26話:わち、宇宙人と交信す
「わぷっ!」
べちっと俺は部屋に転がった。そしてそのままクッションに顔を埋める。んー星野さんのお尻の香りがする……。
うっかり死んでしまった。うっかりうっかり。井戸調べたらうっかり死ぬよね。本当にうっかりだよな? 何かの意思によって引きずり込まれなかったか?
「んあー……」
そういえば始めて最初に死んだかも。一人で人待ちは始めてだ。ひまぽよ。
少し冷静になって考える。
前のダンジョンもゲームっぽかったが、今回は露骨に元があるゲームに寄せてきてないか?
なんでこんなダンジョン創ったん?
そもそもダンジョンって一体なんなん?
考えたところで上位存在の考えてることなんてわからん。だからこそ上位存在なのだから。
ダンジョンを創ったのは、神だ、地球の意思だなどと言われている。俺は宇宙人説を信じている。今回のダンジョンに入ってそれがなおのこと深まった。
確かに他の、普通のダンジョンならば、地球の意思だとかそういうものが創ったのかもしれないと考えてもおかしくはない。
例えば鉱脈。銅や銀や金が一箇所にまとまっている。人の視点から見ると神が人に用意されたものに見える。もちろんそんなことはない。地球の存在自体が偶然の塊だ。
ダンジョンもいわば鉱脈と同じである。自然が偶然創り出した。これも一つの考えだ。
偶然できた鉱脈から金属を採るように、人間は偶然できたダンジョンからダンジョン資源を持ち帰る。もちろん鉱脈の成り立ちは解明されていて、ダンジョンは解明されていないという違いはあるが。
さて、俺がダンジョンを創った上位存在は宇宙人説だと思い始めたのは、俺の部屋にあるTSローグライクダンジョンに入ってからだ。
通常ダンジョンでも「ゲームっぽい要素があるな?」と思っても、まだ偶然の範疇ではあったと思う。
しかしこのダンジョンは人の意思がかなり色濃く出ている。
というより、エンタメ色が強すぎる。
俺ねー。絶対これ、宇宙人が創ってさ、そのダンジョンに入る俺たちを見てさ、ゲラゲラ笑ってると思うんよ。宇宙人エンターテインメントってやつ?
なあ、いるんだろ? 宇宙人。俺のこと見てるんだろ? おいこのクソ野郎!
……暇すぎて俺は見知らぬ宇宙人と交信し始めてしまった。危ない危ない。
見てない? 見てないよな? 俺は人の視線を感じて窓を開いて外を見た。向かいの家のおばちゃんと目が合ってしまった。俺の姿を見たおばちゃんはコソコソと隠れて消えてしまう。む、怪しい。さてはあのおばちゃん……。
俺は何かいけない方向に向いつつある思考を戻した。
おばちゃんの様子がおかしかったのは、今の俺の姿が幼女化してるからじゃん。「え? 男子高校生の部屋だよね……?」と思ってる部屋から幼女が顔覗かせたらそりゃ警察呼ぶわ。
え、警察は勘弁して欲しいのじゃが。
ぼとんっと、床に何か転がったなと思ったら、星野さんだった。
「おかえりなのじゃ」
「あっ、えっ? ただいま?」
「んなっ!? 一発で帰還できたのかの!?」
星野さんは元の黒髪美少女の姿に戻っていた。
「ん? あっ!? ほんとだ! やったーティルちゃー!」
「んんんんッ!」
俺はおっぱいで窒息しかけた。
「何があったのじゃ?」
「えっとね。布団で寝たら、戻ってきた?」
「おおっ!?」
ゲームにおいて、寝具というのは復帰ポイントやセーブポイントにされていることが多い。
寝具で寝るという行為が帰還と同じ扱いになったのかもしれん。
「寝たらこちらの世界へ戻れる。となると、好きなように姿を入れ替えられるということじゃな!?」
「うわぁ! これからは悩まなくて済むね!」
え? 宇宙人さんサービス良すぎない? クソ野郎とか言ってごめん。
両手を上げて交信して謝る俺を、星野さんは不審な目で見つめた。
「よし! ではわちも姿を入れ替えるのじゃ!」
「それはだめ」
俺は星野さんに捕まり、強制膝枕させられた。んああああ……。
いやそもそも今日はすでにゲートが閉じとるし入れないのじゃが。
本棚の前の無から、ごろごろごろと妹と北神くんが転がり出る。
よくよく考えると不思議である。ゲートってなんなの? ワープしてんの?
人間の質量、妹5Xkgを突然出現させたらそのエネルギーで地球爆発しない? 物理学どうなってんの? こういう時は反物質が何かしてるって言えばだいたい解決する。そう、SFならね。
「ぐええ」
「んぐっ」
人の姿だ。どうやら向こうで死んだようだ。
一瞬の苦しみのあと、「ただいまぁ」と妹は弱々しく口にした。
「どうじゃった? やはり風来坊のシランじゃったか?」
「んー、どうだろう。あたしらね、まず町を探索してたんよ」
俺が井戸に落下ししたあと、妹は大笑いしたあと、「何やってんだよお兄」と憤慨し、そして呆れ、もう一回笑ったそうだ。
そのあと外へ冒険に出る前に、まずは町を探索しようという流れになった。
その途中で星野さんを宿の布団に寝かせてみたら、星野さんは姿を消した。聡明な北神エルフがこれを帰還の可能性が高いと看破し、町の別の場所を調べ始めた。
「それで何したの?」
「何もしてないよ。いきなり石を投げられて死んだー! むかつくー!」
石を投げられて死んだ? はて?
「北神くんも同じか?」
「僕は別行動だったから、同時に死んだのは偶然だね。僕は店のアイテムを盗んでみたんだ」
おいおい。可愛い顔して大胆だよこの子。
「そしたら、あの四階にいた黒い犬。あれに追いかけられてやられちゃった」
「なるほどなのじゃ」
万引き。だめ、絶対。
「さて! みんな無事に元の姿に戻れたことだし、お風呂に入ろうか!」
「おー! んむ? わちは戻っておらんぞ」
「そんだな! 北神も行くぞぉ!」
流石に焦る北神くん。かわいい顔して北神くんは実は男だ。
「なんだよ今更照れやがって。じゃあ三人で行くかぁ!」
「わぁい! ポーション風呂ー!」
女子二人で行ってくるがよい、とわちはどんと構えておったが、連れ去られてしもうた……。
お湯ざばー。
「わぷっ」
星野さんの生ぽよぽよが! 生ぽよぽよがぁ!
俺は心を無にした。
助けて北神くん……。
「ふぃー」
そしてドライヤータイム。
それは良いとして、なぜ撮る? 妹が俺にスマホを向けている。
「湯上がりティルちー」
わちの着ておるベビードールが風に煽られて危険が危ないちらりずむである。
絶対この動画使えんじゃろ。
アップロードしないよな?
翌日の水曜日。
星野さんが元に戻って安心する担任。
俺は? 俺のことは? もはや心配すらされてない? おろおろ。
すると担任はスマホを手に取り画面を見せてきた。
「年頃の女子があまり肌を見せてはいかんぞ」
ぬあ! それはわちの湯上がり動画!? 担任バレしちょるぅ!
妹!? 妹ぉ!?
わちはその場から逃げ出した。
わちのえちち動画が無断アップロードされた結果、女子からのセクハラが激しくなった。
「ぬああっ! やめっ! やめるのじゃあ! おかっ! けがされりゅう!」
セーラー服はたくし上げられ、スカートはめくれて乱れまくっておる。
助け……たす……いやじゃあ……北神よわちを見ないでおくりぇ!
事後。
知っとるか? 幼女はくすぐると漏れる。
幼女ぼでーのわちは、少し緩くなっていた。漏れた。くすん。
わちは放課後までノーパンで過ごした。危険が危ないつるぷにずむである。
特にニッシーからは離れておく。あやつ、ノリで突然スカートめくりとかしてきそうだからな。いや、もちろん他の女子にはしないぞ。俺が男だからな。そうやってウケを取ろうとするのがあいつだからな。本当に洒落にならんぞ。いいか。
さすがのニッシーも慎重になっており、さらなる事件を起こすことはなかった。だが、下半身の防御力が気になりすぎて、ニッシーに話しかけられても耳から耳へと通り過ぎる。
「早く男の姿に戻ってさぁ、一緒にダンジョン潜ろうぜ! な!」
「う、うむ! ダンジョンには行かんが」
「なんでだよ!」
なんだかんだで男に戻れと言ってくるのはニッシーくらいだ。親友ってありがてえなぁ。
一緒にダンジョンには行かんが。




