24話:新たな冒険へ
もしちょっと触れづらい事情を持った陰キャの男子が、ド派手な水色髪の美少女になったらどうする? そんなのクラスに溶け込めるわけがないだろう? 南さん自身もそう思っていた。
だけど溶け込めた。俺やら北神エルフの前例があったのも大きいけれど、ニッシーの暴走が結果的に南さんをクラスで受け入れる形を作ったのであった。
「え? マジで南ハルオなの? 良かったなぁお前!」
「くっそ! こんな美少女になるならもっと仲良くしとけばよかったわ! そういうことは先に言えよな!」
「これからは女子になるのか? がんばれよな!」
女子からでなく、男子からも応援の言葉や軽口を言われるくらいまでになった。南さん自体は相変わらずおどおどしているが。
代わりにニッシーがクラスで浮いておる。
俺は奴を慰めるため、ぎゅっと抱きしめてやる。
なんだかんだで、こいつは俺の姿が変わっても、俺の事をアズマのままとして扱ってくれるからな。その点は感謝している。
「やわらけー……良い匂いがするぅ……」
あ、やっぱこいつもダメかもしれん。俺は危ない男からパッと離れた。
さてわちは放課後の美術部でぷにぷにされる。放課後ぷにぷに倶楽部。
「おかえりぃ!」
「ただいまなのじゃ……」
ちやほやされてモデルにされる俺。
男だった昨日までと全く待遇が違うぞ!
しかしこいつら、中身が俺だと気づいてるのだろうか。かわいければ男でもいいのか?
「(ぷるぷる……)」
そしてついでに連れてこられた南さんは、俺に引っ付いた。
南さんは星野さんではなくなぜか俺に懐いた。いやまあ、星野さんはオスケモになってしまったのもあるかもしれない。
あとわちと体格が似ているせいかもしれぬ。わちの方が一回り小さくてぺたんこじゃが……。ぐぬぬ。
もちろん、南さんは美術部員に囲まれてわちと同じく犠牲となる。星野さんもだ。
「復帰宣言動画観たよ~」
「休止撤回良かったぁ」
そう。日曜日に無期限休止宣言して、月曜日の夜に元に戻ったわちじゃ。
一日で復帰である。「騙された!」という反応が多くて、妹は「炎上怖い」とぷるぷる震えた。
そこでお騒がせしました動画をアップロードした。
「愚かな人間どもめ! わちじゃ。ティルミリシア=フィレンツォーネじゃ。今回はわちのお休み宣言からの即撤回で騒がせてしまったようじゃったのう。まあわちは人間どもに謝る事などしないがな! がはははっ! さて、わちは現世では不安定な状態でのう。今後も時折お休みすることになるのじゃ。それは今回のように一日になるか、一週間になるか、一月になるかわからぬ。それは本当の話じゃ、すまぬのう。あっ謝ってしもうた。ここカットじゃな」
またカットされてない……。
「それと……そもそもわちは盗撮など許しておらんのじゃが、風呂のむぅびぃは皆に観せてはおらぬよな? いかんぞ。期待しても上がらぬからな。無駄なことじゃ」
えっちな動画はいけないのじゃ。
「これからもティルミリシア=フィレンツォーネの応援よろしくなのじゃ。忘れずにチャンネル登録と評価を入れるのじゃぞ。そう言えってわちの下僕が言ってた。じゃあのー」
さて。俺の活動がいつ止まってもいいように、つまりいつ元の姿に戻ってもいいように、妹は校内でも構わず動画を撮りまくった。撮り溜めして小出しにしていく作戦だ。だんだん知恵を付け始めてきやがった。
まあ、まだダンジョンが残ってるかわからないけどな……。
あった。復活してた。
とりあえず俺はほっとする。
そして今日も平日なのに俺の部屋にいつもの一同四人が集合。南さんはなし。
「南さんがいれば楽勝なのになー」
「意味ないじゃろう。入ったら男の姿に戻るのじゃぞ」
「あ、そっか」
南さんの魔法効果倍増は強力だったが、もうダンジョンに入る理由がないし、男の姿に戻ってしまう。彼女自身も、元の姿に戻りたくないだろうし。
「それと先に言っておくのじゃが、ダンジョンの様子が変わってる可能性があるのじゃ。いつもと違う場所でも慌てるんじゃないぞ」
「おぅけぇい」
俺は、憶測だしまあいいかと黙っててトラブルを起こすような間抜けではない。わちは賢いのじゃ。
そしてこの予感、「ダンジョンの様子が変わってる」は間違いないと思っている。
全5階のダンジョンが終わったから、次は20階くらいだろうか。
この突入前の緊張感は最近はなかった。ワクワクとドキドキが50:50だ。
「それでは出発じゃ!」
「おうよ!」
ぐわん。視界が揺れて暗転する。
あれだ。一瞬だけ寝落ちしたって感覚。いつものやつ。
そして、着地。
周囲警戒。薄暗い。岩壁。少し臭い。骨が転がっている。
何だここは、洞窟か?
洞窟を簡素な棲家にしたようなワンフロア。そして俺たちの前に緑髪の男が立っていた。誰だ? 俺たちではない。俺たち以外の人間? モンスター? NPC?
男は懐から何かをとりだし、それを地面に放った。べちゃりを音を立てたそれは、肉塊だ。
「ひいっ!」
一同が怯える中、北神エルフが意を決して肉塊に手を伸ばしたが、慌てて俺はそれを止めた。
「や、止めとけ北神エルフ」
「え? あ、はい」
やばい。俺は感づいた。これ知ってる。この状況を俺は知っている。
「えろいな……」
「えろ? エロ要素なんかどこにもないぞ。気が触れたか兄よ」
そう。これはとあるローグライクRPGの、衝撃的なオープニングに酷似していた。
世界中にファンを持つその大名作ゲームの名はエロイナ。一挙一動で取り返しのつかないことになる、めちゃくちゃハードでヘビーな世界である。
今回で一章終了なのじゃ。ここまで読んでくださりありがとなのじゃ。
チャンネル登録……ではなかった、ブックマーク登録と評価で応援おねがいなのじゃ。感想も待ってるのじゃ!
(こんな感じな締め方でしたが、本当にあの世界にしてしまうと二次創作になってしまうので、色んなネタを混ぜつつ今まで通りって感じになります。期待させてしまいましたら申し訳ございません)




