はじめてのまほう
部屋に差し込んできた朝日で目が覚める。昨日の夜はぐっすりと眠れたようだ。朝ごはんは準備してくれていると昨晩聞いていたので、食堂に向かう。目の下に隈ができた魔王様が、朝食を食べていた。
「おはようございます」
「おはよう、リヒト。今日も魔力制御の訓練……としたかったのだが、昨日君は魔力制御を殆どできるようになってしまった。よって今日は……魔法を教えよう!」
「おお!」
「とにかく朝食を早くとって、訓練場に来い」
「はい!」
魔法を教えてもらえるということなので、急いで朝食をとる。
食べ終わったので、メイドの人たちにお礼を言ってから、走って魔王城の廊下を通り訓練場に向かった。
訓練場に着くと、魔王様が的の準備をしていた。
「早いな」
「お待たせしてたら、すみません」
「構わない。ちょうど的の設置も終わったからな……では、始めよう」
魔王様は僕のすぐそばに転移してきた。こんなところで魔法を使う意味があるのだろうか?
「魔法の発動についての知識から伝授しよう。まず、魔法の発動に必要なものはなんだと言われている?」
「えーっと、発動に最低限必要な魔力と適切な詠唱でしたっけ」
「半分正しいが、半分間違っているな……。まず、最低限必要な魔力は欠かせない。が、ぶっちゃけ詠唱とか無くてもいい。明確なイメージを作り出す補助として、詠唱があるだけだ。詠唱は無くてもいいが、イメージは欠かしてはならない。だから、魔法の発動に必要なものは『最低限必要な魔力と、明確なイメージ』だ」
「じゃあどうして詠唱ありの魔法が多いんですか?」
「それは、明確なイメージを作り出すのが難しいからだろう。では早速始めるぞ。聞きたいことは、後で昼食の時にでも聞いてくれ」
「はい」
「では、一番初歩的な魔法からだ。そうだな……これか」
そう言いながら魔王様は掌を前に突き出す。掌の前に、紫色の拳大の杭が現れた。
「魔力を圧縮して、杭の形に整えるイメージをし、魔力を込めれば多分できる。必要な魔力量は……目分量で頑張ってくれ」
目分量なんて大雑把な……と思ったが、とりあえず試してみる。
(魔力を杭の形に圧縮……)
掌の前に、紫色の杭が現れた。ちょうど中指くらいのサイズだ。
「一発目で成功させるとは……素晴らしい! では次に、この杭に『推進力の魔力』を込め、それを噴射させるイメージをしてみてくれ」
「はい」
多分、この杭を飛ばす魔法なのだろう。ということは、的に向けて放つ方がいいはずだ。
(さっき作った杭をもう一度作って……)
掌の前に杭が現れる。さっきより魔力を多めに込めたため、前腕と同じくらいの杭ができる。
(それに推進力として魔力を込め、噴射!)
ドンッ!!
鈍い音が響き、的に杭が突き刺さる。魔力を抜くと、杭が消滅した。
「推進力にかなりの魔力を込めたみたいだな」
「そうなんですか?」
「ああ。あのサイズであの密度の杭なら、普通の速度では的に突き刺さらない。突き刺すには相当の速度を出さないとな……もう少し練習したら、次のステップへ進もう」
「はい!」
そのあと午前中は、ずっと魔法の杭を撃ち続けた。より早く発動させ、より密度の高い杭を作り、より速いスピードで打ち込む練習をし続けていると、いつのまにか昼食を取る時間になっていた。
「昼食をとったあとで、次のステップの魔法を教える。そのあと私は仕事のためいなくなるが、講師を一人つけておく。それから……教えた魔法以外は使おうとはしないように。事故を起こしかねない」
「わかりました!」
「なら昼食だ、急ぐぞ〜!」
「は、はい……というか、師匠なんで走るんですか?」
「腹が減った!」
「はあ……」
魔王様が普段からこの調子だとすると、執事の……シリウスさん?……たちはとても苦労してそうだ。
ーーーーー
昼食を食べ終わったため、再び訓練場に戻ってきた。
「では、次のステップだ。複数の魔法を同時に発射するというものだ」
「複数同時、ですか」
「イメージはそうだな……一本道が、途中で二手に分かれている感じだな」
「川が二つに分かれる感じのイメージの方がいいって人もいる」
「お、ルーフェイ。来てたのか」
いきなり話に乱入してきた、猫耳付きの少女(少年?)に魔王様が話しかける。薄めの茶色の髪と、焦げ茶色の目をしていた。
「魔王様、そこの人が?」
「そうだ。リヒト、彼女が私のいない間なら君の先生をしてくれる、ルーフェイだ」
「よろしくお願いします」
「ん……よろしく」
とても手短に挨拶をされた。多分、普段はあまり喋らないのだろう。
「あー、それじゃあ私は仕事に行ってくる。怪我はするなよ」
「はい!」
「わかってる」
僕ら軽く見つめてから、魔王様は走ってどこかに行った。
「練習、始めて。見てるから」
「はい」
さっき魔王様とルーフェイに言われたとおりのイメージで、練習を続ける。
夕飯の頃には、二つの魔法を同時に扱えるようになった。三つの魔法を同時に扱うのは、かなり集中しなければいけないため、まだできていない。
「二つができれば、そのあとは数を増やすだけ」
「三つだと、どれか一つの威力だけが高まって、それ以外は弱くなるんだよ」
「平面図でイメージをしているからそうなる。立体でイメージをして」
「うん?」
「三角錐って知ってる?」
「知ってるよ」
「じゃあ、それの辺の部分に、魔力を流すイメージで」
「……こうかな……? っ! おお!」
綺麗に三つに魔力が分かれ、全て発動した。
「すごい。立体のイメージは、なかなか難しいのに」
「まあ、今日は三つの魔法を同時に発射できるようになったか」
「立体のイメージができるようになれば、複数同時に魔法を発射するのは簡単になる。だから、リヒトは複数同時魔法詠唱者になった」
「そ、そうか……ありがとう」
「構わない。また明日も、教えにくる」
そう言ってルーフェイは歩いてどこかに行った。
その後僕も部屋に戻り、夕飯を食べ、風呂に入り、そして眠りについた。
ーーーーー
リヒトが眠りにつく前、本を読んでいる頃、魔王の自室で……
「どうだったか、リヒトは」
「立体のイメージを難なくこなしていた。すごいと思った」
「そうか! 立体のイメージまでできるようになっているのか……ということは、複数同時発射もできるのか?」
「三つまでできたから、四つ以上もできるはず」
「すごいなあいつは……かなり高度な技術なんだが……」
「イメージ力がものすごい。もっといろいろな魔法を教えたい」
「そうか、ならば自由にやってくれ。リヒトが伸びを見せるのが、楽しくて仕方がないからな」
「じゃあ勝手にやらせてもらう」
そう言ってルーフェイは部屋を出ようとした。
「そうだ、ルーフェイの知り合いで、光の魔法が使える者はいないか探してみてくれ。見つかったら、リヒトに光魔法を教えてほしい」
「わかった」
そう言ってルーフェイは部屋を出ていった。
「本当に楽しみだな、リヒトは」
魔王はそう呟き、笑った。
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