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馴れ初め

俺は霊が視える。生まれながらについていたこのオプションに、どんな意味があるのか。今の俺に知る由はない。


「あ、おかえりー!」


築50年の古臭い木造アパートの扉を開けると同時に飛んできた、朗らかな声。東京の大学に進学することを口実に地元を飛び出して来た俺は、ここで一人暮らしをしている。そう、一人暮らしをしているはずなんだ。


「あれぇ?廻さん、なんか元気ない?」


俺の考えもお構い無しに、半透明の少女が目の前までやって来る。見たところ16歳程度だろうか?身長170センチの俺だが、その頭は俺の胸元辺りにある。それはさておき、別に俺はいつも通りだし、元気なく見えるのならばそれはお前のせいだ。


「……あのなぁ、不法侵入で訴えるぞ」


俺が怒っているのもどこ吹く風、意にも留めない様子で少女は続ける。


「あのね廻さん、幽霊に法律なんてものは意味をなさないんだよ?つまり、たまちゃんは何をやっても許されるということなのです!」


出会った頃―といってもほんの1ヶ月ほど前だが―から全く変わらない自由奔放さである。俺が引っ越してきた時に出会ったのだが、彼女がいうには、この部屋の前の住人らしい。もっとも、下見に来た段階で遭遇していれば、こんな部屋に住むわけはないのだが。


「そういえばお前、この部屋にいない時はなにやってんだ?俺が下見に来た時もいなかったよな」


少し考える素振りを見せ、


「んー、とぉ…基本は散歩してるかなぁ?た、たぶん、廻さんが下見に来た時も、散歩してたんですよ、きっと!」


と、どこか戸惑いを含んだように話した。まぁ、幽霊であるということは、元々は人間だったということだ。色々な事情があったのだろう、それについては別に言及するつもりは無い。


「……その頃って、私が幽霊として意志を持ち始めた頃だし…。なんていうか、突然、気がついたら幽霊になってました!…みたいな。生きてた頃の記憶はあるんですけど、記憶喪失になったような感覚になったというか……。あはは、自分でもよくわからないのですよ。あ!私がどんな死に方をしたのかは、内緒なのですよ?たまちゃんのとっぷしーくれっとなのです!」


―ああ、こいつはこういうタイプの人間だった―幽霊に対してこの表現があっているのかは知らん―。聞いてもいないことをベラベラと喋り、感情的になる。そして、嫌なことがあっても笑って隠そうとする。が、その実全然隠せていない、俺とは違うポジティブなやつだ。いや、ポジティブなバカだ。


「それに、幽霊になると空中浮遊が出来るんですよ!鳥さんと一緒にするお空の散歩はとても楽しいです!」

空から望む世界か。どんな景色が広がっているのか、興味はある。


「ああ、それはたしかに、楽しそうだ。だからといって、今すぐ死ぬわけにはいかないがな」


それから5分ほど話し、気づけば俺の不機嫌は去っていた。


「そういえば廻さん、この前届いた荷物ってなんなんですか?」


荷物?そういえば、通販で買ったものが先日届いたのだった。最近は、もうすぐゴールデンウィークだなぁ、という思考で一杯だったため、すっかり忘れていた。


「ああ、別に気にしなくていいよ。お前には関係ないものだから」


そういいながら、それが眠っている押し入れへと目を向ける。

―どうやら、あんたの出番は随分と先になりそうだよ、除霊グッズさん。


「ふーん……ていうか廻さん、いつまでここで話してるつもりですか。私、もうゴロゴロしたいんですけど」


ほーう。こいつ、やっぱり除霊してやろうか。

―とまぁ、こんな感じで俺の一人暮らしは続いていくのだった。

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