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58. 男爵家からの贈り物

「はあ……? まあ、冗談だと思うけれど……万が一そんな理由でキリアスがここに来たんだったら……。

 狙いが私一人なら逃げるよ。でも、私を含めて領民も狙われているなら、闘う」


「ふうん、逃げるのか? ヘンストリッジの血が流れる人間が、逃げるなんて許されるのか?」


 私に「殺しにきた」発言をしたキリアスは、返ってきた答えが意外だったのか目を細めて聞き返してきた。それに対して、私はお爺様が言っていたことを思い出しながら、


「うん、逃げる。だって、私は白の魔力持ちだもん。最初の一撃は防げても、一人で闘い続けるのは難しいってことぐらい知ってる。私だけが狙いなら、逃げて助けを求めたほうがいい。

 でも、みんなも狙われているなら、一緒に闘う。民と共に闘う、それがヘンストリッジ家でしょう?」


 そう胸を張って言い切った。その尋ねてきた言葉の激しさに反して、なぜかキリアスから全く殺意を感じなかった。むしろ、私の言葉を聞いた彼は苦しそうにしながらも笑い出し、


「あはは、お前、白の魔力持ちだったのか。そりゃあ、闘いには向いてないな。すぐ死んじゃうからなあ、逃げろ逃げろ! あはは!」


 またしばらく一人で笑ったあと、「変なこと聞いて悪かったな」と言いながら懐から何かを取り出し、私に何かを手渡してきた。


「父上と俺から、お前への見舞いの品だ。質問の返事次第で、どれを渡すか判断しろって命令を受けてたんだけどな……

多分、まだお前は使ったことがない魔道具だ。今開けてみろよ。使い方を教えてやるから」


 私が手を伸ばすよりも早く、すぐ側に控えていたリタが「失礼します」と断って代わりに受け取り、包みを開いた。横から見ていた私の目に入ってきたのは、深い青色をベースにまだら模様をその表面に浮かべたペンダントだった。


「そいつは父上が改良した、新型の『パイソン』っていう魔道具だ。パイソンは蛇の一種だろ? で、こいつも蛇みたいな姿になるやつで……」


 パイソンって言うと、あのまだら模様の大きな蛇か。それでなければ、ピュトンっていうギリシャ神話の蛇神の英語読みでもあった気がする。確か、正義の味方っていう感じの神様で、悪に立ち向かう時はドラゴンに姿を変えて闘う守護神とか言われていたような……


「おい、聞いてんのか、ソフィー。白の魔力持ちなんだろ。お前の身を守るのにも使えるんだから、ちゃんと聞いてろ」


「あ、ごめん。パイソンっていう名前が気になって。これって、もしかして蛇神ピュトンから名前を取ってるの?」


 頭の中が別のところに行っていたのを目ざとく咎められた私は、慌ててそう取り繕ったが、キリアスはむしろ私のその答えに驚きの声を上げていた。


「お前、蛇神ピュトンを知ってるのか? 貴族院の神学でも、俺だってやっと習った神様だし、あんまり大きく取り上げられていないはずだが……。ふうん、お前はバカじゃないってことか。俺は、賢いやつは嫌いじゃない」


 「でも、話は聞いてろよ」と釘を刺しつつ、少し雰囲気が柔らかくなったキリアスがその後も使い方を丁寧に教えてくれた。






「なるほど、じゃあ『パイソン』は魔力を登録している相手なら、誰にでもすぐにお手紙を届けてくれる優れものなんだね! この石みたいなのが蛇になってお手紙を食べちゃうの、すっごく面白いね! ねえ、もう一回やってもいい?」


 キリアスがくれた『パイソン』は、それはそれは面白いものだった。どうやらパイソン自体は、大人の貴族なら仕事上大半が持っているものらしく、お互いに魔力を登録しておけば、その魔力をたどってパイソン同士でやり取りができるのだそう。現代で言う、メールのようなものだ。

 ただメールと異なる点は、紙の手紙をそのままパイソンが送ることだろう。パイソンの名の所以は、この石のまだら模様と手紙を送る際、魔力を流して手紙を石に近づけると、石が蛇の頭に姿を変え、手紙を丸飲みして送るからだそうだ。ちなみに、返事も蛇の頭が吐き出してくるらしい。


 練習として、キリアスのパイソンと私がもらったパイソンで手紙をやり取りしてみたが、これがもう面白くて堪らない。距離が離れていると魔力を追うのに時間がかかるらしいが、それでも国内なら一時間くらいで手紙を届けられるなんて、相当便利なものじゃないか!


「いいけど……もう使い方わかったんだったら、首から下げておけよ。俺たちが作ったからいいものを、普通に買ったらものすごく高いものなんだからな。絶対失くすなよ。

 あとは、アランおじ様やエリアーデおば様はお仕事で使ってるやつがあるはずだから、何かあった時のために登録してもらえよ」


「うん、ありがとう! これすごく便利だし、助かる! メイソンおじ様にもお礼を言わなくちゃね」


 そう言って、見た目は綺麗なペンダントにしか見えないパイソンを首から下げて笑う私を、なぜか一瞬複雑そうな目で見たキリアスは、すぐにその表情を顔から消し、何か言おうと口を開きかけたところでダイニングの扉が勢いよく開いた。


「キリアス、まだここにいるかしら? あ! ちょっと、こちらにいらっしゃい! 確かめたいことがあるの! ソフィー、あなたはお部屋に戻っていていいわよ。また夕食までに戻っていらっしゃい」


 席を外していたお母様が足早にダイニングへと入ってきたかと思うと、そうまくしたてながらキリアスに近づき、ぽかんとしているキリアスをどこかへと引きずるように連れ去ってしまった。


 取り残された私とリタは一瞬呆然としていたが、二人で顔を見合わせ、とりあえず自室へ戻ろうとリタと一緒にダイニングを後にした。






「キリアス、ソフィーとは楽しくお話できているかしら? あの子は5歳にしてはとっても賢いから、歳が離れていても話やすいと思うのだけれど」


「は、はい。ソフィーと話すのは楽しいです。でも……、うっ、エリアーデおば様、腕が痛いです……」


「ええ、知ってるわ。もう少しだけ、我慢してね」


 キリアスをダイニングから連れ出したエリアーデは、彼の腕を握りしめたままずんずんと廊下を進み、キリアス用に用意した客室の前までやって来ていた。


「ここは、滞在中にあなたが自由に使っていい部屋よ。ただ……、確かめさせてほしいことがあるから、今だけは、私とうちの使用人たちも一緒に入らせてもらうわね」


 有無を言わさぬ顔でエリアーデはそう言うと、痛がる彼を無視し、使用人を引き連れて彼に割り当てられた部屋へと入って行った。

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