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回帰録

作者: 千流

私は生まれた。


私には前世の記憶がある。異世界へ召喚されたのだろうか?


確認をしたいが視界がぼやけているし周りからの騒音もするし、風が体に当たるたびにとても寒く感じる。


手足の可動域も狭い。


「ドン!」

いきなり背中を叩かれた。何が起こったか考える前に感情が溢れ出して泣いてしまう。赤ちゃんのときってこんなに感情のコントロールができないものか、とまるで俯瞰してみているような気分になってしまう。


「よかった、泣いてるわ。」


まだ雑音が多いがやっと声が聞こえるようになったな。

背中を叩かれたのは泣かせるためだったのか、赤子を泣かせるために背中を叩くなんてこれは虐待……。

まぁ冗談だが。


「はい、お母さんだよ~。」

誰かの腕から誰かの腕へ渡されたのを感じる。優しく、抱き留められ、なぜだか安心感が心を満たしていく。


ぼやけた視界いっぱいに女性の顔が見える。なんだか見覚えがあるような……。

「産まれてきてくれてありがとう。私があなたのお母さんですよ。」

産まれてきただけで感謝されるとは何とも良い身分だなぁ。


母親を名乗る女性の声は全く聞き覚えがない。顔は見たことあった気がしたけど気のせいだったのかな?


「あなた見て、私が抱っこするとすごく落ち着いてるわ。」

確かにいつの間にか泣き止んでいた。




横からメガネの男性が顔をのぞかせる。




あぁ……そういうことか……。


思い出される前世の記憶とともにすべてを理解する。


若く真面目そうな顔をしているがその顔は私の父親にそっくりだ。





つまりこれは前世じゃなくて「産まれ直し」



異世界じゃなくて「同じ世界」






「おぉ!俺にそっくりだな!」

嬉しそうに笑っているのが奇妙に感じる。



「そうね。早く名前も決めなきゃね」

そうか、この人は私の母親だったのか。初めて聞く声なのになぜか心が落ち着く。



考えようとするとなぜかそのまま眠くなってしまう。

静かに意識が途切れていく……。



私の母親は元々体が弱かったこともあり出産後すぐに倒れてしまう。すぐに処置できれば助かったはずだが、倒れた場所が悪く、発見が遅れてしまいそのまま帰らぬ人となってしまった。発見された母は私を大事に抱えていた。


まるで自らの命に代えて子どもを守る母親のように。


母の死後、父は仕事に没頭するようになり、私は祖父母の家に預けられた。父は頭では理解しているが私が母の命を奪ったように感じてしまったのかもしれない。父親に会うことはあったが父が楽しそうにしている姿など見ることはなかった。



母親の死がなかったら……。幼少のころから何度もそんなことを考えていた。

もしかしたら普通の家庭のように過ごせたかも。

もしかしたら普通に学校で生活できたかも。

もしかしたら普通の社会人になってたかも。

もしかしたら普通に結婚できたかも。

もしかしたら夢を叶えられたかも。

もしかしたら……。



「ガン!」

激しい音と衝撃に目を覚ますと母親の腕に抱かれながら病院の床に倒れていた。


瞬時に理解してしまう。このままでは母は死んでしまう……と。

何とか手足を動かして母の腕から抜け出す。

周りには誰もいない。

感情が溢れ出し大声で泣いてしまう。

いや、泣き声が聞こえれば誰か来てくれるかも。


…………このまま待っていて良いのか?

泣きながら周りを見ても人は見えない。


母親を助けたい。

でも、手を動かすが踏ん張ることもままならない。

でも、足を動かすが地面をけることも難しい。

でも、赤ちゃんだからどうしようもない。

でも、無理だから……。






「かなえ……。」



意識が戻ったのかと思って顔を見るが朦朧とした様子で空に向かって声をかけているように見える。

「あなたの名前はかなえ……。夢を叶える……かなえ……。」


私の”前世”での名前はかなえではない。つまりこれは母が伝えられなかった私の本来の名前……!


”前世”の私は達観したような雰囲気をだしながらすべての責任を誰かに押し付けてきた。家庭の環境に、周りの大人に、社会の変動に、死んでしまった母親に。

それに対して母は死の間際になっても私に幸せになってほしいと願っているのだ。




赤ちゃんだから、無理だから、あきらめるのか?






違う!今やらないとダメなんだ!動け!動け!




動け!!!!!!!!!!!!!



体中が熱くなる。


体の動かし方を思い出せ。


邪魔な布を捨てろ。


もっと効率的に動かせ。


手足で体を起こす。


頭が重くてバランスを崩す。


痛い。


また泣き声が激しくなり感情が暴れる。


頭の重さを考えろ。


全身のバランス。


起き上がる為に母親の体につかまり。


立ち上がる。



バランスを崩しそうになる。足に力を入れる。




立ってるだけなのに足が痛い。筋肉がないからかバランスがうまく取れない。



いや、歩ける。自分を信じるんだ。お前が助けるんだ。




右足を前に出す左足を前に出す……もっと早く!



右足を前に出す左足を前に出す右足を前に出す……もっと!!!



右足を前に出す左足を前に出す右足を前に出す左足を前に出す右足を前に出す――。






走れええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!










どれくらい進めたのか結構長く走ったような気もするし一瞬だった気もする。


目の前にナース服の女性が立っていた。

「え、走っ……!?」

それ以上言葉が出なかったのは私が顔面を地面に打ち付けたからだ。


助けを……!伝えたいことは声にはならず、顔面を打ち付けた為かそのまま意識は遠のいていく…………。














体の痛みで目を覚ます。顔も痛いが全身が痛い。特に足は千切れてるんじゃないかと思うくらいに痛い。




目を開けると真面目そうなメガネ男の顔が見える。


……泣いてる?


ガッ!!


いきなりだったが抱かれたらしく体中痛くなって泣いてしまう。もう少しこっちのことも考いてほしいものだ。





自分の泣き声の向こうから声が聞こえた。

「ありがとうっ……ありがとうっ……!」


父親のしわくちゃになった顔。温かい涙。


あぁ、俺はやったんだ。

父親の腕の隙間からベットに寝かされている母親の姿が見えた。


助けられたんだ。


体の痛みも忘れるほどに心の中は満たされていた。



そして……。自分の中から”前世”の記憶が薄らいでいくのがわかる。



今ならわかる。



何のために回帰したのか。



そして”僕”はきっと夢を叶えられると。


処女作でした。

お見苦しすぎてごめんなさい。

文字の間違い、表現の間違い、多々ありますが笑って見過ごしていただければ幸いです。

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