21話:あー俺、完全に攻略法わかったわー。
とりあえず、北神エルフと同じ鑑定能力ではないということはわかった。
二階に行く前に作戦会議だ。
南さんに、俺たちはみんな能力というものを持っているということをまず伝えた。
「ということで、南さんの能力を知りたいのじゃ。その見た目の元ネタを改めて教えてくれんか」
「え、と、人気VTOUYUBERのシャチちゃん、です」
SYACHI?
「あー! 知ってる知ってるー! 帽子がないからわからなかった! 確かに似てるねぇ。あれやってあれ。『シャーチ!』ってやつ」
「しゃ、しゃーちぃ!」
「あー! わかるわかるー!」
妹がキャッキャし始めた。妹と仲の良い星野さんも知っているようだ。
それにしても、やはり元ネタはエンタメなのか。5分の5ならもう偶然じゃないよなこれ。
「それで、そのシャチは何ができるんじゃ?」
「何言ってるのお兄。シャチはシャチでしょ」
「シャチはシャチだよね?」
なぜ、妹と星野さんのダブルでツッコまれなきゃいけないのじゃ……。
シャチといったらレーダーみたいなあれ、なんだっけ。
「エコーロケーション?」
「それじゃ」
「関係なさそうだけど?」
そうじゃな……。うーん? わからんぞ。
ここは一旦シャチから離れよう。別の視点が必要だ。
鑑定できたものは「イカヅチの魔導書」と「爆発の杖」で、「青い草」は鑑定不可。もっとアイテム数があればわかりそうだけど、今までも一階にはアイテムは最大三つしか落ちていなかった。
俺が考えていたことと同じことを北神くんも考えていたようだ。
「イカヅチの魔法はきっと攻撃魔法だろうし、爆発の杖も攻撃魔法だよね。つまり?」
「ああ! なるほど。きっと魔法適性みたいな感じなのじゃな?」
魔法使いだから魔法関係のアイテムが鑑定できる。そういう方向か!
とすると能力は「魔術」とかそういう感じだろう。うちのパーティーについに魔法使いが!?
でもシャチと魔法って関係あるん?
魔法と聞いた南さんはビビクンッと反応した。
「ご、ごめんなさいっ……!」
「なにがじゃ?」
「あの……言ってなくて……」
「なにをじゃ?」
むぅ。急かすつもりはないのが、ゆっくりしていると空腹システムが襲ってくるのだ。リアルはターン制ではないので、のんびりしているだけでも急速にお腹が減ってくる。
「お……おれは、魔法少女が好きなんです……!」
むぅ。南さんはおれっ子だったか。いやそもそも元の姿はあれだからそうか。心は女でも、男の身体で、男として生活してたわけで。
いや、それよりも、魔法少女?
南さんは「変身願望」があったとか、そういう話をした。なるほどね。南さんに取っては少女趣味とかではなくすごく切実な願望だったわけだ。変身が。
「それで魔法関係の能力になったのかのう。シャチちゃんも魔法と関係あったりするのかの?」
「あーどうだったっけ。魔法の国から来たっぽい感じはあったかな?」
「シャチ人間だしねー」
と、猫人間が言う。
「おっけーわかったのじゃ。魔法使いの能力と仮定して、イカヅチの魔導書と、爆発の杖は南さんに任せるのじゃ」
「は……はいっ」
「二階のモンスターは今のメンバーじゃと魔法でしか倒せないからのう。さっそく南さんに活躍してもらうのじゃ」
「……はいぃい!?」
さて、憎き二階へ来た。
特にこの巨大スライム。今まで一度も倒したことがない。
「では、いっいきますっ」
凄まじい雷光と雷鳴で、わちの目と耳が「うぎゃあああ!」となった。
南さんのイカヅチの魔法である。
「どうじゃ!? やったか……!?」
「お兄それフラグじゃ!」
「しもうた!」
やったかフラグはやってない。まあ、いくら凄い魔法だったからといって新入りの一発くらいじゃあの巨大スライムは斃せんじゃろうて。ぬはははっ!
し、死んでる……。
「スライムが消えていく……」
「ぱねえ。南さんぱねえ」
最強魔法少女南シャチちゃんの誕生である。
「はふぅ……」
「大丈夫? 疲れた?」
星野さんが心配して駆け寄った。魔法の疲れというより緊張とプレッシャーの方が大きかったようだ。
ちょっと気負わせすぎたか。別に失敗してもいいんだけどね。初挑戦の初戦闘だしね。仕方ないね。
「ねえ、これこのまま楽勝で先に進めるんじゃない……?」
「はっ!?」
まさかの新メンバー最強キャラ説!?
あー俺、完全に攻略法わかったわー。
パーティーに南さんを入れる。これね。
いやちょっと待て。いまちょっと考えたくないことが頭によぎった。
「ティルちゃんのペット、役に立ってねえな」
「妹よ。ちょっと黙っといてくれぬか」
二階はわちの使役ペットで撹乱させて切り抜けるつもりじゃったのに! ぐぬぬぬぬ!
「ごっごめんなさいっ……」
「い、いや、南さんが悪いのではないのじゃ。南さんが強すぎてわちの出番がなくなっただけじゃ」
「今までもなかったけどな」
「んなぁ!」
怒ったわちは妹にコウモリをけしかけた。
さて、ふざけてる場合じゃない。
アイテムを二つ拾ったところでゲートを見つけた。二階の探索は終了し、このまま先へ進むことにする。
こんな便利な魔法システムが使い放題なわけがない。もしMPシステムだとしても、そのMPが見えないのでさじ加減がわからない。なので南さんに無理をさせないようにする。したい。だけど今のところ南さん頼りだ。
「……ステータスオープン」
「あ! 南さんがステータスオープンした! ステータスオープンしたぞー!」
「やめるのじゃ妹よ! MPがあるかもしれんと言ったのはわちじゃ!」
南さんが恥ずかしさで死にそうになっているその様子を見た感じ、ステータスはオープンされなかったようだ。そりゃそうだよね。だってゲームじゃなくて現実だもの。ダンジョンにいるとその感覚が薄れてくるけど。
「三階は混乱させてくる浮いてる目玉と、岩のゴーレムじゃ」
「ゴーレムは無理だよねぇ。あたしがマッチョだったら良かったんだけど」
「拾った投げナイフも使えんしのう」
二階で拾ったアイテムは「投げナイフ」と「赤い草」だった。ローグライクゲームだと、同じ表示でも毎回効果が違うものだが、「赤い草」は二度とも火炎草だった。もしかしたらこのダンジョンではそういったランダム性のあるゲームと違い、また同じアイテムな可能性はある。
三階では、投げナイフが思いのほか活躍した。星野猫人の特徴や特性がアサシン系な感じなのか、投げナイフの適性があったようだ。そのおかげで目玉モンスターを遠距離からサクッと斃すことができた。
途中に出会ったゴーレムには赤い草を投げつけた。赤い草はやはり火炎草で、ゴーレムはあっさりと斃せた。なるほど。草の特徴と効果は変わらないらしい。もし北神エルフの鑑定がなくても、一度人力鑑定したらその後は効果がわかるのか。
そして、爆発の杖も試した。
爆発の杖は、以前俺が巨大スライムに使ったのと同じものだ。しかし、南さんが使うと威力が倍以上に上がっており、岩ゴーレムを一撃で斃す事ができた。
やっぱすげーぜ魔法少女南さん! やはり魔法威力の上がる魔法使いな能力なのだろう。
三階で拾ったアイテムは「ポーション」と「棍棒」だ。
棍棒は今回の役立たずの妹が装備した。蛮族妹の誕生だ……。ネズボウと並べると瓜二つだぜ……。口に出したら撲殺されるから言わないけど。
「さてこの先は、魔導師と足の速い犬じゃのう」
「作戦は?」
「やられる前にやるのじゃ」
「OH……。OHざっぱ……」
「しかたないのじゃ。魔導師は杖を振られる前、犬は近寄られる前にやるしかないのう」
ここでやっとわちのコウモリが役に立ったのじゃ。
星野猫人が通路先の魔導師を感知したところで、コウモリを先にけしかけて気を散らし、そこへ星野猫人の投げナイフをドン! ね、簡単じゃろ?
犬は南さんの出番である。
犬はただ足が速いだけなので、星野猫人が敵感知し、南さんが落ち着いてイカヅチの魔法を使えば確殺コンボである。おそらく犬は複数同時に襲ってくると怖いやつだ。
「レールガンってやって! レールガン!」
「れ、れーるがんっ!」
妹よ。言っておくが、レールガンは電気で弾丸を射出する物理攻撃であって、電撃攻撃は全くの無関係だぞ?
そして、四階ではアイテムを一個「巻物(効果不明)」を拾ったところで、ゲートを見つけた。
「どうしようかのう」
「進むか。四階の探索を続けるか。巻物を使うか? 北神はどう思う?」
「僕は進むのが良いと思います」
ここで空気を読まず、お腹の音がぐぅぅぅぅと鳴った。
「ご、ごめんなさいっ……おれです……」
「その見た目でおれっ子で腹ペコキャラだと……? 属性が混乱してやがる……!」
「みんなはお腹減っていないかのう?」
みんなは言われてみれば確かにくらいで「空いた」ほどではないようだ。確実に差がある。
「おそらくそれが魔法使用の代償じゃな」
「魔法を使うと腹が減るってこと?」
「南さんの能力も関わってる可能性もあるから不確かじゃが」
それでも言えることは、南さんはもう先が長くないということだ。
お腹が減ったらいきなり体力が減って餓死するのがローグライクである。
「急ごう。腹が減る前に」
「妹よ。それちょっとかっこ悪いのじゃ」
初の五階である。
「あ、言い忘れたのじゃが、ローグライクではキリの良い階数で何か起こったりするのじゃ」
「んんんんっ! いかにもボスフロアぁ! 先に言えぽんこつお兄ぃ!」
さて、広いフロアに柱が何本も立っていて、奥に見えるのはミノタウロス? そして今まで階層にいた敵が一匹ずつ? ふむ。どうしたものじゃか。




