29話:ダンジョン調査員さんとお話し
冷静に考えよう。別にカーチャンが悪いわけじゃあない。そもそもだ。毎日集まって、部屋で何か準備して、その後物音せず時間が過ぎ、しばらくしたら騒ぎ始めて、息子と娘が男になったり女になったり。そりゃあねえ! 何かあると思うよねえ!
部屋の扉を開くと、服を半脱ぎしていた妹と星野さんが。あ、違うんです。別にそういう関係なわけじゃないんです。俺は至って健全な男子で、そういった不健全なことはしていなくて、あ、そもそも今は女児だった。あーもうめんどくせえ!
「ダンジョン調査員の二人じゃ」
妹と星野さんは半裸の状態で固まった。そもそもさ、俺の部屋で着替えるな。妹の部屋で着替えろって。
ほら、ダンジョン調査員の二人が目のやり場に困ってるじゃない。ほらほら。さっさと行った行った!
「これからダンジョンに潜るつもりじゃったから、着替えておったのじゃ」
「ええと、先に言っておきますが、認可のないダンジョンに入ることは禁止されてますからね」
「すまんのじゃ……」
調査員も、残った俺がのじゃロリのため、ものすごくやり辛そうだ。
二人には座布団を、わちは星野さんがいつの間にか持ち込んだぷにゅぷにゅクッションに座った。
「私達は君を責めるつもりでも、処罰するわけでもない。私達はダンジョンの被害から皆さんを守るためにいる。お分かり頂けますか?」
「うむ……」
わかっておる。わかっておるじゃが、幼女にわかるのかなぁという顔をされておる。
「差し当たって、君のその姿について説明して貰いたい。君は男子高校生のタカシくんなのだね? ダンジョンでその姿になったというのは本当かい?」
「うむ。わちはティルミリシア=フィレンツォーネじゃ」
「てぃる…?」
「わかりやすく言うとキャラクターじゃ。わちの中身はタカシじゃが、ティルミリシアとして活動しておるので、このような姿と口調となっておる」
説明するために「呪い」とか言うと話しが返ってややこしくなりそうなので、なりきりキャラということにした。大体間違ってない。なりきりキャラTOUYUBERじゃしのう。
「ダンジョン内で別の姿になるケースはあっても、そのままの姿で戻ることはありません」
「わかってる原見。こほん。君のその姿はダンジョンに入った時に変化した、ということでよろしいかな?」
「そうじゃ」
「変身型ですね」
女性の方がボードの紙にメモを取っていく。
女性の方が原見さんで、男性の方が美濃さんだ。さっき下で挨拶された。
「ところでその、んんっ。姿勢を変えて貰えないか」
「しせい?」
おっと。クッションの上にあぐらかいて座ってたら、セーラースカートがめくれ上がりおぱんつチラリズムしていた。はずかし。
女の子座りになる。
「いつ頃できたのかな?」
「10日ほど前かのう」
「さて、すでに何度かダンジョンに入っているようだね?」
「10回ほどかのう」
「毎日だね。ダンジョンの中はどうなっているんだい?」
「なんかこう、人工的な光る壁の閉鎖型じゃ」
「ダンジョンの規模はわかるかい? 最深部までは到達したのかな?」
最深部……一応チュートリアルダンジョンっぽいのはクリアしたから到達したと言っていいのか?
「一度攻略済みじゃのう。最深部まで30分くらい……いやあの時はのんびり進んでおったので実質20分くらいかのう?」
「20分となると、中々の規模だねぇ。中は一本道かい? それとも迷路になっている?」
「迷路じゃのう」
毎回地図を書くのが大変なのじゃ。
「ダンジョン内のアイテムは持ち帰りましたか? 宝箱の中身とか」
「宝箱はないのじゃ。ポーションを何個か持ち帰ったのう。それと本と弓? あと斧くらいかのう」
ミノタウロスの斧は邪魔なので、ベッドの下にみんなで頑張って突っ込んだ。
「うん? 宝箱を取ってないのにアイテムはどうやって拾ったんだい?」
「床にそのまま落ちておる」
「床に直接……、中規模なのに宝箱がない……」
女性の原見さんが、男性の美濃さんをチラ見した。
「珍しいタイプですね。今までありましたっけ」
「あることはある。そもそも変身型が珍しいからな。アイテムの在り方も特殊なのだろう」
アイテム部分で引っかかったようじゃが、どうやら信じてもらえたようじゃ。
「私達がこのようなことを聞いたのはですね、ダンジョンの所得物には税金がかかります。ご存知でしたか?」
「う、うむ……」
「ダンジョン税はダンジョン収益の20万円までは控除となります。確定申告の詳しい事は税務署をお尋ねください」
「ふ、ふにゅ……」
むじゅかしい話しになってきた。
「ポーションなどをネットオークションとかで売ったりしたかい?」
「ポーションはみんなで使ってるのじゃ」
「消耗品は使用済みですね」
チェックされていっておる……。
「他のものは?」
「本や弓は一緒にダンジョンに入った友人に上げたからないのじゃ。斧は仕舞っておる」
見せないといけないのかな。出すのにベッド動かすのめんどいんだけど。
「わかりました。これからはダンジョン所得品の記録をお願いいたします」
「う、うむ……」
妹にでもやらせよう。
「以上で質問は終わりです。何かわからない点はございましたか?」
「む? これで終わりなのかの?」
てっきりダンジョンに入ったりするものかと思ったのじゃが。
「最初に言った通り、私達はダンジョン被害を出さないために調査をしている。君たちがすでに最深部まで到達しているということで、危険度は低いと判断した。出てくるモンスターは弱いのだろう?」
ううむ……結構強いと思うのじゃが……。正直に言っておこう。
「妹が一発で倒せるくらいじゃが――」
「それなら大丈夫だ」
「何か他にございますか?」
何かあったっけ。
というより、この姿のことを聞かなくていいのかな?
「わちのこの姿の事はよいのか?」
「その事は先ほどお母さまからお話し頂きました。お姿がころころと変わると……少女になっているとは聞いていませんでしたが」
「普通の変身型は違うのかの?」
「はい。わかりやすく言いますとアニメや映画のヒーローモノのような感じですね。元の姿からは大きくは変わることはありません」
「ふむ……ではやはり少女になったりそれがそのままの姿で戻ったりは、かなり珍しいということじゃな」
「その通りです。前例ありましたっけ?」
「あることはある。だが、そのダンジョンは消滅してるし、あれだ」
「あ、ああ……」
二人とも言いよどんだ。なんだろう。秘密なのかな?
「わかった。ないことはないのじゃな」
「はい。安全なダンジョンで良かったですね」
安全……死に戻れるというだけで死にまくってるのじゃがな。よくよく考えると恐ろしいことじゃ。ぶるりん。
「他にございますか?」
「最後にもう一つだけ。あの、わちの姿はその、目立つじゃろ?」
「そうですね。目立ちますね」
変身型のダンジョンを隠してるっぽい雰囲気があったのでちょっと不安になる。
「わちの妹が、わちの事を動画にしてアップロードしておるのじゃが……大丈夫かのう……」
「大丈夫ではないでしょうか。ねえ」
「ああ、問題ない」
「収益化などは……」
「それもダンジョンの所得ではないので問題ありません」
良かった。公認になった。
あれ? 良くない気がするな? この先も撮られ続けるのか俺?
「それでは、これでよろしいですか?」
「ダンジョンでの怪我には十分に気をつけてください。それと野外のダンジョンへの立ち入りは禁止されています。見かけたら警察や市のダンジョン課にご連絡ください」
パンフレットを渡して、ダンジョン調査員の二人は帰っていった。
なんだか、こんな簡単に終わるなら別に隠してる必要なかったな。カーチャングッジョブ。
そのあと北神くんがやってきたのでこのことを話すと、「え? 不可逆式ダンジョンって普通は認可でないよ?」と言われてしまった。
「お兄、嘘付いたの?」
「う、嘘は言ってないのじゃ。そんなこと聞かれなかったのじゃ」
「じゃあ確かめてみよう」
妹はスマホを取り出した。こいつ……部屋を出る前にボイスレコーダーを起動していやがった……!
そして俺と調査員の会話から、北神くんはうちのダンジョンをこのように記録したのだろうと推測。
○変身型(中に入ると姿が変わる。レア)
○変身継続型(変身した姿のまま戻ってくる。超レア)
×変身解除(時間が経つと元に戻る、と思われた。前例なし)
×可逆帰還型(入った地点からいつでも出られる)
○閉鎖型(人工壁タイプ)
×難易度低(女子高生がパンチで倒せる程度の弱いモンスター)
○中規模サイズ(最深部まで20分程度)
○迷路型(通路や部屋が枝分かれしている)
○宝箱なし(宝箱のリポップがないため継続的なアイテム所得なし)
(ただし最初のチュートリアルダンジョンに限る)
大体合ってる……。でも肝心なところがなんか違う……。
あと階層の事とか言ってなかった。
「まあまあ。調査員の方が中に入っていたら厄介なことになっていただろうし、いいんじゃないかな?」
「そうじゃな……」
さて、気を切り替えて、入る支度をしようかの。
「あ! 認可受けたならダンジョン攻略動画上げてもいいんじゃない!?」
あ! 気づきおった!
「アズマさんの目的はティルちゃんでしょ? アズマくん元に戻すのかい?」
「うっ、うーん……」
そういえば、町の布団で寝れば戻ってきて、元の姿に切り替えられるんだ。攻略を一日お休みすれば元に戻れるぜ。
「では本日はお休みに――」
「探索しようぜ!」
妹の一言で元に戻るのはお預けとなった。




