(⑥)ちゃちな諍い 後
前回の兄貴の方のお話です。
「おい、璉土岐。そないなトコで黄昏とらんと先日爺共が寄越した書類片付けんと」
紅い和服を着た初老の男は縁側で庭を眺める男に近寄りそう言った。
「んー・・・、あれ捨てた」
「はあ? 失くしたとかやなくて?」
「ああ、捨てた」
まるで庭の花達に目を奪われているかの様に其方に目を遣ることなく言った璉土岐は懐から煙管を取り出した。
「表書きとしてはオレでも騙されるところだったが、あの爺達の背後に何がいるか考えたら一発だ。お前は見抜けなかったようだがな、亀瀬」
「書類整理は璉土岐に任せる言うたやろ、そういう細かい作業は苦手なんよ」
「まぁ見抜けなくとも爺達の考えてる事は一つ。
お前を失脚させる事」
そう言ってやっと自分を見た璉土岐に亀瀬はニッと口角を上げて嗤った。
「ンな事は璉土岐と晶嵐が許さんやろ」
「愚問だな、もうオレ等とあの狸共の共通点は消えた」
「手が早い幼馴染が居ると苦労が耐えんわ」
「こちらの台詞だ」
亀瀬は立ちながら縁側の柱へ凭れ掛かると同じ様に庭を眺めた。
「……それに儂が堕ちたとてもう一人居るやろ、アイツの方が上手くやるえ」
「…亀芭には少し荷が重いだろう」
「何でや?」
本当に分からない、という顔をする亀瀬に璉土岐はだからお前はダメなんだと苦い顔をする。
「酷いのぉ、それが主人に言う言葉か」
「・・・昨日も酒蔵にあった酒全部飲んじまうから弟子が泣いてたぞ」
「・・・・・・ま、暴れた後は喉が渇く」
多少の沈黙のあとそう宣った亀瀬にため息を吐いた璉土岐は立ち上がった。
「今日は一合までだ」
「はぁ!? おまんソレはおかしい!」
「駄目だ、もう決めた」
「嗚呼無理無理、あかんって、璉土岐! 聞いとるか、璉土岐!」
そのまま廊下を歩き出した璉土岐を亀瀬は慌てて追う。
腕に縋る亀瀬を璉土岐は無慈悲にも振り払ったのだった。
END
自由とバカは見るだけでってよく言いますね
閲覧ありがとうございました