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68. お爺様とデート 中編

 青空の下、美しい花々が咲き誇る小さなテラスで美味しいデザートを食べていた私は、ふとした一言がきっかけで、お爺様からお婆様のことを少し聞くことができた。


 元々伯爵家のご令嬢だったお婆様は、貴族院の途中まで騎士爵家の息子だったお爺様にとっては高嶺の花であり、遠くからただ見ているだけの存在だった。騎士爵は、貴族の中で一番身分が低い。お爺様は、美しくて品があり、その上誰にでも優しいお婆様に一目惚れしていたが、立場上お爺様から声をかけることすらできなかったらしい。


「ユリアはな、当時貴族の男たちの中でも特に人気のあるご令嬢でな。父上が暗黒龍との協定を結び、上位貴族になっていなければ……儂がユリアを娶ることなんて絶対にできぬことじゃったろう。

 だが、周りの反対を儂が押し切ったせいで……結果的にユリアを死なせてしまったかもしれぬと、儂はずっと後悔しておった」


 お爺様は、哀しそうに目を伏せながら呟いた。そう、お爺様、お父様、お母様を見ているとこれが当たり前のように感じるが、普通のご令嬢は戦闘能力を磨いてなんかいない。当然、お婆様も例外ではなかった。


「特に父上からは、普通のご令嬢にこの領に来るのは荷が重いと反対されておったのだが……儂は傲慢にも、ユリアは自分で守るからとその反対を押し切ってな。幸い、ユリアは我が家からの結婚の申し込みを快く受け入れてくれたが……儂は結局約束を果たせなかったのじゃ。

 最後まで守ると約束したのに……儂はユリアを見送らねばならんかった。自分の惚れた女一人さえ、守ることができなかった……」


 お婆様は、そもそも武術を嗜んでいなかったし、魔法だって状態異常の解除専門だ。お爺様は、自分の力の及ばないところでお婆様を失い、自分一人の力がいかに小さいものか、そしてそれをいかに過信していたかを実感したと話していた。


「お爺様……」


「この領のどこの村や町に行っても必ず騎士の部隊がいるようにしたのも、この領の騎士たちが最強と言われるほどに一人一人を鍛え上げたのも……すべてはどこにいてもユリアを守るためじゃった。とんだ阿呆だと笑うか? 結果的には、民を守ることができておるが、儂は大馬鹿者じゃよ。何の役にも立たんかったからの。

 だが……、儂だけでなく、あれからしばらく皆が沈んでおった時に、エリアーデがソフィーを身籠ったことがわかってな。あの時、どれほど皆が喜んだことか!」


 表情に影を落としていたお爺様が、私の話になると一転してその顔に太陽のように眩しい笑みを浮かべた。


「ソフィーは知っておるかもしれんがの。エリアーデはなかなか子を授からんでな、それをずっと気に病んでおったのじゃ。エリアーデなんて、『お義母様が連れてきてくださった』と言うて泣いておっての。儂も、ユリアが生まれ変わったか、ユリアが連れてきてくれたんじゃなかろうかと思っておったくらいじゃ。

 だからの、今度は儂一人ではなく……皆で力を合せてソフィーを守ると決めたのじゃ。ソフィーを惨殺させたりなんかせぬ。そのために、ソフィーの貴族院にも同行できる年齢のキリアスを護衛に引き入れたんじゃからな」


 お爺様は、私が以前話した『ソフィーの追放死亡』の話を覚えていてくれたらしい。そして、それを回避するために領内では自分たちが守り、貴族院の中では側近候補のキリアスに守らせるという計画なのだと話してくれた。

 私は、基本的には自分が『悪役令嬢』でなくなれば、いずれその運命から逃れられると思っていた。だから、自分の周りもそのために動いてくれているという可能性を全く考慮していなかった。そうか、キリアスを助けたのは、彼を守るためでもあり、私を守るため……


「お爺様、以前お話したことを覚えていてくださったんですね。私も、自分の身くらいは守れるように、剣術の鍛錬を頑張ります。私を守るために色々考えてくださって、ありがとうございます」


「ん? 可愛い孫のためじゃ、当たり前であろう? それにな、店主のレナが言うておった通り、ソフィーのくっきりとした二重の目と左目の下の小さなほくろは、本当にユリアにそっくりじゃ。

 あまりにも似すぎておっての。儂が今度こそ約束を守るかどうか、ユリアがどこかで見張っておる気がするのじゃ、がははは!」


 最後はいつも通り豪快に笑うと、紅茶をぐっと飲み干して呼び鈴を鳴らした。そして、やってきたレナに騎士用のスイートタロームを大量に注文して支払いをすると、後で取りに来ると伝え、私や護衛を引き連れて店の外へと出ようとした。






「なんじゃあ、これは……?」


 店の扉を開け、お爺様と一歩外にでようとしたところで、大きな歓声とどこまでも続く人だかりが店の外に広がっていることに気付いた。まるで、芸能人の出待ちみたいだと思ったが、一体どうなっているのか。


「申し訳ありません、店から離れるように領民たちにも何度も言ったのですが、むしろ噂を聞きつけて人が集まるばかりで……」


「噂……?」


 店の外を警備していた護衛騎士が、とても申し訳なさそうに言ってきた。しかし、私は何の噂でこんな人だかりができているのかを確かめようと思い、お爺様と外に出てその騎士に声をかけようとしたが、そこで一際大きな歓声が起こって遮られてしまった。


「ソフィア様だ! 女神の使徒様、万歳!」


「いつも祈りの塔に見に行っています! 朝からとってもいい気分で仕事ができるようになったんです! ありがとうございます!」


「この地が女神様に選ばれたんですよね! ソフィア様は、私たちの希望の光です!」


 あっちからもこっちからも、似たような声が飛んでくる。どうやら、お勤めの時は邪魔をしてはいけないからと、領民は相当に気を遣ってくれていたようだ。だが、領都の店に私がいることが広がったようで、私を一目見たい、あるいは一声かけたい人々がここに殺到したということのようだった。

 店の入り口の階段を降りたところから、見渡す限りひしめき合う人、人、人。護衛騎士たちが人々を何とか押しとどめ、帰らせようとするが、騎士たちの言うことなんか全然聞こえていないようだ。私たちもこのままではここから動けない。お爺様はため息をひとつ付くと、背中に背負った大剣に手をかけながら、


「ふうむ。儂が皆を追い払っても道を作ってもよいが……ソフィーはどうしたい?」


 私の方をちらりと見て、私にだけ聞こえる声でお爺様が尋ねてきた。確かに、お爺様なら人々を追い払うことなんて簡単だろう。でも、これは私にとってある意味チャンスかもしれない。

 そう思った私は、お爺様に向かって首を左右に振った。そしてにっこりと笑いかけ、お爺様の一歩前に出た。


「ぜひ、私にやらせてください」

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