裏切り
質素な馬車に乗って、街道を行く。馬車はどんどん北に向かっているようだ。
(レーゲン家の領地は王国の中でもかなり北だった。そのさらに北には魔族の国があったけれど、まさかそこに連れていかれるなんてことはないだろうな……)
魔族の国に行って帰ってきた者は、歴史上でも数少ない。約千年前に現れた賢者、数百年前に現れた勇者くらいだ。魔族の国に行った残りの人間は戻ってきていないため、魔族に殺されるか魔物に喰われるかしたのだと言われている。
もしも僕が魔族の国に連れていかれたとしたら、確実に殺されるということだ。しかし、実の息子をわざと死地に送り込むようなことは流石にしないだろうと考え、魔族の国に連れて行かれることは無いだろうと思った。
「坊主、ここら辺で野営するぜ。明日には目的の場所に着けると思うが、今日はもう暗い。いったん休むからな」
日が沈んでしばらくして、御者のおじさんが声をかけてくれた。
「ありがとうございます、何か手伝いますか?」
「いや、特に必要はねぇな。本好きだったろ、飯作ってる間は読んでていいぞ」
そう言って、おじさんは火を起こし、料理を始めた。僕は言われた通りに本を読むことにした。
大体十ページほど読んだところで、飯はできたぞと呼ばれた。干し肉と野菜を煮たスープ、パンが簡易的な皿の上に置かれていた。
ひと口スープを食べると、何とも言えない美味しい味がした。
「うまいか」
「はい! ありがとうございます」
その後夕飯を取りながら、おじさんと少し話をした。名前や出身地、ちょっとした身の上話などを話した。
食べ終わるとだんだんと眠くなってきた。おじさんが毛布をかけてくれ、そのあと僕は安心して眠ってしまった。
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朝日と、身体中に走る痛みで目が覚めた。昨日野営をした場所とは、全く景色が違うのがわかる。伸びをしようとして、体が動かないことに気がついた。見ると縄で体を縛られ、そして気にくくりつけられている。そして、昨日の馬車や御者のおじさんは、どこにもいなかった。
足元を見ると、紫色の蔓植物が伸び、隣の木に巻きついているのが見えた。
それを見てここが何処なのかすぐに分かった僕は……絶叫した。ただ、叫んだ。最悪の予想が当たってしまったことを呪い、御者の人に捨てられたことを呪い、そして、実の子供を騙して魔族の国に捨て、殺そうとしている父親を呪い、ただただ絶叫した。
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