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TSローグライクダンジョンへようこそ  作者: ななぽよん
【一章】人工壁のシンプルなダンジョン
19/74

19話:わち、ただのぷにぷに幼女じゃなかった件

「お兄がエルフ北神にデレデレしすぎて気持ち悪い件」

「そんなの俺だけじゃなくて校内中の全員だろ?」


 下校中。俺は妹のスマホで北神くんを撮影して歩いている。

 そんな歩きスマホの(とが)める人間はこの世にいない。隣にゴリマッチョイケメンハリウッド俳優風なスーツ姿の妹が並んで歩いているからだ。

 北神エルフに声をかけようと近づいてきた男も、妹の姿を見ると「あ、ちょっと向こうに知り合いがいた。おーい!」みたいな雰囲気で去っていく。さもありなん。


「買い物行こうぜぇ」


 そう言って寄り道した店で妹は百円のグラサンを買って装着しているので、まさに金髪美少女エルフを守るSPになっている。


「美少女エルフがパフェを食べてるところが撮りたい」

「わたくし、甘いものは苦手なのですが……」


 しかしそこは北神エルフの演技力だ。美味しそうにパフェをつついてくれた。

 残りはスタッフが美味しく頂きました。

 だがそこで一悶着(ひともんちゃく)が起きた。


「美少女エルフと間接キスが目的だろお兄!」

「北神くんは男だぞ! お前の方こそダメだろう妹よ!」

「それを言ったらお兄こそアウトじゃあ!」


 ぐぬぬぬとスプーンを取り合っていたら、美エルフ北神くんが店員を呼んで二人分の取皿とスプーンを用意し解決した。店員はさぞこの、「この世のものとは思えない美少女エルフ」「アカデミー賞取ってる雰囲気のあるマッチョ男」「平凡な男子高校生A」の組み合わせで、その上パフェを巡って喧嘩を繰り広げ不思議に思ったことであろう。俺自身だってなぜこうなったのかわけわからん。



「さて、本日もお集まりいただきまして、本当にありがとうございます」

「へっ。このメンバーで今日もダンジョンに行こうっていうのか。無茶言いやがってよぉ」

「早く元に戻りたいですからね。挑戦はするべきでしょう」


 突入前に俺の部屋でのミーティング。

 だが今日の探索は絶望的だ。本日のメンバーはこちら。


・ぷにぷに幼女吸血鬼:役立たず

・女子高生:凶暴なだけ

・イケメン男子:ダンジョン経験は豊富な有力株


 どうしようもねえ。

 しかし、今回は新しい試みがあるのであるのである。あるある。


「ということで、古いスマホを用意してまいりました」


 と、北神エルフ。

 壊れてもいいのでこれで撮影してみようという話だ。

 そのスマホ、俺にくれ。しかしOSが古すぎてLIMEすら動かないらしい。やっぱいらね。


「これでティルちゃんを撮れってぇことだな!」


 そういうことになった。

 そして、こうなった。


「ちょ! 手伝って欲しいのじゃあ!」


 巨大コウモリに半泣きになりながらダガー(拾い物)を振り回すわち。

 それを撮影する北神くんと、応援する妹。


「武器を持ってるのティルちゃんだけなんだから! ほら! 早く倒して!」

「ふやぁああ……」


 ぶんぶんぶんぶん。

 何も俺の中に力が湧いてくる気がしない。

 もう一つの実験。それは、お前の能力なによ? ってことだった。


・妹マッチョ:怪力

・星野猫獣人:探知

・北神エルフ:鑑定


 ならば吸血鬼のティルミリシアにも何かあるはずだ。このままではただのぷにぷに幼女だ。

 さらに妹が「ティルちーって吸血鬼要素薄いよね」と虚仮(こけ)にしてきおったから見返してやらねばならぬのじゃ。

 うにっと上唇を指でめくって牙を見せるも「牙じゃなくて八重歯じゃん」と言ってきおるし、「吸血鬼なら黒い翼とか生えてない?」とか言ってきおるし。翼はあるなしあるじゃろうが!

 それに飛ぶ気になったら翼くらい生えるわ!

 生えなかった。

 ぶべちっと地面に転がった。どうやら飛行能力ではないらしい。


「太陽に当たっても灰にならないし」


 ちょっと日焼けしとるし! ポーションで色白に戻ってるのじゃ!


「あとは吸血鬼と言ったら不死とか」

「ぬっ! ふっ! ふやっ! わちはっ! 簡単に死ぬんじゃ! が!」


 はぁ。ふぅ。ふにゃあ。なんと、わちは、ダガーで、コウモリを、たお、した!

 ぶいっ。

 そして、戦闘が終わり、撮影に徹していた北神くんがぽつりと言った。


「吸血鬼なんだから、吸血なんじゃない?」

「!?」

「!?」


 なんという盲点。


「ふっ。気づいてしまったか、北神」

「気づいておったのか妹よ! そのうえで黙っておったじゃとぉ!?」

「ぽんこつティルちゃんがいつ気づくかなと思って放置してみたのじゃ」

「ぐぬぬぬ……」


 いやだけど、吸血と言ってもどうすんのよって話だ。

 妹がマッチョ姿ならば捕まえて貰えばよいが、ただの女子高生では一階の棍棒野郎にだって殺される。


「しゃーない。あたしが犠牲になったるかー」

「いいのかのう。妹よ」

「お姉ちゃん」

「……ヒメおねえちゃんよ」


 ヒメおねえちゃんは親指をぐっと立てて、棍棒野郎に飛びついた。


「いまだ! はやく!」

「よち!」


 わちはぺたぺたぺたと駆け出し、妹が撲殺されたその隙に、棍棒野郎に抱きついて、首筋に八重歯……じゃなかった牙を突き刺した。

 がぶぅ。

 ぐぇえええ! 不味いのじゃあ! ドブの臭いがすりゅう!

 しかし、わちの中で力が湧き上がってくるのを感じる。こ、これがわちの本当の力……?

 万能感を感じる! これが最高にハイってやつか! はーっはっはっはっは!


「あ、油断した」


 やはりわちはぽんこつであった。棍棒野郎は消えていない。それを前にして両手を腰に当てて高笑いしていた。

 そして奴は棍棒を振り上げ、それを振り下ろ……さなかった。


「あれ?」


 今のいつもなら死ぬながれじゃったはずじゃが?


「もしかして、モンスターを仲間にしたのかな?」

「なん……じゃと……?」


 わちは棍棒野郎に手をかざしてみた。特に反応はない。

 とてとてとてと離れてみたら、ずりりりりと側に寄ってきた。

 な、仲間っぽい!?


「ということは、ティルミリシアの能力は使役(しえき)ってことになりそうだね」

「むぅ! 凄く可能性を感じるのじゃ!」

「モンスターを(たお)すだけじゃなくて、これからは仲間にする選択肢も増えたんだから、そうだね」

「……もしや、わちはこのダンジョンの攻略法を根本的に間違えていたということかの?」

「そうだね」


 ぬああああっ!

 これはあれじゃな。妹が強すぎてワンパンしてたせいで逆に気づかなかったというやつじゃ。妹が悪い。


「吸血鬼の使役と言ったらコウモリじゃ! コウモリも使役するのじゃ!」

「それ、さっき思ったんだけど、コウモリってティルミリシアに攻撃してなかったよね?」

「む?」

「じゃれついているように見えたけど。ちょっと動画観てみる?」


 北神くんが撮影を止めて、わちにスマホを観せてきた。そして先ほどの戦闘を再生。ふむ。わちが怯えてダガーをぶんぶんしているだけで、コウモリは一切攻撃してきていない。

 そういえば、コウモリがきっかけで死んだことはあっても、コウモリに攻撃されたことって一回もなかったような?


「もしかして、これってそういう?」

「仲間になりたがっていたんじゃないかな?」


 わ、わちはそんな健気なコウモリを殺してしまったじゃと……?

 す、すまぬコウモリちゃん……。なんだか急に巨大コウモリがかわいく見えてきた。

 こ、コウモリちゃん!

 わちは近づいてきた巨大コウモリにがぶりと噛み付いた。巨大コウモリがわちの頭の上でバタバタと旋回する。


「攻略が根底から変わってくるのじゃ……」

「すごいね。これはすごい」


 これはあれじゃ。最弱幼女と思われたわちが実は最強テイマーだった件ってやつじゃ!


「この調子で仲間を増やしていくのじゃ!」

「難所の二階も使役モンスターを囮にすれば楽になりそうだね」

「北神くんよ。意外とぬしはシビアな考えの持ち主じゃな?」


 わちのかわいいペットたちなんじゃが?

 さてはて。

 二人目の棍棒野郎を発見したので、わちはコウモリをけしかけて気を逸らした。適当に棍棒野郎に手を伸ばし「コウモリよ。あいつの気を引くのじゃ」と宣言したら、その通りに行動してくれた。わちすごい。

 そして仲間の棍棒ちゃんに「やつの動きを止めるのじゃ」とけしかけて、棍棒ちゃんは棍棒野郎に棍棒を振り回し始めた。

 か、完璧なコンビネーションじゃ……。

 わちは後ろから近づき、棍棒野郎にがぶりと噛み付く。


「棍棒ちゃん離れたまえ。ふははぁ! どんどん仲間が増えていくのじゃあ!」


 そして棍棒2号は棍棒を振り上げた。やる気満々じゃな!

 それをわちの頭に振り下ろした。

 わちは死んだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ・ぷにぷに幼女吸血鬼:役立たず(×)→かわいい(○) まあ、当然テイム人数制限くらいありますよね。
[良い点] 吸血がどういう方向に向かうかとは思ってたけど、自己強化ではなく使役系ですか。 いい感じにリスクがあってコメディ絵面も狙いやすくてよいですね。 [気になる点] 実際死に戻りってノーリスクなの…
[良い点] ついにティルモードでの異能が明らかになりましたね。おめでとう主人公くん! そして調子に乗ってあっさり殺される辺りもコメディちっくでさいこうでした。 [一言] 言動がすっかりぷにぷに幼女吸血…
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