ。サイコかおのれは。
今やここも暗いだけで楽勝である。お肉屋さんの部屋には近づかないことにした。あそこに4階へのゲートがあったら終わりだけど、他の場所に普通にあった。なんだよ。初見殺しだけかよお肉屋さん!
階段を見つけ、4階に着いた。
続いてここも暗いエリア。石造りの地下安置所の先は、掘られた土と岩の洞窟となった。一つの部屋は広めで、ところどころ補強の柱が立っている。炭鉱の雰囲気に近い。
さて、モンスターはというと。
星野さんが尻尾をピンと立てて、壁から離れるように言った。壁がボコンと穴を開け、大きな口をのぞかせた。
「ワームだぁ!」
「キッモ! 虫だ! あたしやだ! 帰る!」
「どこいくマッチョ!」
土を掘り進んでくるミミズのような巨大ワームであった。
身体をうねらせ、口をがばりと開け、俺たちを丸呑みしようと飛び付いてきた。
「ぎえー!」
妹は先に逃げ、星野さんはさっと身をかわし、動くのが遅れた俺は北神エルフに押し倒されて助かった。きゅん。まつ毛長い。
北神エルフは転がった松明を拾い、巨大ワームに投げつけた。虫は火に弱い。というより生物全てが弱い。タンパク質が固まるからだ。ファンタジー生物な巨大ワームも同じように火を嫌うようだ。
「北神エルフ、これを!」
「はいっ!」
俺は魔法の杖を腰から引き抜き、北神エルフに渡した。
北神エルフがそれを振ると魔法の光が飛び、巨大ワームの顔が爆発を起こした。南さんが使ったときとは違う小規模な爆発。それでも十分なダメージを与えられると思ったが、巨大ワームの顔の一部をえぐるだけに留まった。
「妹よ! 俺の槍を使え!」
「ういーっす」
ダンジョンの途中で拾った槍を妹へ渡す。妹はそれを肩に担ぎ、ぶん投げた。
妹の肉体で投げられた槍はまっすぐの勢いで飛び、巨大ワームの身体を貫通した。
まだ斃しきれていない巨大ワームに星野さんが追撃。猫の手にジャマダハルを装備し、巨大ワームを切り裂いた。
巨大ワームの体液まみれになる星野さんの体毛。うげぇと声を漏らす妹。
もう一発、北神エルフが爆発の杖を振り、巨大ワームは口の中で爆発を起こした。そしてようやく光となって消滅した。
「ふぅ。星野さん大丈夫?」
「うん。めっちゃ気持ち悪い。死にたい」
それでも妹よりは度胸ある。汚れた体毛は巨大ワームの死亡と共に綺麗になった。
「こんなの何匹もいたら大変だな」
「やめてよお兄! 想像しちまったぁ!」
これがただの雑魚だとしたら厄介だ。いわゆる通路を掘るタイプのモンスターなのだろう。巨大ワームの通ってきた跡の壁がぽっかり開いている。マッピングがまたクソ面倒になるぞこれ。
他の敵はなんだろうと小休止している間に想像してみた。
「あっ。ワームの痕にドロップがありま――」
北神エルフがワーム死亡痕の壁に近づいたら、首が飛んで転がってきた。
「え!? 敵!?」
「しのっちー! 感知はー!?」
「何も音しなかったよー!」
北神エルフの手にしていた松明が地面に落ち、暗い影がそこに揺らいでいた。そしてそれは死神の鎌を手にしていた。
「ゴーストかっ」
「お化けやだー! 最悪じゃんここ!」
妹は逃げ出した。だがそれが最善かもしれない。
いかにも魔法攻撃しか効かなそうな雰囲気だ。そしてその魔法攻撃の手段である爆発の杖は北神エルフが持っていた。今はゴーストの足下に転がっている。
「逃げるぞぉ! 動きが速くない事を祈る!」
「はい!」
だがゴーストの動きは速かった。すぐに追いつかれそうだ。しかも壁をすり抜けてくる。最悪だ。
「巻物ぉ!」
なんだかわからん巻物が落ちてた! これに託して紐を解く! 暗くて見えない! 星野さんがさっと松明を掲げた! ナイスサポート! 良いお嫁さんになるで。オスケモだけど。
「むにゃにゃにゃぁ!」
俺の口が勝手に早口で異世界語を叫び、俺たちの身体が光輝いた。
「お? 帰還か?」
俺の身体が死神の鎌で裂かれる寸前に、ぐわりとめまいが訪れた。
そして着地。
「帰還! じゃねえ!」
「お兄、どこここ」
「別の部屋にワープしただけみたいね」
三人は同じ階の、別のフロアに移動しただけだった。転移の巻物だったか。
偶然にもそのフロアにゲートを発見。俺たちは迷わず次の5階に進むことにした。
「5階ってことはまたボスがいるんじゃない?」
「いやいやまさか」
だがボス部屋だった。だけど何か様子がおかしい。まるで地下ライブ会場みたいな?
そしてそのステージ上にボスが居た。なんだ? ゴリラか?
それにしても眩しい。暗い部屋から移動したのもあいまって、部屋がギラギラしている。天井にミラーボールが下がっている。しかもなぜかノリノリの音楽が流れ始めた。まじでライブかよ。
ゲームではBGMというものがあるが、ダンジョンはゲームっぽいだけなのでBGMなど当然ない。だがここに来ていきなりボスミュージックだ。なんだこれ!?
しかもボスの周りのミイラたちが音楽に合わせてダンスを踊っている。ノリノリである。
「なにこれ!? どういうこと!? お兄!?」
「知らねえよ!」
「こ、これは、もしかして……」
知っているのか、星野猫人!
「マイケルジャンクションのゴリラーじゃない?」
「いや違うでしょ。マイコーはゾンビだし」
マイコーがゾンビなわけじゃないが。
「お兄。あたしは攻略がわかったぞ」
「なんだと」
「モンスターが踊っている。つまり」
「つまり?」
「あたし達も踊る必要がある」
「なんでだよ」
「イェア!」
妹マッチョは踊りだした。そして星野猫人も腰を振って踊りだす。
なんでこいつらノリノリなんだよ。
そんな俺も陽キャの光に照らされて、慣れない足付きでアドリブで身体を動かしてみたら、妹に指を差されて笑われた。てめえこのやろう。
踊るミイラに踊るマッチョ。踊らにゃそんそん。
ミイラが踊りながら近づいてきて、ついに接敵。そのままダンス格闘が始まった。
上手く踊れなかった俺は死んだ。
「いや、なんじゃよこれ!?」
ローグライクかと思ったら急にダンスゲームになった。わけがわからない。気が狂っている。
「何があったんだい? アズマくん」
「北神よ。ダンスは得意かのう?」
「え? まあそれなりに」
俺だけか!? 俺だけベリーハードなのか!?
しばらくすると妹と星野さんも死んで俺の部屋に戻ってきた。
「あのゴリラ強かったわ」
「ダンスのキレ凄かったね」
ダンス。
「あの腰の動きに勝つには特訓が必要だな」
「テンポアップしてからついて行けなくなっちゃったね」
テンポアップ。
「お兄……じゃなかった。ティルちゃん踊ってみて」
「い、いやじゃ……」
「ミュージックスターッツ!」
妹がスマホでTOUYUBEの適当なダンス曲を流し始めた。
俺はくねくねと踊りだす。
妹は指差して笑う。
「これじゃあボスに勝てないよ。ティルちゃー」
「ちょっと待って。僕は話しに付いて行けてないんだけど」
俺だってどういうことかわかんねー!
そしてティルミリシアのくねくねダンスが撮影され、動画がアップロードされた。
コメントに「MP吸い取られそう」と書かれていた。
おのれ! 見返してやるのじゃ!
歌って踊れるアイドルを目指すのじゃ!
くねくね




