仏説仏名經卷第十二 大乗蓮華寶達問答報応沙門経
寶達は、また次の地獄へと進んだ。
「ここは飛刀地獄で御座います。」
鬼王が言った。
縦横十五由旬、周囲を鉄壁に囲まれ、鉄網が覆うその地獄は、猛烈な風火の中、両刃の利刀が虚空を飛び交っていた。
「これは――」
寶達はあまりの光景に、思わず絶句する。
「飛刀地獄と呼ばれるこの地獄は、常に猛烈な風火が吹き荒れております。」
鬼王が言った。
「そのため、地獄中にある鉄山が吹き寄せられて互いに擦れ合い、風火に磨かれて鋭い刀となって飛び交い、沙門達の頭上に降り注ぎます。」
寶達は、地獄を望み見た。刀は怯え竦む沙門達の頭上を自在に飛び交い、虚空で打ち合わさり鳴る様は、雷のようだった。
寶達は、更に飛刀の下の沙門達を望み見る。沙門達はいずれも身を屈め、頭上の刀から逃れようと泣き叫びながら右往左往している。しかし、彼らの頭上には、無数の刃が飛び交い、逃れる術も無く降り注いでいた。
降り注ぐ刃は、あるいは沙門の頭を刺し貫いて足元へと抜け、あるいはその背から入って胸へと抜ける。刃が沙門を刺し貫くたびに、貫かれた体から炎と血飛沫が上がった。
無残な様を目の当たりにして、寶達は思わず目を覆い、深いため息を吐いた。
「沙門達は、この地獄中を逃げ惑い、例外なく降り注ぐ刃に刺し貫かれて、一日一夜に万死万生して苦しみを受けます。もし人身を得ることができても身体に悪瘡を生じて苦しむことになりましょう。」
鬼王は、寶達に悲しげな目を向けて、そう言った。
寶達の悲しみに触れるうち、いつしか鬼王の心にも、深い憂いの気持ちが広がっていた。
「彼らが苦しむ理由を、教えてください。」
「はい。あの者どもは戒を受けながら、仏の浄戒を守らなかった沙門どもで御座います。」
非情なはずの馬頭羅刹さえ、その表情に僅かな憂いを湛えている。
「あの沙門どもは、慈しみの心を持たず、飲酒食肉し、罪の報いなどないと豪語した者どもです。愚かなりとはいえ、食肉の罪は許されざる罪で御座います。よって、このような罰を受けております。」
馬頭羅刹の言葉を聞いて、寶達は深い悲しみに涙を流し、この地を去った。