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仏説仏名經卷第十五 大乗蓮華寶達問答報応沙門経

 寶達は、さらに次の地獄へと進む。

 眼下には、猛火の燃え盛る地獄が見えた。聳える鉄壁がその地獄を囲んでいる。炎に霞む地獄の中からは、沙門達の苦痛の叫びが聞こえていた。

「寶達菩薩様、ここは沙門地獄の十四、身燃地獄で御座います。縦横五十由旬、四方から猛火が燃えて罪人どもを焼いて居ります。叫び声を上げておりますのは、今、東門から地獄に入れられようとしている沙門達に御座います。」

 そう言って、鬼王は東門を指した。

 寶達は促されるまま、沙門達が犇めき合う東門へと目を向けた。

 


 ぎいいと鉄の門扉が鳴って、東の門が開けられた。門扉を叩いていた炎が、門の外へと溢れ出し、沙門達の悲鳴が上がる。一度でもその炎に触れた者、または一歩でも地獄の門を潜った者は、たちまちその身から炎が上がり、毛穴のひとつひとつから火が吹き出している。

「わたくしは仏の戒を受けた沙門の身、なぜこのようなところへ入れられねばならないのです――」

 炎の吹き出る我が身を叩きながら、訴え叫ぶ沙門を、馬頭羅刹は冷く睨み付けた。

「なぜわたくしの身を、焼くのです?」

 睨まれた沙門は、怯えながらも必死に訴える。

「誰が焼くわけでもあるまい。」

 馬頭羅刹は冷たく言い放つ。

「お前を焼くその火は、外から放たれたものではない。己の身の内から燃え出たものであろう。」

 苦痛を訴える沙門の顔に、僅かに戸惑いが浮かぶ。

「その炎は、身の内の怒り、怨み憎しみが変じたもの。仏の教えを受けながら、愚かにも怒り罵り合い、恨み憎んだその心が炎と変じたのだ。」

「死して後まで――」

 沙門の顔が怒りに歪む。

 ――愚かだ。

 馬頭羅刹はいっそ哀れみを込めて、沙門を睨む。

 この怒りゆえに、おのれはこの地獄へと堕ちたのだ。

 ごう、と一際大きく炎が上がり、沙門は憤怒と苦痛に顔を歪ませて崩れ落ちた。六根から火が流れ出る。沙門が怨嗟の声を上げる。

 馬頭羅刹は悲しげな顔で沙門を一瞥し、去った。



 炎に包まれた地獄から、怨嗟の声が響く。

 寶達は思わず耳を覆った。

 鬼王が傍らの馬頭羅刹を促す。

「菩薩様、この沙門どもはあるいは師に従わず、あるいは弟子を慈しまず、互いに敬う心を待たず、怒り、罵り合い、目を怒らせて競い争い、遂にはその心に怨憎を生じたためにこの地獄へ堕ちた者どもでございます。地獄を脱し、人の世に生まれ出たとしても、出会うたびに互いに殺し合う事でございましょう。」

 ――なんと、愚かしいことか。

 寶達が呟く。

「愚かしいことにございます。この者どもは、一日一夜に無量の苦を受け、死ぬこともならずに苦しみ続けます。」

 鬼王がそう言って、哀れむように身燃地獄を見下ろした。

 寶達もまた、悲しい思いで沙門達を見下ろし、涙を落としてその地を去った。


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