やり直しです!
王太子殿下の結婚式が無事に終わり、私とルイド様は屋敷に帰ってきた。
「疲れた…」
ルイド様と別れて部屋に入り、湯浴みを終わらせて椅子に座る。
結婚式自体はとても良かったけどね!正装ドレスって体力の消耗はげしいよね!
「お疲れ様です」
サフィはちょっと苦笑をしながらハーブティーを用意する。
「結婚式どうでしたか?」
「素晴らしかったわ」
「それはよかったです」
サフィが用意したハーブティーを一口飲む。
疲れ切った体に染みわたるわぁ…。これが前世でいう風呂上がりの一杯なのでは?違うか~。
「あ、個人的に王太子妃様にお手紙でも書こうかしら」
本当は直接おめでとうを言いたいけど、しばらくは忙しいだろうし。それに王太子妃様になったからには今までみたいに簡単に会えないはず。
わぁ、親友が結婚して嬉しいはずなのに、どこか寂しいぞ。
「良いと思います。便箋用意しますね」
サフィは肯定して、便箋とペンを用意してくれる。
さて、何て書こうかなぁ。とりあえず、結婚おめでとうございます、と。お祝いの言葉を形式ばった言葉で書いて~。これからもよろしくお願いします的なことを堅苦しく書いて~。最後に日本語でおめでとう!幸せにね!またお茶に誘ってね!と。あ、でも私お城でお茶できるかなぁ。ま、無理そうなら飲まないようにすればいいか!
「よし、これを送ってちょうだい」
「かしこまりました」
サフィに手紙を預け、ソファーに座る。
うんうん、ここのソファーは最高だね!
そんなことを思いながらまったりしていると、ルイド様が入ってきた。
「お疲れ様です。今日はいつもより早いですね」
いつも来る時間より30分くらい早い。さすがに結婚式があったから、今日は早めに休むのかな?疲れたもんね!
ルイド様はいつも以上に無表情だった。
「フィリア、ついて来てくれ」
「あ、はい。わかりました」
ルイド様が一言そう言って、外に出る。私はサフィに羽織を用意してもらって、それを着て部屋を出た。
「どうしたんですか?」
部屋の外で待っていたルイド様に声をかけると、ルイド様は無言で歩き出す。
え、本当にどうしたんですか!?結婚式終わってからなんか不機嫌?でもルイド様曰く私は粗相していないみたいだし…。うーん、わからん。
ルイド様についていくと、バルコニーについた。
あ、ここ。
「懐かしいですね」
ルイド様と思いを通じ合わせたバルコニー!懐かしいなぁ。あの時は粗相即離縁にすごく怯えていたっけ。あれ、そういえばなんで離縁が怖かったんだろ?もうその時から既にルイド様が好きだったのかなぁ。
「そうだな」
ルイド様が月明かりに照らされた庭を見ながらぼそっと答える。
それ以上会話が続くことはなく、無言の時間が流れる。だけど、苦痛ではない。慣れっていうのもあるけど、ルイド様とは無言でも心地いい。
しばらくして、ルイド様が視線を私に移す。
「フィリアに言いたいことがある」
真剣な顔で静かにそう言うルイド様と視線を合わせる。
「なんですか?」
ルイド様の話しがあるはなかなか心臓に悪いよね!離縁ではないんだろうけど、良いこと言う時と良くないこと言う時の差がすごいからね!でもなんだろう?全然予想できないなぁ。というか、ルイド様の言いたいことを予想できたことなかったわ。
「フィリアは私の第一印象どうだった?」
「え、第一印象…?」
ルイド様が真剣な顔をしながらそう言ってきた。
んー?なんだか雰囲気と言っていることがマッチしていない気がするけど…まぁいいか。
第一印象…確か初めて会ったのがたまたま行かざるを得なかったユースエン公爵家のパーティーだったよね。そう、あのいきなり婚約宣言されたパーティー。今考えてもすっごいことしてくれたよね!おかげで今幸せだけど!
「何言っているんだこの方とか、面倒なことに巻き込まれたなぁとかでしょうか」
あれこれ第一印象?まぁいっか~。とにかく第一印象は良くなかったね!恋する令嬢だったら頬を赤らめて嬉しそうにするんだろうけど、私は根っからの引きこもりだったからね!
「ふっ。まぁそんなところだろうと思った」
ルイド様は私の答えを聞いて、小さく吹き出す。
えぇ!私ちゃんと答えただけだよ!?どこに吹き出す要素があったの!?
「実はひとつ後悔していることがあってな。それをやり直したいんだ」
「やり直したいことですか?」
第一印象、後悔、やり直し…あ、もしかして。
「フィリアと結婚したことは全く後悔していないからな」
「よくわかりましたね…!?」
「フィリアはもっと自信を持って。もうすでに立派な公爵夫人だから」
ルイド様はそう言って、小さく笑う。
自分に自信かぁ。あるとも言えないしないとも言えないなぁ。とりあえずポジティブではあるけれど!自信を持つとポジティブは違うんだねぇ。
「あ、ハイ。それで、やり直したいこととは…?」
私がそう言うと、ルイド様は私の手を取った。そして私が大好きな優しい表情を浮かべて口を開く。
「フィリア。…私の妻になってくれないか?」
なるほど、そういうことだったんだ…。ルイド様が後悔してやり直したいこと、それはあの日のプロポーズ。いやあれプロポーズではなくて強制宣言だったけどね!みんなの前でのいきなり強制宣言!しかも初対面!
「ルイド様」
「ずっと後悔していてな。フィリアの意思も確認せずに無理やり結婚に持ち込んでしまったから」
自覚あったんですね!でもこの貴族世界の結婚に令嬢方の意思なんてあるんだろうか?王太子妃様は自分の意思で結婚したけど、結婚のほとんどは政略結婚だ。たまに恋愛結婚もあるらしいけど。
「だから、フィリアの意思を確認したい。…私と結婚してくれるか?」
そう言ったルイド様の顔は少し怯えていた。だけど、しっかりと目線は私に向けている。
もしここで、断ったらどうなるんだろう?恐らくルイド様のことだから結婚解消になる気がする…。
まぁ、そんなことは絶対しませんけどね!
「はい、もちろんです」
私はそう返事をする。自然と笑顔になった。
「わっ」
不意に手を引かれ、ルイド様の腕の中にすぽっと納まる。
「よかった…」
ルイド様が心の底から安堵したような声を出す。
「断られると思ったんですか?」
「その可能性も0じゃなかったから」
私はルイド様の背中に手を回す。
あ、何気に抱きしめ返したの初じゃない?ごめんルイド様。やってもらってばかりでしたね!自分から強請っておいてね!
「ルイド様も自分に自信を持ってくださいよ。だって」
私はそこで言葉を区切り、上を向く。ルイド様の綺麗な瞳と目が合う。
「だって私はルイド様のこと大好きですから」
ルイド様の目が見開かれる。
なんだか恥ずかしいね!でもたまにはちゃんと言葉にしないと。
ルイド様の手が私の顎に触れる。そしてルイド様の人間味のある圧倒的美な顔がゆっくりと近付いてくる。
私はそっと目を閉じた。
柔らかいものが口に触れる。
そういえば、何気に初だなぁ。
本当、結婚してしばらく経ってから交際がスタートしてようやくゴールインみたいだね!
愛されているなぁ。そんなことを思った夜だった。
後2話です!
次は初のルイド様視点に挑戦するつもりです。簡潔に書きます。




