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仏説仏名經卷第二十八 大乗蓮華寶達問答報応沙門経

「剥皮飲血地獄でございます。」

 鬼王が告げる。

「縦横七十由旬、その名の通り、罪人どもの生皮を引き剥ぐ地獄にございます。」

 寶達は恐ろしげに地獄を見下ろす。

 周囲を鉄城に囲まれ、鉄網に覆われたその地獄は、四門の上から沸き立った鉄が流れ出し、地獄中に満ちている。また、鋭い矢が宙を飛び交い、罪人の身に突き立っては炎を上げていた。

「寶達様、南門を御覧下さい。今、五千人の罪人が、追い入れられるところでございます。」

 寶達は、南門に目を向ける。南門では、悲しい悲鳴が響いていた――



「わたしが何をしたというのです――」

 泣き叫ぶ沙門を見て、馬頭羅刹は馬の頭を苦々しく顰めた。

 白々しい――

 この罪人どもは、沙門でありながら獣を殺して、皮を剥いだのだ。泣いている沙門が、馬を殺してその皮を剥ぎ取ったことを、彼は知っている。同じ馬の頭を持った者を目の前にして、何をしたかと問う沙門を、彼は恐ろしい顔で睨み付けた。

 沙門が、ひっと言って口をつぐみ、地に伏した。少しは自分のしたことを思い出したのかもしれなかった。

「立て。」

 沙門は動かない。

 馬頭羅刹は、震えている沙門の顔に無造作に鉄鉤を打ち込んだ。

 突然の仕打ちに、沙門が悲鳴を上げる。かまわず地獄へと引きずり込むと、罪の深い証拠にはたちまち沙門に炎が纏わりつき、その身を炙り焼いた。

 沙門が泣き叫ぶ。

 焼け爛れた皮肉が離れ、血が噴出すと、幾千種もの虫が沙門にたかり始め、その血を啜り、皮肉の間に潜り込んで皮肉を分けて行く。

「助けて、たすけて――」

 あまりの苦痛に耐えかねて、沙門が叫ぶ。獄卒夜叉が、泣き叫ぶ沙門を冷酷に見下ろし、その身に手を掛けると、皮を剥ぎ取った。

 沙門の絶叫が、辺りに響き渡った――



「御覧の通りにございます。」

 鬼王は、静かに言った。

 寶達の耳に、沙門達の悲鳴が響いている。

「炎に焼かれ、離れた皮肉の隙間から、幾千の虫が潜り込み、その血を啜ります。獄卒夜叉はその皮を引き剥がし、骨肉は分かれてその痛みは例えようもないといいます。一日一夜に無量の苦を受け、千死千生、万死万生して、千万劫を経るともこの地獄を出る期はないでしょう。」  

 苦痛に叫ぶ声に満ちる地獄を、寶達は痛ましげに見下ろす。

「彼らは、何をしたのです?」

 馬頭羅刹が答える。

「この罪人どもは、仏の浄戒を受け沙門となりながら、それを守りませんでした。心に慈悲はなく、仏性のある生き物を殺害し、その手で皮を剥ぎ取ったのです。その罪のために、今この地獄へ堕ちております。後にもしこの地獄を出ることがあっても、畜生の身となり、百千億生他に害され殺されるでしょう。どのような生き物であっても、恨む気持ちに変わりは無く、相対することは終わりがありません。人と生まれることがあっても、諸根不具となりましょう。」

 罪人達の悲鳴が響く。

 寶達は悲しげに項垂れ、涙を流してこの地を去った。


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