俺にプロローグがない
ゼクトライ=アルセスという世界が誕生して間もない頃。魔族・精霊・人間の三勢力が各種族の王によって纏められ、それぞれが均衡を保ちながら平和な日々を過ごしていた。しかし、三つの勢力で最も寿命の短い人間の王が命の終わりを迎えたその日を境に、均衡は崩れ去り世界には長らく戦乱の世が続く。世界の混沌の中心たる魔族の王を千年の時をかけ、身を賭して沈静化させた精霊の王が永い眠りにつき、ようやく世界は安寧を迎え、その後各勢力はそれぞれの領土で繁栄を続けていた。
しかし、ある日世界を揺るがす程の大きな力が世界中に降り注ぎ、世界は再び戦乱が巻き起こるのかと恐慌状態に陥る。
そして同日、人間の領土最大規模の魔術大国ウィンドームにて新たな命が誕生したのだった。
この国の貴族であるレイアード辺境伯は、魔術大国にありながらその武勇に右に出るものはいないと言われるほどの剣の腕を誇る御仁である。身のこなしの速さは目にも止まらず、剣筋に沿ってシルバーブロンドがきらめく様から銀の剣聖と呼ばれる彼は、その整った容姿もさることながらウィンドーム国において武力の頂点である王国軍総司令官として近隣国までその名を轟かせていた。
そのレイアード辺境伯には父親譲りの銀髪と母親譲りの紫の癖っ毛で、それぞれが凛々しくも大らかで芯の強い性質の息子が3人いる。彼等は幼いながらも早々に頭角を現した。今やレイアード家は、延いてはこの国は安泰だと言われるほどに息子達は期待を寄せられながらものびのびと成長していた。
そして長男が後数年ほどで成人を控える年齢の頃に、レイアードに新たな生命が誕生したのだ。
初の娘が生まれ、夫妻や息子達だけでなく使用人や騎士団員、果ては領民達や国までもが歓喜と祝福の波を起こした。ルカルイーゼと名付けられたその娘は一見両親には似ていなかったが、双方の家系の特徴を色濃く受け継いだ容姿であり、成長するにつれて顔立ちは父親譲りの怜悧で美しいものとなった。生まれたその瞬間から沢山の愛を注がれて育った少女は、父親のシルバーブロンドや母親のアメジストのような光沢のある紫色ではなく、父親の家系に稀に見られる艶々とした漆黒の髪に、母親の家系で魔力が特に高いものに現れるという金の瞳をその身に持っており、同じ黒髪の父方の祖父や母方の一族は酷くルカルイーゼを養子に欲しがった。もちろん夫妻は愛娘を手放すわけはなく、兄達も可愛い妹から片時も離れたがらずにいるため、泣く泣く会う頻度を上げる程度に控えるのだった。
そんな、溢れんばかりの愛を受けて育ったレイアード伯爵令嬢であるルカルイーゼ・ミラ・レイアードには、絶対に誰にも言えない秘密がある。
初投稿見切り発車作品ですので、深く考えずに読んでいただけましたら幸いです。