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TSローグライクダンジョンへようこそ  作者: ななぽよん
【二章】どこか見覚えのあるダンジョン
28/74

28話:これがゲーム脳ってやつか!?

「こっわ! なにここ!」


 教会の扉をギギギと押し開け、最初に叫んだのは妹マッチョ。

 教会はあちこちが崩れ落ちていたが、それでもなお美しさを保っていた。

 ステンドグラスから色とりどりの陽が射し込んでいる。


荘厳(そうごん)ですね」

「うわぁ! すごい絵だよヒメちゃー!」


 北神エルフは近くの彫刻を撫で、星野さんは天井画を見上げて叫んだ。


「うわー。こんなの絶対やばいとこじゃん」


 恐怖に怯えるのが俺。こんなの絶対ボスとかいるやつじゃん……。

 四者四様で古びて荒れた教会に足を踏み入れた。

 星野さんは耳と鼻をピクピクさせて警戒するも、すぐにふにゃっと気を緩めた。


「モンスターの気配はないよー?」

「おや? 休憩地点かな」


 だが突然天井を突き破って降ってくるかもしれない。そういうボス演出あるある。

 星野さんの感知は、モグラが姿を見せる直前までわからなかったように万能ではない。想定外の場所からいきなり現れるようなのは察知できないのだろう。


「あたしの知ってるシランと違うー!」

「いや、コタツマウンテンだって登る間に色々あっただろう」

「そういえばそうだった」


 教会は無かったけど。


「しかし何もないなぁ」


 こんな古びた教会なんていかにもなものをわざわざ用意したのだから、何かしら意味があるはず……。


「パンティー投げたりなんなんお兄。これもまたなんかゲームが元ネタなん?」

「そういうわけじゃないけど、この教会の意図がわからん。ボスフラグが立ってないとか? うーん……」

「ふーん……。ねえ、考えても無駄じゃない? っていうか、むしろゲーム知識が足引っ張ってない?」

「は!?」


 俺は先入観に囚われていた。

 元ネタがあるゲーム要素を見せられすぎて、「この教会も何か意味があるはず」と考え込んでいた。

 これがゲーム脳ってやつか!?

 頭に被っているパンティーだって武器なはずがないじゃないか。

 いやでも今でも魔法的な力でブーメランみたいにならないかなって思ってるけど……。ああ、いかんいかん。


「よし! 何もないなら先へ進む道を探すか。きっと地下だ」

「地下?」


 教会から続くダンジョンといったら地下墓所(カタコンベ)と相場が決まっておる。

 それを聞いた星野さんが空気の流れから地下への隠し通路を見つけ出した。

 今度のゲーム脳は正解だった。


「この床をずらすっと。どっこいせー!」

「力技」


 筋肉で地下への扉開けたけど合ってるのかこれ。RPGだったらあちこち弄ったりギミックがあるところじゃない? まだ俺囚われすぎ?


「真っ暗だぞー」

「あ、拾った本が使えるんじゃないか?」


 2階で拾ったアイテムは「光の魔法書」「衝撃波(ショックウェイヴ)の杖」「ポーション」。

 光の魔導書を手にしたした北神エルフがもにょもにょと呪文を唱えると、パッと宙に浮く光の球が現れた。


「今回はこれがあったから良かったけど、次からは懐中電灯が必要だな」

「げー。入るたびに毎回壊れたらいくらかかるんよそれー。あたし払わないからね」


 暗闇の中を光の球の灯りを頼りに進む。壁に松明が付いているから、これに灯せば光は確保できそうだ。今は火がないが。


「ライター誰か持ってない?」

「あるわけない」

「ですよねー」


 暗闇下という環境のストレスが半端ない。超リアルなお化け屋敷。棺桶から動く骨のモンスタースケルトンや、ミイラが起き上がってくるおまけ付き。


「やだー! きもいー! くさいー!」

「働け妹よ」


 俺は非戦闘員。必死に地図を書き込んでいく。

 暗いのもあって大雑把だけど、メモがあるのとないのとでは全く違うからな。無駄にぐるぐる周って迷子になったらすぐ腹が減って死にそうだ。


 妹の戦闘ボイコットをいなしている間、星野さんは鼻をひくひくさせて周囲を警戒していた。

 敵の発見だったらいつもはすぐに報告をするのだが、今回はとある方向が気になっているようだ。


「ああいえ。ヒメちゃが言うように、何か臭いなって……。この腐臭ってやばいやつじゃない?」

「腐臭? 腐臭なのか?」


 俺の鼻ではまだ「何か臭うな」くらいにしか感じない。


「様子を見に行くかどうするか」

「ごめん。私はちょっと臭すぎて近づきたくないかも……」

「じゃあ俺たちだけで行くか」


 妹は「げー」とぶー垂れる。今後のためにも情報が欲しい。


「うわっ! くっさ! この扉の先ぃ? 開けるの? まじで?」


 星野さんの言っていた方角へ進むと、どんどん臭いがキツくなった。まじで吐きそう。

 開けたくないし、見たくもない。だが、俺のゲーム脳が『気になる扉は開けなさい』と言っている。


「妹が開けたら、光の球で中を照らそう。3・2・1……」


 それは失敗だった。おぞましい光景が部屋中に広がっていた。

 わぁ。お肉屋さんなのじゃ。


「おぇぇえええ!!」


 妹マッチョは吐き出した。

 北神エルフは失神して倒れた。

 あ、これ、絶対トラウマになるやつなのじゃ。俺も半分放心しているのじゃ。脳みそをのじゃロリ化して視覚と嗅覚の情報を斜めに受け流すのじゃ。


『フレッシュミィィイト!!』


 部屋の中にいた、豚面のいかにもオークといった巨体デブが、肉切り包丁を振り回し襲ってきた。

 俺の首は飛ばされ、死んだ。




「お兄ぃぃい! 最悪だよこのぉおお!!」

「すまんのじゃ」


 いやまさか、あんなのがいるとは思わないじゃん?

 幸いなことに、フラッシュバックでトラウマになるほどの記憶は、死に戻り後の俺たちに残されていなかった。肉体的な痛みと同じように、精神的の痛みも緩和されるようになっているのかもしれない。そうでなかったら俺の部屋は3人のゲロまみれになっているはずだ。


「僕は気絶してしまったようだけど、何があったのでしょう……」

「記憶失ってるとか羨ましいぞ北神ぃ!」


 妹は扉を開けて先頭で直視したからな……。

 そしてそれを免れた星野さんもお肉屋さんに追いかけられて殺されたようだ。

 ごめんて。


「いやあ、いきなりハードじゃなあこれは……」


 課題が山積みじゃ。

 斃す方法? そんなの知らん! 無理じゃ! あんなの無視じゃ無視!

 あいつがボスだったらどうしよう……。




 翌。木曜日。学校でも新たな問題が発生した。

 朝から女子に囲まれた俺は、とんでもない提案をされた。


「ねーねー! 文化祭はティルちゃんもメイド服着ようよ!」

「ぬぅ?」


 我がクラスで行うのはアニメでよくあるメイド喫茶、というわけじゃない。一年生なので飲食店は禁止されていた。現実はアニメのようにいかんのな。

 しかしうちのクラスには美人の星野さんと、イケメンの北神くんの、美形男女2トップが存在していた。

 そしたらさ、やっぱ可愛い服着せたくなるじゃん?

 だからまずメイド服を着せることに決定した。よし! 賛成多数であった。

 で、今の人気の出し物と言ったら? そう、ダンジョン屋敷である。

 お化け屋敷みたいなノリでダンジョンを創るのである! そして我がクラスはその制作権を学年の中から勝ち取った!

 ……メイド要素は?


「もちろん! ティルちゃんのメイド服も注文済みよ!」

「おぉー!」


 わちはそれを聞いてないのじゃが、星野さん?


「迷子になったティルちゃんを探すクエストにしようよ!」

「いいねいいねー!」


 何を言っておる? それわちが一日中働くことになるんじゃが?


「ダンジョンのメイドさんを救うって設定ね!」

「メイド役はそれでいこうよー!」


 あ。星野さんの笑顔が作り笑いになってる。最近は毎日共にしているから表情がわかるようになってきた。「やべ、私も大変な役になりそうだ墓穴掘ったわこれ」って顔してる。

 でも星野さんは文化部で、クラスの出し物より部活動優先なので抜ける時間が多くなるだろう。

 俺? 俺は漫画研究会だから。部じゃないから……。


「南さんにもメイド服を着せたいのじゃ」


 わちは南さんを売った。悪く思うなよ……。

 南さんも当然この流れに巻き込まれていき、ついでにニッシーもメイド服を着る流れに……。

 いやなんでニッシー? ニッシーはいらんだろ。

 どうして男子高校生はお笑い女装枠を作りたがる?

 ほらニッシーも嫌がって……嫌がっ……だめだあの男子に囲まれて弄られて抵抗してる「やーめーろーよー」はポーズだけだ。あいつ、心の内ではメイド服を着たがっている……! そんな、そんなお笑い枠では汚点は払拭(ふっしょく)できんぞ……! さらなる汚点になるだけだぞ……!

 じゃがぷにぷに幼女と化しているわちの訴えは男子高校生には届かない。

 ニッシーよ……わちには救えんようだ……。黒歴史となれ……。




 放課後。

 いつものように星野さんを含めた三人で下校。北神くんは後から合流の流れだ。

 家に帰ると見知らぬ革靴とパンプスが。お客様?

 邪魔しないようにこそこそと二階へ上ろうとするとリビングから「タカシー! お客様よー!」とカーチャンの声が聞こえてきた。


「わちに? ちょっと行ってくるのじゃ」


 誰だろう。スーツ姿の男女が二人いたので会釈した。

 スーツの方々は椅子から立ち上がり、俺の方を振り返ると「こちらは?」とカーチャンに聞いている。お互いに誰だかわかってねえじゃねえか!


「あらやだ。私ったら言ってませんでしたー? その子がうちの息子なんですよー。ダンジョンで女の子になっているんですわー」


 おいカーチャン! なに見知らぬ人にバラしてるんだよ!?


「え? そんなことが……?」


 ええと、どうしよう。俺は目を逸らした。

 んー……助けろ北神ぃ!


「申し遅れました。私達、ダンジョン調査員です。こちらの家にダンジョンがあると連絡を頂き、調査に参りました」


 は?


「ごめんなさいねぇ、うちの息子が。何か隠してると思ったら、ダンジョンですって! タカシー、お母さんに相談しなさいって言ったでしょう、まったくもう。お父さんが『ダンジョンは見つけたら市役所に連絡しないとダメだ』と言ってたわよぉ。だからお母さんが連絡しておいたのっ。本日はご足労さまです。ほら、タカシ、部屋に案内なさい」


 カーチャン……。カーチャン!?

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― 新着の感想 ―
[良い点] そりゃ自室内の本棚が消える位置なんだしいずれバレるよなぁ。 これで入れなくなるのか。 [気になる点] タカシって名前だったのか。見落としてた? [一言] そりゃありセットボタンじゃないが死…
[良い点] 市民の義務を果たすトーチャンカーチャン
[一言] カーチャンあるある
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