領地に来ました!
「わぁ…!」
馬車の窓から見えたのは、賑やかな街と青い海だった。
海だー!青い海!青い空!これで水着があれば前世含め人生初の海水浴!…まぁ、公爵夫人だとそんなこともできないけど。
私とルイド様は、この国の南の方にあるユースエン公爵領に来たのだ。馬車に揺られること半日、ようやく南の領地ソースリアの街並みが見えた。そして海!
「何か珍しいものでもあったか?」
同じ馬車に乗って、静かに資料を見ていたルイド様が資料から目を上げ、そう聞いてくる。
移動中もお仕事とか大変そうだなぁ…。なんか、前世のテスト当日の電車の中を思い出す。
「海です!私、海見るの初めてで」
前世含め、海を直接見るのは初めてである。前世住んでいたのは、内陸の街だったからなぁ。今世の実家の領地も内陸の山だし…。海って前世でよくテレビで見ていたけど、こんなに綺麗なんだね…!
「そうか。それはよかったな」
ルイド様は軽く笑ってから、再び無表情に戻り、資料に目を落とす。
さてと、街に入るまでは私も持ってきた領地の本を読むかぁ。
私はこの1週間、本当に読書漬けだった。それでも全部読んだわけではない。フレデリクが持ってきた本多すぎである。菩薩のような笑みを湛えて、鬼畜の所業。さすがフレデリク。
ソースリアについて本を読んでわかったことを簡単にまとめると、この国で1番大きい港があって貿易が盛んなため発展して賑わっているということ、ソースリア自体資源が豊富だということ、である。うん、さすが公爵家。与えられた土地がすげぇ。
「明日港を見に行く」
「はい」
ルイド様に急に予定を告げられる。
おおう、びっくりした。ということは、今日はこの後自由なんですね!まぁ、お義父様に会うという超緊張イベントがあるけど!粗相即離縁…じゃなかった、粗相即嫌われエンドは避けたい。せっかく思いを通じ合わせたのに粗相して見放されるのは嫌よ!
「賑やかだなぁ」
街の中に入ると、たくさんの人でとても賑わっていた。皆顔が活き活きしている。なんだか、街自体の雰囲気も明るい。実家の領地?超のんびりまったりですけど何か?
「港のおかげだ」
「そうですね」
あと、ルイド様の政策と、義父母の人柄ね!なんだか、すごいところに嫁いだんだなぁ。私も公爵夫人としてこの街の雰囲気を守っていけるんだろうか…。引きこもりにできるのかなぁ…。
「どうした?顔が暗くなったぞ」
そんなことを考えていると、やっぱり顔に出ていたみたいで、ルイド様がそう尋ねてきた。
あれ?ルイド様資料を見ていたよね?なんで私の表情がわかるの!?はっ、さてはちらちら見てる…!?何それ可愛い。…て、そうじゃなかった。
「いえ、何でもないです」
私はそう言って、にこっと笑う。
さすがにこの街の雰囲気を守っていけるか不安になったとか言ったら、てめぇ公爵夫人だろってなって呆れられそう。そして最終的にそっぽを向かれる…。うん、いやだ。
「そうか」
ルイド様はそう言って、再び資料に目を落とした。
ふぅ、何とかなったっぽい。…なんだか私表情に出やすいみたいだから、気を付けよう。でも、どうやったら表情に出ないようになるんだろう?表情筋を鍛える?でも、社交のおかげで前世よりは鍛えているぞ?
「今度はどうした」
「心情が表情に出ないようにするにはどうすればいいのかなと考えていました」
そういうと、ルイド様が小さく吹き出した。
わぁ、ひどい!こっちは中々に深刻な問題なのに!というか、聞かれたってことはまた表情に出てたのか…!
「フィリアはそのままでいい」
「そうですか?」
「あぁ」
うーん、ルイド様がそう言うなら別に直さなくていいのかなぁ。…いや、だめだわ!社交において表情が顔に出るとつけこまれるわ!あ、社交は王家主催しか行きませんけど。
ま、今はいいか~。
「フィリアちゃん大丈夫!?」
領地の屋敷に着き、中に入ると、お義母様が突撃してきた。うん、突撃。急に抱き着いてきた。うめき声をあげなかった私を褒めてほしい。
「母上、フィリアが潰れます」
そのままお義母様に抱きつぶされそうだったところを、ルイド様がそっと注意するお義母様は、それを聞いてばっと離れた。
あぁ、空気を吸えるって素晴らしい…!
「あら、ごめんなさいね!そしてフィリアちゃん細すぎよ!で、大丈夫なの?毒を盛られたって聞いたのだけど」
「もう大丈夫ですわ。ご心配をおかけして申し訳ございません」
本当にたくさんの人に心配をかけてしまった。もうすっかり元気だから安心してくださいね!本当に元気なので!
「それはよかったわ!」
「母上、そろそろ中に入れてください」
「それもそうね!ルーエレイトも中で待っているわ」
このまま喋り倒しそうなお義母様をさっと制したルイド様は、そのまま中に入っていく。私もルイド様とお義母様について中に入った。
サロンに入ると、お義父様が待っていた。私は近付き、お辞儀をする。
「お久しぶりでございます。この5日間、お世話になります」
「あぁ。ゆっくりしていけ」
お義父様はそれだけを言うと、ソファーに座って本を読み始めた。
「ありがとうございます」
わぁ、ルイド様から寡黙って聞いていたけど、これ普段のルイド様のまんまだ。まだ同じ空間にいるからお義父様の方が親切…?
あ、もしかして私嫌われた?いやでもルイド様は不安にならなくていいって言ってたしなぁ。
ちらっとルイド様を見ると、微かに笑って首を縦に振ってくれた。
うん、嫌われたわけではなさそう。
「2人とも疲れたでしょう、部屋で休んでていいわよ!」
「ではそうします」
お義母様の提案を受け、ルイド様がすぐに反応し、私の腕をそっと掴んでサロンから出ていく。もう一度言おう。私の腕をそっと掴んで、だ。
わっつ!?確かにお義母様は2人ともって言っていたけど!私の返事はなし!?まぁ、部屋に行くつもりだっけど!
「ルイド様…!?」
「あのままもう少しあそこにいたら、疲れていないということになって母上のお喋りの餌食にされたぞ」
「そうなんですね」
お義母様のお喋りの餌食…。大阪のおばちゃんに4時間くらい喋り倒されるって感じかなぁ。私としてはそれでも構わないけど、ルイド様は確かに苦痛そう。絶対仕事したくなるだろうね!
部屋に着き、ようやく腕を離される。まぁ、そっと掴まれていただけだから、振りほどこうと思えばすぐ振りほどけたんだけどね!なんかロマンチックっぽかったからね、堪能してました。てへっ。
「で、どうして私も連れてきたんですか?」
ロマンチックを堪能していたとはいえ、私の意見フル無視なのである。確かに休憩しようとは思ってたけど。
それにルイド様、仕事をするんですよね…?私いない方がよくない!?
「休める時にゆっくり休め。明日は外に出るから」
あれ、何でだろう。引きこもりにはきついだろうって聞こえてくるんだけど。はい、きついです。
「おぉ…気にかけてくださっていたんですね。わかりました、休みます」
私はそう言って、ソファーに腰掛ける。使用人さんが入ってきて、お茶を用意してくれた。匂いからしてハーブティーかなぁ。
ルイド様は向かいのソファーに座って、いつの間にか置いてあった書類に目を通し始める。あ、もうこれお仕事モードに入ってますね。オンオフのスイッチの切り替えはっや。
こうして使用人さんが夕飯を呼びに来るまで、ルイド様は仕事をして、私はそんなルイド様を眺めながらお茶を飲み休むのだった。
夕飯はまぁ、お義母様が喋り倒していたよね。さすがお義母様。
フィリア夫人とルイド様の甘すぎない関係書いていて楽しいです。
あれ、甘いですかね…?




