王太子殿下結婚決定パーティーです!
後半糖度多めです。
「お綺麗ですよ、奥様」
私の準備が終わったらしく、サフィがそう伝える。
今日は、王太子殿下結婚決定のパーティーである。このパーティーで結婚式の日程が発表される。
なんでわざわざ発表するためにパーティーを開く必要があるんだろうね?そういう決まりですかね?まぁでも今日は友人の勇姿を見れるから良しとしよう。王城に行っても大丈夫なことはこの前わかったし。
「ありがとうサフィ」
「大丈夫そうですか?」
サフィが心配そうに私の顔を鏡越しに見てくる。
「ルイド様もいるし、大丈夫よ」
私は安心してもらえるようにふんわり笑う。
「粗相しないように気をつけないとねぇ…粗相即嫌われエンドは避けたいわ」
そう言ってため息をつく。友人の勇姿を見るためとはいえ、やっぱり社交はめんどくさい!でもこの前休んじゃったからもう休めない!
「あ、いつもの奥様ですね」
そう言ってサフィはクスクス笑った。
むぅ、こちとら死活問題だというのに!ルイド様、粗相したら容赦なく見捨ててきそうじゃん!
「…よし、行ってくるわ」
相変わらず無言の馬車にしばらく乗り、王城に着いた。ルイド様がサッと降りてスマートにエスコートをしてくる。ルイド様の手を取り、馬車から降りて歩き出す。
「大丈夫そうか?」
ふと、ルイド様がキラッキラ1歩手前の笑顔を浮かべて聞いてきた。
「大丈夫ですわ」
私もにこっと笑みを湛えて答える。
うん、本当に何ともないからね!というかこの前も何ともなかったからね!
「そうか。無理になったらいつでも言うように」
「はい」
私とルイド様はそのままパーティーの会場に入る。私たちが入ると、会場が少しざわついた。何やら私の方を見てひそひそ言っているみたいだ。
あー、あの毒事件のお茶会は少数とはいえ、他家の淑女たちもいたからなぁ。それにメイドたちもいたし、噂になるよねぇ。はぁ、これいつも以上にめんどい。
ちらっとルイド様を見ると、ちゃんとキラッキラの笑顔を浮かべていました。うん、眼福。こういう時しか攻略対象っぽいキラキラ笑顔見れないもんね!
「気にすることはない」
ちらっと見たのがバレたのか、周りの状況を見て何か察したのか、ルイド様がこそっとそう言ってきた。
「はい」
ルイド様に小さく返事をして、王太子殿下とマリー様が佇む御前まで優雅に歩く。
「王太子殿下、マリーナル様、本日はご結婚が決まったとのこと、まことにおめでとうございます」
「おめでとうございます」
私とルイド様は挨拶をして頭を下げる。
心の中で真理におめでとうを送る。
「今宵は我々のために来てくれてありがとう。楽しんでいってくれ」
「はい」
王太子殿下の一言に返事をして、その場を離れる。
この後は、王太子殿下から結婚式の日が発表される。そしてそれが終わってからパーティーが開始となる。まぁ、つまりダンスよダンス。
「王太子殿下もマリー様もどこか表情がいつもより明るいですね」
「そうだな」
2人とも、いつも社交で見る顔より明るく見える。どこか晴れ晴れした感じ。うんうん、よかったね!
しばらくのんびりしていると、王太子殿下とマリー様が一歩前に出てきた。
ついに発表の時である。
「今宵は私とマリーナル・シャルムのために来てくれて感謝する。ここに私とマリーナル・シャルムは正式に結婚することを宣言する。結婚式は1か月後の22日だ」
王太子殿下が高らかに、だけど威厳のある声でそう発表した。周囲がざわめく。
爽やかボイス以外の声も出るんですね!て、そりゃそうか。…てそうじゃなかった。1カ月?1カ月って言った?早すぎない!?
「早いですね」
「陛下と王妃様が水面下で準備していたんだ」
「なるほど」
準備はあらかた終わらせて、後はお互いが気持ちを伝えるだけだったんですね!わぁ、なんて貴族殺し!王族の準備は余裕で間に合うんだろうけど、私たち貴族の準備がバタバタになりますよ!?服装も準備しないといけないし、贈り物も用意しないといけないんだからね!
「準備間に合うんでしょうか?」
「うちはほとんど終わっている。あとはフィリアのドレスくらいだ」
いや、うちは終わっても他の貴族は…て、ほとんど終わっているの!?まじで!?はっや!これが、陛下の側近のメリット…!
「では、パーティーを楽しんでくれ」
王太子殿下がそう言ったところで、音楽が鳴り始める。みんなはぼちぼち現実を受け入れて、音楽に乗って踊り始めたり、飲み物を取りに行ったりする。
「次の曲で踊る」
「はい、わかりました」
1曲が終わるまで、壁でまったりする。しばらくすると曲が終わり、次の曲が鳴り始めた。
サッとルイド様が手を差しのべてきたので、そっと自分の手を置く。そしてダンスの輪の中に入って、静かに優雅に踊り始める。
ルイド様はキラッキラの笑顔を浮かべつつ、しっかりリードしてくれる。目の奥にはめんどくさいの感情が見て取れますけどね!
「ルイド様、めんどくさそうですね?」
「ダンスめんどくさいじゃないか」
「激しく同意です」
これが屋敷だったら思いっきり首を縦に振ってたくらい同意したい。…て、ルイド様の目の奥のめんどくさいの感情は私と踊るのがめんどくさいんじゃなくて、踊ること自体がめんどくさかったんですね!なんか安心した。
1曲優雅に踊り切り、輪からはける。
ふぅ、なんとかミスせずに踊り切った。第一弾粗相危機は回避だね!
「ルイド様はこれから他の方とお話ですよね?」
私は1人でどうしようかなぁ。毎度絡みに来ていた例の侍女はもういないし、平穏に過ごせるわぁ。…過ごせるよね?あれ?ヒソヒソ話されていたような。それに前は子息たちに絡まれていたっけ。
「社交だからな…。そのつもりだが、フィリアは大丈夫なのか?」
「そうですね…壁と同化しています」
私がそう言うと、ルイド様は小さく吹き出した。
…なんか吹き出すこと言ったっけ?まさか、壁と同化がツボですか…!?
「何かあったら私の所に来るように。他の人と話していても遠慮することはない」
「わかりました」
私の返事を聞いて、ルイド様は他の貴族がいる所に向かった。
さて、1人である。どうしましょう。ドリンクは怖くて飲めません。食べ物も怖くて食べられません。マリー様は忙しそうだし、他の誰かと話すにしても、そもそも話しかける勇気ないですし。ま、ここはさっきルイド様に言った通り壁と同化してルイド様を観察しよう。
「ルイド様いつ見ても美形」
話しているルイド様を遠くから眺めて、改めてそう思わされる。人間味のある圧倒的美だね!本当、よくこんな方と夫婦になって、仲良くなったなぁ。私は今世も引きこもりだったはずなのに。あの頃はなんで妻にしたんだよ…とか思ってたけど、今となっては私を妻に選んでくれてありがとう、だね!
「フィリア夫人、ごきげんよう。僕たちと話しませんか?」
ルイド様まじ眼福…とか思っていると、不意に子息に声をかけられた。声がした方を向くと、2人の子息が立っていた。
「ごきげんよう。どうされたのかしら?」
えーっと、確か伯爵家の子息たちだったはず。うん、だんだん顔と家の地位くらいは覚えてきたね!成長してる!
「毒を盛られたというのは本当ですか?」
おっといきなりだね!?そんないきなりぶっこみます!?
「残念だけど、答えることはできないわ」
私はやんわり断る。事前にルイド様と決めていたのだ。絶対そうやって絡んでくる輩がいるから、その時の答え方を。王城で起こったことだから認めてもあんまりよくないし、かといって否定するのはうそになるし。…まぁ、バレてはいそうだけど。本人の口から出なきゃ確証にならないからいいのだ。
その子息は私の答えにちょっと残念そうな顔をした。
「では、あちらで一緒に軽食を取りませんか?」
子息はにこやかに笑いながらそう提案してきた。
おい嫌味かコラ。こちとらユースエン公爵家以外での飲み食いは怖いんじゃ。絶対わかって言っている顔だな!
「いえ、ルイド様にここにいると言っているので」
「ちっ。では、飲み物と軽食を持ってきましょうか?」
子息は小さく舌打ちをしたあと、またさっきのにこやかな笑顔を浮かべてそう提案してくる。
おい今舌打ちしたなコラ。ということは100パー嫌味じゃないか。よく私に絡んできたな?あ、今でもルイド様と不仲の噂は消えていないんだった…。夫に見放されている妻なら身分が上でも嫌味言ってくるわぁ。
「いえ、そもそもお腹空いていないので」
うん、今日も帰ったらぎゅーってしてもらおう。ついでに今頑張った分頭撫でてもらおう。精神ゴリゴリに減っていく。
あ、そういえばルイド様が何かあったら来ていいって言っていたね!うん、ここはルイド様の元に行こう。逃げるんじゃないよ!精神安定のための休憩だよ!
「でもさっき踊っていて喉は乾いたでしょう?取ってきますよ」
子息はまだ何か言ってくる。もう、めんどくさい!そして段々目がガチになってきてるんですけど!
「いえ、結構よ。ルイド様への用件を思い出したので失礼するわ」
私はそう言うと、さっとその場を離れるために歩き出す。しかしそれは、阻まれてしまった。子息に腕を掴まれたのだ。結構な力で。
「離してちょうだい…!」
何掴んでんの!痛いから!ルイド様なら絶対そんな力で掴まないよ!そしてただ見ている隣の子息は止めなよ!?少なくとも一緒に来たってことは仲いいんでしょう!…あ、逆か。仲いいから止めないのか。共犯だなこの人たち…!
「王城で毒を盛られたと認めてください」
「なんでそこまでして認めさせたいの…!」
私が仮に認めたところで得なんてないでしょ!ああもう、これだから社交はめんどくさい!次の社交は意地でもルイド様の隣にいよう。
「それはフィリア夫人には関係ないことです。さぁ、認めてください!」
「何をしている」
不意に後ろから声が聞こえた。あ、この声は怒ってらっしゃる。
子息たちの顔から血の気が引いていく。
前も思ったけど、そんな顔するなら最初から絡んでこないでよ…。
「ルイド様」
後ろにいたのはルイド様です。ルイド様は私と目が合うと、ちょっとだけ優しく微笑んだ。あ、好き。
再び前を向いたルイド様は、私の腕をしっかりと掴んでいる子息を睨んだ。
「その手を離せ」
「は、はい…!」
わお、ルイド様の睨みこわっ。怯えちゃってるじゃん!なんか心がすっきりしたよ!
「何をしていた」
ルイド様が子息を睨みながら、地を這うような低い声で静かに問いかけた。わぁ、怖い。
「い、いえ、何も…!」
子息は怯えてしまって、なんとか声を振り絞る。
嘘つけーい。散々毒盛られたか聞いてきたじゃないか~。嘘はよくないぞ!
「フィリア、簡潔に説明を」
「あ、はい。この方たちがなんとしても私が王城で毒を盛られた噂を認めさせようとしてきました」
もうね、しつこかったんだからね!
「だから屋敷に帰ったらハグを要求します」
「相変わらずフィリアはいきなりだな。わかった、帰ったらいくらでもハグしよう」
「約束ですからね」
私たちのやり取りを見て、子息たちはギョッとしている。私とルイド様からハグという言葉が出るとは思わなかったみたいだ。相当驚いている。
ルイド様は再び子息たちを見た。
「このことは後でしっかり処理する。何やら裏もありそうだしな」
裏という言葉にわかりやすく子息たちがビクッとなる。
やっぱり裏あったんかい!だよね!じゃないとこんなにしつこく絡んでこないよね!
「そろそろ帰ろうか」
ルイド様が私の方を振り返り、優し気に笑いながらそう提案してきた。
「え、いいんですか?」
「発表はちゃんと聞いたからいい」
ルイド様がそっと手を差し伸べてきたので、そっと手を置く。そして王太子殿下とマリー様にご挨拶をして、会場を出た。
馬車に乗り込んだところで、ルイド様がそっと私がはめていた手袋を外す。
私の掴まれた手首は薄っすら赤くなっていた。日焼けしていないからなおさら痛そうに見える。
ルイド様はそんな私の手首をそっと撫でる。
「助けるのが遅くなってすまなかった」
「いえ、私がもっと早くルイド様のところに行けばよかっただけの話ですわ」
「いや、それでもやつらは無理にでも引き留めていただろう」
そういうルイド様の顔はさっきとは打って変わって少し後悔しているみたいだった。私は別に結果はどうであれ助けに来てくれたから、そんな顔しないでほしいんだけどね?
「じゃあ、このまま手を握っていてください。それでこの件はパーです」
私がそう提案するとルイド様は少し驚いて、そして優しく微笑んだ。
くぅ、その笑顔やっぱり良い!好き。
私とルイド様は屋敷に着くまで手を握っていた。そして寝る前にちゃんと抱きしめてもらった。ついでに頭も撫でてもらったのだった。
前話の最初の部分が抜けていたので付け足しておきます!申し訳ないです…。




