21.届かぬ想いの先
「勇吾!! いきなりどうしちゃったのよ!」
舞台の上で茫然と立ち尽くしている勇吾の肩を掴む。
「澪……、俺マジでどうしらいいかわからない……」
しんとした体育館の中を寂しく勇吾の声が沈むように落ちていく。
「もう、分かってるんだ……俺に勝ち目がない事くらい」
「……勇吾」
遠くを見つめながら今勇吾の心は何処にあるのだろう?
「俺さ、中学ん時芽衣に出逢って初めて一目惚れってやつをして……」
ふぅと一呼吸置いて再びゆっくりと話し始める。
「小学校の頃から俺の世界には勉強だけだったし、家に帰れば親に医者にならなきゃいけないって重圧を毎日当たり前のようにかけられて……感情なんて完全に死んでた時でさ」
「……うん」
一生懸命頷くことしかできない自分が悔しい。
「芽衣といる時、俺は心の中で唯一人間らしく生きてるっなぁって実感できて……なんて言うか、そういう時間が凄く新鮮で幸せで……大切だった」
力なく舞台裏に歩き出しパイプ椅子に腰掛ける。
私は勇吾を追って隣にちょこんと座った。
「でも一度だって芽衣の目に俺が男として映ってるなって感じた事がなくて……むしろふとした瞬間見せる寂しそうな顔を見つける度に、もうすでに俺の入り込む隙間なんてないくらい、他の誰かを想ってるのかもって気づいちまって。……そんな中小川が現れて、アイツが芽衣に絡むのを見る度に、俺の知らなかった表情を芽衣が見せるもんだから……悔しくなって段々嫉妬して、悪い妄想が止まらなくなって、気がつけばみっともないくらい感情をコントロールできなくなってた」
震える声……
今の私に何ができるだろう?
「ごめんな、澪。カッコ悪すぎだよな俺。芽衣が優しいのをいい事に言い寄って、嫌な思いさせて……もうそろそろちゃんと振られなきゃだよな」
「カッコ悪くなんかないよっ!! 私はずっと勇吾の事大好きだよ? 誰よりもカッコいいって思ってるから!」
勢いで言ってしまった……
サーっと血の気が引く音が聞こえた気がした。
(こんなタイミングで告白なんて空気読めないにも程があるわよっ……)
「はは……。ありがとう。慰めでも嬉しいよ」
「慰めなんかじゃないよ……。勇吾が芽衣を思ってた同じ時間、私はずっと勇吾に片想いしてたんだから!」
もういい。
ここまで来ちゃったから。
どうなっても後悔しないように本当の気持ちを伝えなきゃ……
「本気で言ってんの?……澪……」
「本気だよ。ずっと勇吾の事大好きだった」
こんな風にしか告白できない自分が情けなさすぎてボロボロと涙が出て来る。
「……そっか……」
「うん……」
静かな時が流れた。
「あのさ……澪への気持ち、そう簡単に恋愛に変えることは出来ないけど……少なくとも俺は澪が今も傍に居てくれて嬉しいって思えてるし……前向きに自分の澪への気持ちと向き合う時間をもらってもいいかな? 逃げずにちゃんと答え出すから」
「……勇吾……うん! 待ってる!」
勇吾の大きな手が私の頭をポンポンと叩いた。
「芽衣との事は、ちゃんと自分でケリをつけるよ。まぁ、答え聞かなくても最初から結果は分かってるけどな……」
俯き苦しい表情を浮かべる勇吾の手にそっと触れた。
「私ね、勇吾の事好きで、幸せでいて欲しいって本当に思うんだよ? でも芽衣にだって幸せになってもらい。あの子鈍感な上に自分の気持ちに何でか素直になれてない気がして……。勇吾には申し訳ないけど、芽衣ね、中1の時に好きな男の子と悲しい別れ方してるから……次はちゃんと本当に好きな人と一緒になって欲しいって心から願ってるし、できる事なら背中を押してあげたいって思ってる。だから協力出来なくて……ごめんね、勇吾……」
陥れたい訳じゃない。
芽衣にも勇吾にも笑っていて欲しい。
こんなの理解してもらえるかわからないけど……
でも、大好きな勇吾も大切な芽衣も変な形で裏切りたくないから。
ちゃんと勇吾には応援できない事伝えなきゃいけない。
「大丈夫だよ。今日さ、こうやって澪に話せてスッキリしたよ。なんだかやっと新しい一歩踏み出せそうな気がするんだ」
スッキリとした笑顔で私に笑いかける。
「とりあえず、今日は俺のパートナーでいてくれるかな……? このまんまじゃ俺……横目であの二人を視界に入れながら、とても人前で踊れる気がしないから……澪には本当に嫌な思いさせてごめんな」
勇吾は本当はこうやって素直に謝ったり、ちゃんと自分や相手と向き合える人だって私はずっと前から知ってる。
「勇吾のお相手ができて私は本当に嬉しいよ」
この人になら私は素直になれるんだ。
恥ずかしい事も、もしかしたら傷つけてしまうかも知れない事も。
全部全部私を知って欲しいし、貴方を知りたい。
そうやって笑顔を向けてくれる勇吾の目にいつか私が彼女として映る日が来たら、きっと貴方を一番幸せにできるって自信があるから……待ってるよ。




