3.リアルのイケメンに翻弄される私はらしくない!!
(え? 何で私の隣に小川くんが……?!)
何だか向こうはめっちゃこっちを見てるけど……
私はどこに目線を置いたらいいの?!
左から焦げそうなくらいの熱い視線を浴びながら絶賛全身硬直中……
ーー遡れば20分ほど前の話ーー
各学年、各クラスから2名づつ、ジャンケンやあみだくじで無理やり選ばれた文化祭実行委員たち。
全部で30人くらい……?
ノートや下敷きを使って仰ぎ、暑さを凌ぎながら談笑している生徒たち。
「みんな暑い中集まってくれてありがとう! まだ全員揃ってないけど時間も押してるんで始めます」
3年の市倉健委員長だ。
サッカー部のキャプテンを務めていたが引退して、今度は文化祭実行委員長としてキビキビとみんなを纏めてくれている。
「とりあえず今日は自己紹介と、役割決め……にしようかと思ったんですが、結局またジャンケンとかになりそうなんで、こちらの方で大体適材適所に役割を勝手にふらせていただきました!」
えーっと言う声が会議室に一斉に上がり、ザワつきはじめた。
「どうしても納得行かない人は後で相談に乗りますんで、僕のところに来てください!」
不穏な空気を物ともせず、市倉委員長はサラッと爽やかに役割とその担当者を読み上げて黒板に板書していく。
「じゃあ、次、文化祭全体、体育館の舞台発表、それぞれのプログラム作成を2年A組の上野芽衣さん、2年B組の小川拓人君でお願いしたいと思います」
その時の私と言ったら、昨日のお祭りで出会った佐藤くんとの余韻が抜けずについボーッとしていて……
周りがざわつき始めて初めて異変に気づき、目を細めて黒板を見た。
「……え? えぇ?? 何で?!」
目に飛び込んできたのは私と小川くんの名前が並んだプログラム作成係の文字。
「いいなぁ、上野さん。私と代わってよー」
「ズルイ! 私も小川くんとがいいっ!!」
私の気持ちは置いてきぼりで、女子たちが揉め出している。
「私は別にいいですよ、むしろ代わって欲しいし……」
いくらでも代わりますっ!!
私小川くん大嫌いですからっ!
「ちょっと待って。プログラム作りは大切な仕事だぞ! 上野のイラスト、とんでもなく上手なのはみんな知ってるか? 何てったって漫画家の娘だぞ! 知ってる奴は知ってると思うけど、あのレベルのイラストかけるやつ、この中にいるのか? それから小川。こいつの人脈の右に出るものはいないだろう? 舞台発表の団体のコメントやら、インタビューやら、情報を仕入れてまとめる事ができるのはこいつしかいないって思ってる」
委員長の力説に会議室が一気に静まり返る。
「まぁ、それなら仕方ないか……」
「大変そうな仕事だしね」
次々と納得する声が上がる。
「え、ちょっと待って……」
「じゃ、お願いな! 二人とも」
委員長が鬱陶しくウインクしてくる。
「はい、任せてください」
反対側の席から小川くんの自信満々の返事が聞こえてきた。
「小川の人脈は女の子ばっかりだろ、どうせ」
野次を飛ばす男子の声に反応して、一斉に笑いが起こる。
「まぁ、どっちかっていうとそっちの方が多いのは否定しません」
それに否定することもなく、動じることもなく、おちゃらけて言ってみせる姿に余裕すら感じてしまい逆に呆れてしまう私。
「じゃ、それぞれ振られた係同士集まって、今後の予定を話し合ってください。申し訳ないんですが、うちの文化祭、ご存知の通り夏休み明けてすぐなんで、休み中にある程度の準備を固めておきたいので……休み返上にご協力ください」
委員長が丁寧に頭を下げた。
そうした予想外の流れに乗って、今私の隣に小川くんが座っている。
「とりあえず毎日は学校来れる?」
小川くんがスマホのスケジュールと睨めっこしている私の様子を伺っている。
「……えーと……」
あぁ、どれだけ捻り出してもガラガラのスケジュール……
悲しいことに祭り以降なんの予定もない悲しい私。
「小川くん、デートとか、ほら忙しいでしょ? 私家で適当にイラスト描いてくるから2、3日来ればいいんじゃない?」
もう、顔合わすの嫌だよ……ホント。
「おい、任された仕事、適当にやるとか言うなよ」
急に真面目な口調で私を諭す。
「あ、……ごめん」
こんなふうに怒ったりもするんだ……
「こっちこそ……急にごめん」
スッと頭を下げる。
なんだろう……
意外な一面。
「実はさ、係決め俺と委員長で相談しながら決めたんだよ」
頭をポリポリとかきだす。
そっか、……一応小川くん副委員長だもんね。
「上野さんにイラスト描いてもらいたいって推薦したの、俺なんだ」
「え?」
「なんか黙ってると卑怯者に思われそうだから正直に言うけど……」
気まずそうに目線を逸らす。
「後からそれ上野さんに変に知られたりなんかして、これ以上嫌われたくないからさ」
寂しそうに笑った。
「なんで……私の絵、見たことあるの?」
喋ったことすら数少ないし、絵なんて一度も見せたことないのに……
「知ってるよ。一年の時だって展覧会に出品されてただろ? 俺は上野さんの絵、何度も見たことあるよ」
意外だった。
そんな話一度も今までしてこなかったくせに。
「なんか気持ち悪いよな、俺。嫌な気持ちにさせてたらごめん。でも、今回は最高の文化祭にするために、上野さんの力がどうしても必要だって思ってる。なんとか協力してもらえないかな?」
素直すぎる小川くんの言葉に、私は驚き言葉が出てこない。
「ダメ……?」
「……ううん、協力するよ」
自分の口からこんなこと言っちゃうなんて。
どうしちゃったんだろう私……
騙されてる?
もしそうだとしたら何のために??
もう、顔を見るのも嫌なくらい大っ嫌いなはずなのに……
あぁ、昨日から頭がぐちゃぐちゃ!!
◇◆◇◆
「あぁ、どうしよう! なんでこんな事にっ」
帰りに寄ったコーヒーショップで、私は頭を抱えながら澪と勇吾に不安定極まりない気持ちをブチまける。
「なんか昨日から大変ねー。見てる方は結構面白いけど」
ププと澪が笑いを堪えている。
「なぁ、大丈夫か?」
勇吾が心配そうに覗き込む。
「勇吾は心配してくれるのね。ほんっと優しい!」
ズズズっとカフェラテをすする私を見て勇吾が微笑む。
「小川の事、そんなに嫌なのか?」
私が答えるまでもなく隣で澪がうんうんと頷いている。
「今日は真面目なフリしてたけど……女の子の気持ちなんてゴミくらいにしか思ってない人よ。気に入らなかったらポイ! イケメンだからって私は騙されないわよっ」
「……ま、それ聞いて俺は安心したけどな」
そう言って立ち上がる。
「勇吾……?」
ふと見上げるとほんのり頬が赤い?
「ごめん、これから予備校だから俺先行くわ」
そう言って店を出て行く。
「え? どう言う意味?」
全く勇吾の言葉が理解できなくて澪に助けを求める。
「そういう意味!!」
そう言って澪も席を立つ。
「この鈍感娘! いい加減にしないと怒るわよ!」
そう言い放ち、澪は私の頭をポンと叩く。
もう、弱ってる私に二人とも何なのよぅ……
とにかく明日からが……憂鬱。