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24.拓人の手紙

 いくら考えても暗号の答えは分からない。

 本に貼ってあったメモを片手に結局寝落ちしてしまって、目が覚めたら時計の針は5時を指していた。

 窓を開ければ空は白んで朝を迎える準備をしている。


「はぁ……。とりあえず手伝いやらなきゃか」

 軽く伸びをして答えを知りたいと焦る心に蓋をした。


「ごめん、寝ちゃって。手伝うね」

 黙々と作業に取りかかっているお父さんの背中に声をかける。


「あぁ、悪いな」

 お父さんの疲れた重たい声を感じながら再びペンを取った。




「ちょっと一服するか」

 最後のコマの背景をようやく描き終えた私にお父さんが声をかけてくれた。


「うん、もうちょっとだね」

「あぁ、おかげさまで終わりが見えてきたよ」

 コーヒーを片手に深いため息をつく。


「そうだ、拓の暗号見つかったんだろ?」

「うん。考えても全然わからなくて。後で見てもらってもいいかな」

 私はそっとお父さんにメモを渡す。


「どれ」

 そう言って目を通し紙を裏返す。


「ふはは!! あいつやっぱり絵が下手だな!」

 確かに裏にはクマらしき動物が何やら瓶ともう一つ何かを片手に持っている絵が描かれていた。


「それ何なんだろ? 見れば見るほど分からなくて」

「まぁ、そうだろうな、これじゃ」

 そう言ってその絵のすぐ上にサラサラと描き出したと思ったら紙を返された。


「これがこの暗号の本当のヒントだよ」

 まだふははと笑いを堪えながら肩を震わせている。


「……?」

 お父さんの絵は狸がビールと栓抜きを持っていた。


「もうわかるだろ。こんな小学生でも解ける簡単な暗号。あいつ、いつも凝った難しいもの作ることにしか興味なさそうだったのに、よっぽどお前に直ぐ解いて欲しかったんだろうなぁ」

 そんなお父さんの言葉を聞きながら、書き直されたヒントを見てもいまいちピンと来ない。


「しっかしアイツはセンスのかけらもないな。その絵のおかげで簡単な暗号も難解になってるよ。あ、ヒントを一つあげるとしたら、ビールは関係ないな。芽衣、もう手伝いはいいからあとは部屋に戻って自分の力で考えろ」

 昨日からずっと険しかったお父さんの顔は久しぶりに柔らかくなっていた。


「うん。そうする」

 答えが気になってこんな状態じゃ集中できないし……

 静かに仕事部屋を出て自分の部屋に戻った。


 狸……

 栓抜き……


 たぬき……

 せんぬき……


『ぬき』……

 これ、『た』と『せ』と『ん』を抜けばいいだけじゃない?


 (………?!)


「にわの……あじさいの……ねもと」


 庭の紫陽花の根元……!!


 私は立ち上がって部屋を飛び出した。

 階段を駆け下りて庭に出る。

 物置からスコップを持ち出して庭に毎年大きな花を咲かせる紫陽花の根本を掘り始めた。


 こつっと深く掘るまでもなく何が硬いものにスコップが引っかかる。

 ビニール袋の中に入った小さなお菓子の缶が見えた。


 無我夢中で私はその缶を掘り起こす。

 もろけたビニールの袋を急いで破ると、錆びた缶の蓋に震えの止まらない指を必死になって引っかけた。


 小さいながらも頑丈にできたその缶はズバッと音を立てて蓋が外れた。


 中にはぴっちりと密封してある丸いガチャガチャの入れ物。

 それを大切に部屋に持ち帰り机の上に置いた。


「………ふぅ……」

 大きく深呼吸をする。


 この中に……

 この中に何が入っているんだろう?


 振るとカサカサと硬い物が紙のようなものにあたる音がする。


 開いたら……

 今の自分の気持ちに決着をつけられるかもしれない。


 ……何が出てきても、もう覚悟を決めよう。


 私はそれを手に持ちパカリと開けた。

 メモ用紙と硬い物が入った小さい紙袋。


 目をつぶってメモを手に取りゆっくりと開く。

 恐る恐る目を開けて飛び込んできたのは、何度も見たことのあった拓人の懐かしい整った筆跡。


『好きだ。いつかまた必ず逢いに行くから、サヨナラは言わない。 拓人』


 小さな全身の震えが乱れた呼吸と共に次第に大きくなって行く。

「拓人……」

 拓人とお別れした最後の日の顔が昨日の事のように思い浮かんだ。

 一度も目を合わせる事なく居なくなったのは、私を好きで居てくれたから……?


「拓人……。拓人……! もう一度ちゃんと逢いたいよ……」

 私の中からサヨナラしようと懸命に封じ込めていた拓人の存在が溢れ出すように大きくなっていく。

 ボロボロと止まらない涙を拭う事なく、手紙と一緒に入っていた小さな紙袋を手に取った。


 中身をそっと掌の上に出してみる。


 サラサラとゴールドのチェーンが先に顔を出し、最後に袋から落ちてきたのは……

「……これ……」

 驚きのあまり涙が止まる。


 つい最近目にしたあのデザイン……


「どういう……事……?」

 私は自分の手の中にあるネックレスを見て……

 自分を取り巻く周りの世界、全てが止まった錯覚に陥った……




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