10話:放課後のじゃロリ倶楽部
「タカシ! 何やってんのそんな姿になって! かわいいじゃない!」
「まあまあ母さん。いいじゃないか。若い頃は無茶するもんだ」
「まったく学校サボってそんなかわいくなって! そういうことならまずは母さんに相談しなさい! 次からはそうしなさい! いいわね!」
へへ。カーチャンの優しさが目に染みるぜ。
夕食時。俺と妹は美少女化した俺の姿をカミングアウトした。もちろん俺のダンジョンのことは秘密だ。
そして俺は妹の予備のセーラー服を着せられた。
「おかしくないかのう?」
「ちょっと大きいけど、うん。大丈夫! かわいい!」
「問題点はそこじゃないと思うんじゃが……」
クラスの地味な男子が、ある日突然銀髪セーラー服美少女になったらどうする?
俺なら結婚を申し込むね。
「かわいいかわいい」
妹はわちのかわいいセーラー服姿を写真に撮りまくる。だんだんこの状況に慣れてきて怖い!
「今夜も一緒に寝ようかティルちゃん。んふふふふっ」
「親バレしたんだから、その必要はないじゃろう?」
「いいから抱き枕になりなさい。パンツ貸さないぞ?」
「ぐぬぬ……」
パンツのためならぬいぐるみ扱いされるのも致し方ない。
ノーパンスカートの心許なさは、やってみたことのある者にしかわからぬじゃろう。
「それじゃ脱いで脱いで。はいパジャマ着替えて着替えて。はいばんざーい」
「ばんじゃーい」
ネグリジェ姿にされて、俺はベッドに連れ込まれたのであった。
翌日。
星野さんが家にやってきた。
「おはよー! ティルちゃんかわいい!」
「ぐっもーにんっ! かわいいでしょ!」
「おはようなのじゃ……」
朝から女子高生のハイテンションに挟まれた。なぜ女子高生はすぐ写真を撮りたがるのか。朝からわちはモデルとなる。
そして両手を取られて連れられていく。
家に迎えに来た美少女と一緒に手を繋いで登校。男なら誰しもが夢に見る光景。だがなんか思ってたんと違う……。
それは俺が見た目幼女だからに違いない。
「スカートがすーすーするのじゃ……」
「中身! 中はどうなってるの!?」
星野さんがスカートをめくってくる。
「あの時お兄が選んだ黒のレース下着よ!」
「んおおっあれね! 子供の姿に似合わない黒レースいいね!」
俺の中の星野さんの清純美少女のイメージががらがらと崩れていくのじゃが。
まだ登校の時間には早く、朝練の部活組しかいない。なので俺の姿もそんなにまだ注目されていない。
早く来たのは担任にこの姿を伝えるためだ。
語らせるのは妹に任せる。
「と、いうことで、お兄ちゃんは女の子になりました。よろしくおねがいします」
「よろしくなのじゃ」
「ぬぅ……。にわかに信じられんが……。星野も一緒なら本当なんだろうな……。でも一応北神にも聞くからな?」
「はい」
「あとそれと、この事は他には言っていないんだな?」
俺はうんうんと頷いた。
「一応すぐに元に戻るつもりなのじゃ。なので大事にはしたくないのじゃ」
「わかった。そのように取り計らっておく」
「助かるのじゃ」
こうして、俺の美少女化ライフが始まった。
かわいいかわいい俺のお人形さんのような姿によって、俺は女子に囲まれてお人形さん扱いされた。
「次こっち向いてー!」
「ティルちゃんこっちも目線ー!」
「スカート! スカートめくって!」
なんたる羞恥プレイ! こちとら幾千の時を生きる吸血鬼じゃぞ! うぬら人間どもの人形ではない!
ぷんすこ。
「怒った顔もかわいー!」
駄目だこの世界。一度滅んだほうがいい。
神もそのつもりでダンジョンを創ったのかもしれぬが。いや、その結果がこれなのじゃが。
「おーいみんな席に着けー! みんなもう知ってるようだが、アズマが女の子になった。ダンジョンの影響だそうだ。このようにダンジョンは危険で溢れている。勝手に入るんじゃないぞお前らー」
女生徒達が散らばり、こそこそとニッシーが近づいてきた。
「上手いことやりやがったなこの野郎……!」
「ティルちゃんをいじめちゃだめ」
悪態を付いてきたニッシーから、俺は星野さんに庇われた。きゅん。しのお姉ちゃん……。
さて、授業は問題なかったが、休み時間に始まる撮影タイムが問題であった。さらに他クラスにも噂が広まり、人がどんどん増えていく。
「えー。撮影は一人三枚! 三枚までです! 写真を撮ったら速やかに移動してください」
流れ作業のように俺は写真を撮られていく。やはり人間は滅ぼした方がいいと思うのじゃ。
二つ目の問題は、体育の時間であった。
体育の授業は男子と女子で分かれる。俺はどっちに行けば良いんだと迷っていたら、「もちろん女の子でしょ」と星野さんに連れられていった。
いやいや女子更衣室に入るのはまずいでしょとあわあわと慌てたが、そもそも体育着を持っていなかった。なので更衣室に入る必要がなかった。セーフ!
ということで体育の授業はセーラー服のまま見学である。女子の運動を一時間眺める眼福の時間じゃ。さっきまでじっと見つめられていた分、見つめ返してやるのじゃ。他クラスと合同なので、妹の姿がちらちら目に入るのがノイズなのじゃ。
「ごはぁーん」
クラスでも落ち着かない、学食に行ったら間違いなく騒ぎになるということで、静かに食べたい俺は場所を移動することにした。
最初は漫研に行くことを考えたが、先輩に見つかったら危険だ。貞操の危険すらある。
そういうことで、俺は妹と星野さんとで美術室へ向かったのだ。
「ぬぁ。匂いが」
「えー? あたしは平気だけど」
ここで使っている画材は油絵の具ではなくアクリル絵の具なので、めちゃくちゃ臭いというわけではないが、美術室の独特の空気で俺の中では「飯を食べる場所ではない」と脳が感じてしまう。
「なにその子ー! かわいー! 銀髪!? それ本物!?」
「撮っていい!?」
美術部の先輩に捕まり、俺は結局落ち着かない飯になってしまった。
まあそこにいたのは二人だけだったので、他よりはましだろうけど。
そして放課後も美術室にお世話になった。漫研は今日もサボりだ。
美術部員に囲まれて撮影会が始まったが、その後が違った。
「ねえねえ! モデルになってよ!」
俺のことを囲み、写生が始まったのだ。さすが美術部員たちである……。
最初は速写だったのだが、だんだん本格的になってきて、イーゼルとカンバスを用意し始めた。おいおい。
「あの、わちはいつまで……」
「しっ! 動かないで!」
「ぐぬっ」
お前達、文化祭に飾る絵の仕上げはどうした?
なんだその「ティルちゃんモデルイラストコーナー作ろう」って案は?
放課後のじゃロリ倶楽部? 何を言っておる?
わちの口調が移り、美術部員のみんながのじゃのじゃ言い出した。ぬああ……。
「お疲れ様ぁー」
「おっつー!」
「ティルちゃん明日もよろしくね!」
「はふぅ……」
死ぬ。このままでは写生殺されてしまうのじゃ!
「お菓子あげるー」
ぱく。もぐもぐ。お菓子おいしいのじゃ。
俺は餌付けされるちょろい幼女だ。
さらに帰りのカフェで、パフェとパンケーキを奢ってもらった。
「わちが妹に奢るはずじゃが」
「いいのいいの。それにヒメお姉ちゃんでしょ」
「ぐぬ……。ヒメお姉ちゃん……」
「よろしい」
まずい。このままでは俺は身も心も幼女になってしまいそうだ。
でも男に戻ったら、この甘い女子空間には戻れなくなる。なんてこった! 俺の中の心が戻りたくないと言い始めている!
「じゃーねーばいばーい!」
カフェで美術部一同は解散し、ヒメお姉ちゃんとしのお姉ちゃんの三人になった。
「ふぅ。おつかれお兄」
「なんじゃ急に。もうティルちゃんじゃなくていいのかの?」
「いや駄目だ」
「ぬぅ……。このままではわちは女の子になってしまいそうじゃ……」
星野さんが俺の頭を撫でて「私は良いと思う」と言ってきた。良くねえよ。
「今日もダンジョンに入るの?」
「もちろんじゃ」
「ねえ。私も一緒に行っていい?」
え!? 星野さんがわちのダンジョンに!?




