1 俺の話を聞いてくれ
俺はいつ幼女になったんだ?
なんて某RPGの主人公のような気持ちになるのも、今の状況下ではしょうがないと俺は思うんだ。
「ルカルお嬢様、如何なさいました?」
「……いいえ。特に何も」
そして今更であるとも言えるのだ。なにせこの疑問を抱いてから早10年。この容姿となって俺は既に10年の月日を過ごした。握りしめていた拳をゆっくりと開いて、侍女がお茶の支度をする為背を向けている間に深呼吸をする。クールダウンクールダウン。偽装は完璧だ。偽装の必要性については俺にも分からないが。
長かった。それはもう、長かった。
なにせ見た目は幼女であるのに中身は俺だ。色々と大変だった。主に性別的な問題である。
考えてみてほしい。三十路手前の野郎が、ある日突然見知らぬ美男美女に見下ろされる所から始まる。訳も分からず戸惑う俺に対して、体はそれをダイレクトに反映させた。率直に言って大泣きである。止めようにもまるで制御できない上、知らない人達(えらい美男美女)にあやされて抱き上げられた上大事な部分にそっと手を掛けられる。もう、大混乱である。しかしそこで初めて俺は自分の体が赤ん坊であるのだと気づいた。その直後大事なところをご開帳された事でついでに見慣れたモノがついてないことも知ってしまった。ショックすぎて気絶した。
ちなみにその際、俺の唐突な気絶が原因で領地が大混乱を巻き起こし、医者や魔術師を呼びまくって人間大嵐のような状況だったとは三番目の兄がこの前こっそり教えてくれた。別に知りたくなかった。起きた時夢じゃなかった事に絶望してたから、その辺の記憶は俺の中からデリートされてたと思うし二度同じ思いをさせられた気分だった。
さて、そもそも俺という人格は地球の日本出身でありふれた会社員。サラリーマンとして日々コツコツ趣味と老後の為に働いていたのだが、ある日突然赤ん坊になっていて性別まで変わっていた。全く意味がわからない。え?俺、死んだ?ラノベみたいに転生しちゃったらウンタラ的な?冗談じゃねえわ俺は前途洋々、充実した日々を真っ当に過ごしていたリア充だと自負している。大学在学中から付き合っていた彼女がいたが去年別れたけどそれは別にいいんだ、出会いなんて努力と運次第だから。趣味趣向だって自由だ。きれいなおねえさんがすきです!でもやさしいおんなのこはもっとすきです!そしてメカニカルな鋼鉄の巨人が大好きです!!ちなみに別れたのはこれが原因だった。
「ではルカル様、お召し替えを。本日は奥様がお選びになったこちらのドレスをご用意いたしました」
「……ありがとう」
閑話休題。
問題は、なぜ順当に今に至っているのか俺自身がさっぱり理解していない事だ。理解する術もない上、立って歩けるようになって初めて見た鏡に映る自分の姿に目ん玉が落っこちるかと思った。俺、はちゃめちゃに美幼女だった…。
そりゃそうだ、あの美男美女の両親から生まれたのだとしたら何も不思議じゃない。不思議なのは中身が俺だって事だけだ。さっぱり意味が分からないし先行きに不安しかない。そして元来事勿れ主義として貴腐人の姉貴の優秀なパシリ(下僕)を努めてきた俺には、理解できない現状を幸せ満開美人だらけのパラダイスのようなこの家庭で暴露しちゃうなんてとても出来なかったんだ。ちなみに言っておくが俺は気弱でもないし負け犬でもない。そしてこれは断じて言い訳でもない。
「まぁ…とても良くお似合いですわ、ルカル様!ご朝食の席でお披露目なさったら必ず皆様お喜びになられます!!」
「…そう。じゃあ、行きますか……ラーシェ、今日もよろしく頼みます」
「ルカルイーゼ様のお心のままに」
ただ、訳のわからん世界で言われるがままに生きていたらこうなっただけなんだ!!!
引き続きよろしくお見守りください。