仏説仏名經卷第七 大乗蓮華寶達問答報応沙門経
「寶達菩薩様、御覧下さい。」
鬼王が眼下の地獄を指す。
「これが沙門地獄の第六、火象地獄で御座います。」
寶達は、息を呑む。そこには、炎に包まれた巨象が沙門達を跳ね上げ、踏み砕いていた。
暴れ迫る巨象に恐れをなし、悲鳴を上げて逃げ惑う沙門達。それを追い立てる獄卒夜叉。追い立てられた沙門達に、巨象の鼻が尾が足が迫る。
彼らが跳ね上げられ、踏みしだかれる無残な様に、寶達は思わず目を覆った。
「なんと、恐ろしい――」
踏みつけられ、跳ね上げられた沙門の身体が、燃え上がる地面に叩きつけられ、焼け失せてゆく。
「無論、これで終わったわけではありません。」
鬼王の言葉に目を上げると、巨象が通り過ぎた後の焼け爛れた地面に、獄卒夜叉が立って居る。その夜叉が、手にした鉄棒で無造作に地面を打って「活きよ。」と命ずると、忽ち辺りから呻き声が上がる。
「あの沙門どもはあのように幾度でも元に還り、一日一夜に千生万死して苦しみつづけます。たとえ地獄を抜け、人に生まれ変われたとしても、不具の石女となるでしょう。」
寶達は悲しげに鬼王の言葉を聞きながら、彼らを見下ろす。眼下では繰り返される恐怖に泣き叫ぶ沙門達を、再び夜叉が追い立てて行った。
「――彼らは、どのような罪を犯して、このような恐ろしい罰を受けているのでしょう。」
寶達は、地獄の様を悲しい気持ちで見つめながら、傍らに立つ馬頭羅刹に問う。
「お答えいたします。この沙門どもは、仏の浄戒を受け、沙門の身となりながら戒を守らず、淫行を行い、不浄の身で仏堂へ入り、仏像を穢し、恥じる心を持ちませんでした。そのために今、こうして地獄へ堕ち罰を受けております。」
寶達は、ぽつりと悲しみの涙を落とし、この地獄を去った。