11話:大丈夫だから!
「TSローグライクダンジョンへようこそ」
ダンジョンに入ったら、やっぱり星野さんも男になった。
しかし星野さんは普通の男ではない。
「しのっち毛深すぎぃ!」
「毛深いって言い方はやめてぇ!」
星野さんはいわゆる猫型の獣人になったのだ。
「ヒメちゃはすごいね、その、筋肉」
「俺に惚れてもいいんだぜ?」
「好き! 抱いて!」
星野さんも妹マッチョにメロメロだ。
だが星野さんもオスケモ獣人である。女子同士が抱き合っているはずなのに、見た目が非常に汚い。
「しのっちもふもふじゃあ!」
「ヒメちもムキムキじゃあ!」
「二人とも、そろそろのじゃ口調やめて」
今の俺は元の男の姿なのに、のじゃ口調が戻ってきそうになる。
しかしこのパーティー構成。まったく花がなさすぎである。
ただの高校生A。ハリウッド系イケメンマッチョ。オスケモ猫獣人。
漫画だったら即打ち切りだな。
「それでどうするの? アズマくんを殺せばいいの?」
「ティルちゃんに戻すならそうだね」
おい星野と妹。さらりと怖いこと言うな。お前達邪魔するために来たのかよぉ!
「やめやめろ! 俺は生還を目指す。だけど二人は死なないとその姿で戻ることになるからな。だから死ねよ」
「女の子に死ねとか良くないよお兄」
「そうだよ怖いよアズマくん」
今更言うな。その話しは入る前に説明したじゃろがい!
「じゃあいつものように俺はマップ描くから、妹は前を頼む」
「あいよー」
「それなら私は後ろにいるね」
あれ? なんか俺女の子に守られる陣形になってない?
俺が妄想してた冒険ってもっとこう、女の子を守ってかっこよく戦う感じじゃない?
男になった女の子に前後挟まれて、しかも微妙に俺の命を狙ってる子が背後にいるこの状況、頭がバグりそうなんだけど。
おい星野。後ろから俺の首にそっと手を添えるな。
「お! いきなりポーションゲットぉ!」
「え? ほんとっ!?」
ポーションゲットしてキャッキャウフフするマッチョとケモ。
「これはぜひともお兄に持ち帰って貰わねば」
「頑張ってっ」
とりあえずこれで星野さんの俺への暗殺フラグは消えたらしい。良かった。
そして余裕の一階を周りおわった。
最初は妹の筋肉を「すごいすごい」とはしゃいでいた星野さんだったが、星野さんの猫獣人の戦闘力も凄かった。爪でズバッと切り裂きモンスターを一撃である。
だけどこれ、戦士に戦士を加えたようなもので、二階でのモンスターに対応できそうもない。
今回一階で手に入ったアイテムは、「緑の草」、「木の杖」、「革の胸当て」だ。初めての防具ゲットである。
「これはお兄が装備だね」
「ああ」
草は相変わらずなんだかわからなくて草。
木の杖に頼るしかない。
「それじゃ二階へ行きますか」
「おぅけい」
「はーい」
二階での作戦はこうだ。さっさと次の階へ降りてしまう。
三階のモンスターが二階より弱いとは限らないが、物理攻撃に強いモンスター二種の二階は相性が悪すぎる。
「敵確認! ゲート確認!」
「まじかよぉ!」
入った小部屋は大当たり。いきなり次の階へのゲートを見つけた。
しかしその前には巨大スライムが鎮座していた。
「あたしが囮になるから、お兄としのっちは先へ!」
「わかった!」
「ごめんねヒナっち!」
親指を立てるイケメンマッチョ。これ、俺の妹なんだぜ。かっこいいだろ?
お前の犠牲は無駄にはしないぜ。
初の三階。
壁の色は橙色になった。
「敵なし! 安全よし!」
「よーし」
ふふっ。憧れの星野さんと二人きりになっちまったぜ。オスケモだけど。
「大丈夫かなヒナっち……」
「大丈夫。死んでも苦しいのは少しだけだから」
俺たちが死んでもそこまで恐怖せずチャレンジを続けられたのはそこである。殺されたのに死ぬほどの痛みはないのだ。いやまあそりゃ痛かったり苦しかったりするけど、来るとわかっていたら耐えられる程度の痛みだ。
妹のローキックの方が痛いまである。
「それじゃあ私が前を歩くね」
「お願いしやす」
三階で最初に見つけたモンスターは、宙に浮いた丸い球体に目玉が付いたやつだった。
「うげぇ、そういうタイプか」
「どんなの?」
ゲームではああいうのは状態異常をかけてくるのが多いんだよと、こそこそと隠れながら俺は星野さんに説明した。
「相手にしないのが一番だけど、他に道がないんだよなぁ」
「それじゃあ私が戦ってみるね」
「いやその前に杖を試そう」
遠距離攻撃で仕留められるならそれが一番だ。
俺は杖をぶんと振った。光がモンスターにまっすぐへ飛んでいく。
そして命中したと思ったら、目の前が壁になった。
慌てて振り返ると、星野さんの目の前に目玉モンスターがいた。
「しまった! そういう効果か!」
杖は攻撃が出るだけではなかった。この杖は相手と位置を入れ替える効果の杖だ!
「星野さん! ごめん!」
「大丈夫!」
俺が慌てて駆け寄る前に、星野さんは猫爪で目玉モンスターを惨殺した。つええぜ星野さん!
「大丈夫!」
そしてその勢いで星野さんは俺を惨殺した。
「大丈夫だから!」
星野さんは大丈夫じゃなかった。
こ、これは混乱系の状態異常……。
俺は死んだ。
本棚の前、なにもない空間からにゅるんと黒髪の美少女が転がり落ちた。
そして美少女は「んぐぅぅうう!!」と呻きを上げた。
「おかえりなのじゃ」
「おかえりしのっちー」
「あうぅ……私死んだの?」
俺と妹は本棚の前で星野さんの死に戻り待ちをした。
星野さんは獣人化でシャツの前がはだけてたからまずいんじゃないのと思ったが、俺が幼女の姿に戻ってるから大丈夫という話しになった。
一緒に風呂に入ってる仲じゃしのう……。いまさらじゃった。
「あーあ失敗かぁ。ポーション……」
「もったいなかったのう。じゃが無駄にはならんかった」
「どゆこと?」
星野さんに惨殺された時、一緒にポーション瓶も割れ、俺は死ぬ間際にそれを顔に塗っておいた。
「それじゃあお兄だけ得じゃん! ずるい!」
「はっはっはー! 元に戻った際にはイケメンになるのじゃ!」
「そう考えると、身体の入れ替わりもデメリットばかりじゃないのね」
その通り!
ポーション効果でかっこよくなるなら、この姿のままの方が効率が良いのじゃ!
「なんか本末転倒な気がするのじゃが……」
「あたしはティルちゃんがかわいいからこのままで良いと思う。ね、しのっち」
「うん。ヒメちゃ」
やめろ! 俺に美少女化を押し付けてくるな!
「だけど楽しかったー! また一緒に入ろうね!」
「え? いいの?」
「うん! 毎回死んでもいいなら!」
「んふふっ。そこが問題よねー」
なんかわちのダンジョンが勝手にアミューズメント扱いされてるのじゃが。
「ところでさー。ダンジョンもいいけど。TOUYUBERに興味ない?」
「ぬ? わちはそういうのは観ないが」
あれだろ。馬鹿みたいにはしゃいで騒ぎ起こす奴らだろ? 俺は偏見の知識しか持っていない。
「ティルちゃんのかわいさなら億の年収いけると思うんだよね」
「ははっ。何を言っておる」
「うんうん」
うん? 妹と星野さんの目がマジだ。
「ダンジョンは楽しいと思うけどー、ぶっちゃけあたしたちの目当てはポーションじゃん? 金があれば手に入るじゃん?」
「確かにー。ティルちゃんのかわいさで儲けた方が、ダンジョンに入るより苦労しなさそうだよねー」
お、お前たちは俺に何をさせようとしている……?
「だからなろうぜ! 美少女TOUYUBERによう!」
「うんうん!」
「いやじゃああ!!」
わちは逃げ出そうとしたが捕まってしまった。
「大丈夫! 大丈夫だから!」
やはり人類は滅んだ方が良いと思う。
俺はかわいいドレス姿に着せ替えられて、スマホカメラの前で自己紹介をさせられた。
そしてアップロードされた動画がこちらです。
「わちはティルミリシア=フィレンツォーネ。幾千の時を生きる吸血鬼じゃ。わちの名をお前ら人間どもの足りない脳みそに深く刻んでおくがよい。ぬぅ……こんな感じでいいのかのう? 大丈夫? だいじょうぶかのう?」
おろおろしてる部分がカットされてないんじゃがぁ!?
「かわいいからこれでいいんだよ」
「うんうん! 良きかな!」
突然の俺のTOUYUBERデビュー。妹経由で局所的にバズったとかなんとか。
スマホを持たぬわちには預かり知らぬところであった。




