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64. 魔力災害とは 前編

 デュオディアイラス様の元へと昇って行ったアイリーンおば様を見送ったあと、私は神官長グレゴリウスからの質問攻めから逃げるように帰って来た。

 お爺様はキリアスをエントランス前で降ろすと、すぐに訓練施設へと行ってしまったが、お母様、私、キリアスの3人はそのまま屋敷の中へと入った。入ってすぐに目に入ったのは、珍しくエントランスで待ち構えているお父様の姿だった。


「おかえり、エリアーデ、ソフィー、キリアス。エリアーデ、たった今、調査官のグリスナーがメイソンを王宮へと連れて行ったよ。

 それで、キリアスに今すぐ話したいことがあってね。帰ってきたばかりですまないが、私の部屋に一緒に来てくれるかい? そこにキリアスの朝食も用意させよう」


「では、私はソフィーに色々と説明したいから、ダイニングは私たちが使ってもいいかしら? 多分、昨日から一番状況がわからなくて混乱しているのは、ソフィーだと思うの」


 アランの言葉に、キリアスは素直に頷きながら「はい」と答えた。そして、それに続いてお母様が素敵な提案をしてくれる。そう、昨日からあちらこちらで初めて知る情報が出現し、正直困っていたのだ。お母様が説明してくれるなら、本当にありがたいし、私が困っていることに気付いてくれたのも嬉しい。


「もちろんだ。あとで私もソフィーと話をしたいから、キリアスとの話が終わったら2人ダイニングに向かうとしよう。ではキリアス、執務室はこっちだ。ついておいで」


 こうして、私とキリアスは二手に分かれて朝食を摂りつつ、それぞれ話をすることになった。






「今朝もびっくりしたけれど……昨日のメイソンの様子や、私たちの対応、キリアスのことを含めて、ソフィーはよくわからないことが多かったんじゃないかと思ったの。余計なお世話だったかしら?」


「いいえ、お母様。とても困っていました。それに、聞いても良いことかわからなかったので、お母様が時間を取ってくださって嬉しいです」


 広いダイニングを二人だけで使用し、用意された卵焼きのようなものや温かいスープを食べながら、私はお母様に笑顔で返事をする。


「そう、それならよかったわ。それでね、ソフィー。今回の件の発端は、我が領が巻き込まれた『魔力災害』が原因なのだけれど、あなたはそれについて、どれくらい知っているのかしら? 

 私たちからきちんと話をするのは、あなたがお披露目を終えて貴族として登録されてから、と思っていたから……多分、あまり知らないと思うのだけれど……」


「えっと……さっきキリアスが言っていた、アイリーンおば様が亡くなったことと、以前お母様にお聞きした、この地の白土化が急激に進んだ原因だということくらいです。あ、あとは、お爺様がその話をいつも避けていることは知っています」


 お母様が、優雅な所作で卵焼きやベーコンのようなものを口に運んでいく。お母様から魔力災害について聞かれたのでそのまま答えたのだが、その答えにお母様は悲しそうな顔をして手を止め、ぽつりとつぶやいた。


「それは……。お義父様がその話をしたくないのはね、あの時亡くなったのはアイリーンだけではなかったの。あなたのお婆様になるはずだった、お義母様も……アイリーンと同じく亡くなったからよ」


 




 ミネルヴァ王国暦410年4の月の15日、午前11時頃。今から約6年前のその日、ヘンストリッジ辺境伯爵領の上空に、暗黒龍の森方面から大量の煙とともに真っ赤な光の帯のようなものが流れて来た。

 煙が消えた後も、帯状の光は後から後から流れてきて、次第に空を覆いつくすほどになっていった。空の色が変わるなんてことも魔力災害自体も、それまで一度も無かったために、それが異常現象だとは理解できても、これが災害の始まりだということには誰も気づくことができなかったそうだ。


 そして、この日は運悪く領主になってまだ2年ほどのアランが、王宮へ白土の土壌調査を依頼していた日だった。その調査団の中には、優秀な紫の魔力持ちであるアイリーンもいた。そして、アランとともに彼らの案内を担っていたのが、同じく紫の魔力持ちのお婆様であるユリアだった。


「その日ね、私はお義父様と一緒に暗黒龍の森の境目付近で、領側に発生する魔物を討伐していたの。でも、その日はいつもと数も強さも随分と違って、厄介な魔物ばかり発生していて、おかしいなと思っていたの。しかも、珍しく暗黒龍ゼフュロスまで森から出てきてね……」


 暗黒龍の森は、元々創造神デュオディアイラス様が魔物の保護のために用意したもので、ミネルヴァ王国の3倍以上の広さを誇る森なのだそう。その森には誰でも『入る』ことはできるが、一度入れば暗黒龍ゼフュロスの許可が出るまで出られない。

 受け入れるが逃がさないための結界が張ってあるらしく、本来は一度入った魔物を逃がさず保護するためなのだが……当然今まで迷い込んだり、暗黒龍討伐で入ったっきり帰って来なかった人間は数知れない。


 今でこそ、暗黒龍ゼフュロスとヘンストリッジ辺境伯爵家当主は条件付きで協力関係にあるが、普段はレイモンドやアランといったその代の当主が森の中でゼフュロスと会議や報告会をしており、暗黒龍が自ら結界の外に出て来るなど、それまで一度もなかったそうだ。


「それでね、飛んできた暗黒龍ゼフュロスが、『森の向こうの帝国が魔力災害を起こしたせいで、魔物の異常発生が起きている。今すぐアランを呼べ! こっちに発生した魔物は遠慮なく討伐しろ。早く元を絶たねば、結界から魔物が溢れるぞ!』って、ものすごく焦りながら言ってきてね。そこで、初めて空の色がおかしい理由も、魔物の発生の仕方がいつもと違う理由が分かったの……」


 お爺様や騎士たちが魔物を討伐するのに、暗黒龍ゼフュロスも手を貸している間、お母様は急いでお父様をパイソンで呼ぼうとしたそうだ。しかし、アランの方も既に非常事態が起こっていた。

 

 そう、異常現象が起こっているからと調査を中断して屋敷に来ていたアイリーンおば様とユリアお婆様が、見たこともない症状で倒れ、苦しみ出したのだ。


「あの時は、本当に屋敷も騎士団も領民も大混乱でね。お爺様にアイリーンおば様とお義母様に代わりについてもらって、とにかくアランにはこちらに来てもらって……。その間に私が先に、陛下に魔力災害と魔物の大量発生、謎の病について一次報告を入れて、王宮からなるべく多くの医者と状態異常を解除できる魔法師団の職員を回してもらって……」


 本来はアランの仕事だが、一秒を争うからとお母様が先に陛下に非公式のパイソンを送ったらしい。その後急いで駆け付けたアランに、暗黒龍ゼフュロスは驚くべきことを言い放った。


『森の向こうのザキス帝国が、女神ハルモニア様を殺してこの世界の管理者になるべく、おぞましい兵器を地下で秘密裏に作っていたようだ。だが、先ほどそれを実際に使おうとして暴発し、帝国は跡形もなく消え、無理矢理増殖された大量の魔力と魔素が空気中に放出されたのだ』


 空の異変を感じた暗黒龍ゼフュロスは、いち早くその大本を見つけるべく飛び、森とは反対側の端できた、地下深く続く大穴にたどり着いた。その地に残る様々な記憶を抜き取った結果、この魔力災害が人災であり、その被害を暗黒龍の森もヘンストリッジ辺境伯爵領も受けるであろうことを知ったそうだ。


『ハルモニア様は今、同時に起きた別の場所の魔力災害の処理中で動けない。だから、時間はかかるが、俺が代わりにあの赤い空を喰ってくる。

 魔力はともかく、魔素は魔物の餌であり、卵だ。あれを回収せねば永遠に魔物が生み出され、成長し続ける。どちらにせよ俺の管理を超えた魔物は、俺が処分せざるを得ないからな。

 アラン、レイモンド、お前たちは領民をなるべく南の方に非難させ、結界の外に生まれる魔物の処理を頼む。結界は俺がなんとかするが、もし壊れればこの周辺はもちろん、領都の民などあっという間だ』


 そう言い残すと巨大な漆黒の龍は空高く飛び立ち、ヘンストリッジ辺境伯爵領周辺の空を何日もかけて休まず飛び回り、魔力と魔素を喰い続けて回収をしたそうだ。


「うふふ、私ね、この時まで暗黒龍って人語を操る魔物だと思っていたんだけど……彼は、デュオディアイラス様が魔物の管理のためにつくった神獣だったのよ。それなのに討伐しようだなんて……大昔の私たちはとんでもない愚か者だったのね。オスカー様がこうして協定を結んでいてくれて、本当によかったわ……」


 お父様は、万が一の時のために領民を南部の街へと避難させ、騎士団が中心となって臨時の避難テントの設置や炊き出し等を行い、混乱が起きたものの災害収束までなんとか領民を無事保護することができた。


 また、途中暗黒龍に焼き払ってもらったりもしたそうだが、領内に異常発生した魔物はお母様が主導で討伐し、領民への人的被害を出さずに済んだ。しかし、相当ギリギリの戦いだったそうで、このために屋敷で起きた問題への対処ができなかったことを悔やんでいた。


「そうなのよ。領民を守ることはできたわ。あれだけ危険な状況を1週間以上持ちこたえて、一般の領民に一人の死者も出さなかったことは、私たちが誇ってもいいことかもしれないわ。でもね、救えなかった人たちも2人いたの……その2人なのだけれど……お義母様とアイリーンは……結局助けられなかったの……」


「それだけみんなで頑張ったのに、どうして……あっ! いや、その……」


 私はずっと食い入るようにお母様を見つめ、一言も聞き逃すまいと集中して話を聞いていたが、つい疑問を口に出してしまった。聞いてしまった後に、これではまるでお母様を責めているみたいだと思ったが、お母様はそんな私を気にする様子もなく、ただ哀しそうに笑ってグラスを手に取り、喉を潤すようにリンゴジュースを飲み干した。

 そして、音もなくグラスをテーブルに置くと、再度口を開いた。


「それはね、お義母様とアイリーンが、白の魔力持ちの次に数の少ない……紫の魔力持ちだったからよ」

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