閑話・終 魔王様の姿
驚くべき更新回……!
「……はっ。夢か」
そう言って僕は目を覚ます。魔王様に『屁理屈で使う魔法』を教わったあと、実験で失敗して吹き飛ばされ、気絶するという夢だ。
「何が夢だ。とても心配したんだぞ」
上から透き通るような誰かの声が聞こえたので、そちらを振り向く。真っ直ぐなブランドの髪に僕と同じ深紅の瞳をした美少女が、椅子に座ってこちらを見ていた。
「……誰、ですか?」
「記憶喪失か? 全く……魔王と言ったら思い出せるか? リュミエールだ」
「魔王……?」
絶対に違う。まず、魔王様の背丈は僕よりも高い。けれど、この美少女は僕と同じか、少し低いくらいの背丈だ。そして声も違う。魔王様の声は、とても重い雰囲気がする声だ。こんなに透き通った声ではない。
「む? 何かおかしいのか……あっ!!」
美少女が慌てた顔で立ち上がる。彼女は顔をペタペタと触り、自分の手や腕を眺め、そして全身を映せる鏡を覗き込んだ。
「あー、まあいい……私は魔王だ。いろいろあって、普段は仮面をつけて幻影を纏っているのだ」
「あ、そういうことだったんだ……じゃあ本当に魔王様ですか?」
「もちろん。……それより! 体に異常は無いか? とても心配したんだぞ」
「あれ、ひょっとして僕、本当に魔法を放とうとして失敗してましたか?」
「まあ失敗と言えるかは分からないが……リヒトが闇の魔力で火球を作り出し的にぶつけたら、大爆発を起こしたことはあったぞ。それでお前は吹き飛ばされて軽い火傷を負ったので、治癒してからここに連れてきた、というわけだ」
「そういうことだったんですか……で、実験の結果はどうだったんですか? 詳しく教えて欲しいです」
魔王様は「はあ……」と残念そうにため息をつく。何にがっかりしているのだろうか。
「お前は魔法の話になると、人の心配を無視する系の人間か。少し残念だが……実験結果は教えよう。
リヒトの放った火球は、着弾と同時に大爆発を起こした。少し離れたところにいた私たちでも、耐えないと立てなくなるくらいの爆風が起きていたぞ。そして、爆発の中心にあった的と、その両隣の的は跡形もなく消し飛んでいた」
「よっしゃ! 成功だ!」
魔法が本当に成功していたことを知れたので、喜んで大きな声を出してしまう。そんな僕を魔王様は、「困った奴だ……」という風な顔で見ている。
「お前は人の心配を無視するなよ……それで、お前は吹き飛ばされて、そして今に至るというわけだ」
「魔王様から見て、魔法の威力はどうでしたか?」
「申し分ない威力だったぞ。私が通常放つまほうと同じくらいの威力があったからな」
「よっしゃ! 怪我をしてでも実験した意味があった!」
「お前は人の心配を理解してくれ……」
「魔王様、まだ夕方ですよね。もう少し実験してきます」
「お前は……お前は人の心配を知れぇ〜〜!」
そのあと、夕飯ができたとメイドさんが知らせてくれるまで、蕩々と魔王様に『どれだけ自分たちが心配したか』ということを、事細かに説教された。
途中で『2人でいる時、じいといる時、そしてルーフェイといる時は、魔王様のことを名前で呼ぶこと』という約束をしたのは、とても大きな収穫だったと思う。
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