(⑧)明るい悪夢
今回はシリアスです。
夢を、見ているんだろうか。
どうも真っ暗な空間に立っているらしい。
足を踏み出してみれば少しフラつく。立っている分には何も問題は無いらしいが・・・、
『此処は……ドコだろう……、』
思い出そうとすると酷くやる気を失くした。
何だか全てどうでも良くなる。
どうにかしなければいけない筈なのに、
誰かと会う約束をしていた筈なのに。
真っ暗な空間で自分の足元だけ淡く光っていて
顔をあげれば遠くの方が光っていた。
あっちはまだいい。
眩しいのは頭がクラリとするから苦手なんだ。
こんなに暗いのにあっちの光が届かないのは随分遠いからかもしれない。
まだ、……まだ此処で足踏みをしていても
────待って、
・・・・・・・・・?
────待って。此処に居てはダメ
誰だろう、声が。聞こえる。
嗚呼眠い、眠いんだオレは……
────眠ってはダメよ、立って
閉じそうになる目をこじ開けて声のする方を見た。
光とは逆の……真っ暗な方から聞こえた。
そちらに足を踏み出そうとした途端だった。
────コチラへ来てはダメ!!!!!!
『……っ!!??』
思わず足が上がったまま驚いて転んでしまった。
拒絶……、今オレは誰かも分からない声に拒絶されたのだと気付いた。
────光へ歩いて、こちらはダメよ
導くような声にオレは光の方を見た。
嗚呼、眩しそう・・・。それだけでずーん、と心が沈む。
すると声はふふ、と笑う。
────貴方は昔から暗い所が好きだものね
『どうし、て……』
────でも此処はダメよ、帰りなさい
『帰るったって何処へ・・・』
────貴方を呼ぶ声が聴こえるでしょう?
〈トウキ! お願い! 目を覚ましてよ……!〉
〈おい、トウキ! 死んだら許さねぇからな!〉
〈トウキ・・・!〉
『あ・・・、』
オレは立ち上がって光の方へ歩いていく。
不思議と頭がクラっとするアレは無かった。
────まだ、生……て。……、……キ……────
*
「・・・ここ、は・・・」
白い天井・・・。
「トウキ!? トウキ!?
目を、覚ましたの!? トウキ!」
そう言ってオレを掴むのは……
「サクラ?」
「……〜〜〜〜〜〜〜っ! こンのバカ兄貴! めちゃくちゃ心配したんだからね!」
一つ年下のオレの妹だった。
確か、オレは……事故に、
「何で事故に……」
「覚えてないの? その、母さんの墓参りに行く途中で、トラックと……」
「……そっか……」
「2日も目を覚まさなかったんだから! お医者さん呼んでくるから待ってて」
「嗚呼、有難う」
オレは起き上がることが流石に出来ずに窓を見遣った。
注ぐ太陽のせいで頭は揺れる様に痛いが、何故かとても懐かしい気持ちになった。
そう言えば────、あの声は一体何だったんだろう。
「…………まさか、な」
END
人は亡くなった方の声から忘れるらしいですね
閲覧ありがとうございました