(⑤)ちゃちな諍い 前
今回は和風系ほのぼのです。
「おい、晶嵐。そないなトコで寝ると風邪引くえ?」
緑色の和服を着た初老の男は縁側の柱へ凭れて眠る男の肩を揺さぶる。
「ん、ん〜? 嗚呼、亀瀬か。
まァた酒呑んだくれて璉土岐に怒られたんだろう」
「誰と間違えとるん、私は亀芭。
呑んだくれの兄貴と一緒にせんでくれ」
亀芭は駄目だこりゃと呟いて晶嵐の隣へ座る。
晶嵐は寝惚け半分にでも亀芭を見遣って言った。
「益々兄貴に似てくるなぁ。
ちょっと髪を弄って“亀瀬”と名乗っても分からないぞ」
「趣味の悪い冗談は止しな。
あの人また璉土岐はんを揶揄って怒られとったんよ。
被害しか被らへんのに誰が真似するん」
「でも2人きりの家族じゃないか。
何を忌み嫌う」
「…………別に嫌っとらん」
拗ねた子供の様に言う亀芭に晶嵐は声を上げて笑った。
「な、何を笑うん……っ!」
「いや、済まん。・・・何、嫌っていないのならそう伝えればいいじゃないか。弟が反抗期なのだと拗ねていたぞ」
「……あの人と会うてるん」
「彼奴が勝手に逢いに来るんでな、仕方ない。
態々訪ねてきた旧友を追い返せるほど薄情に出来てはいないさ」
亀芭は少し目を伏せてからポツリと呟く。
「あの人は・・・」
「ん?」
「あの人はよう出来てる。私と違って要領やってええ
あの人はまだ私が昔言うたの気にしてるんよ」
「……嗚呼、“おまんが居るから父上が私を見てくれん!”だったか」
「……何で一字一句覚えとるん」
「落ち込む彼奴がいい気味だと思ったからな」
晶嵐は後悔してるなら謝ってみろと先の台詞を言った時より随分と大人になった亀芭に言った。
亀芭は庭に生えた自然の花達を見つめた。
「……貴方と話すと何や出来るような気がするから不思議やわ」
「お? そうか? なら・・・」
「でもソレとコレとは話がちゃいます。
結局行動起こさなあかんのは私やないの」
「何を言う、当り前だろう」
亀芭はため息を吐いて立ち上がった。
そうしてコチラを見上げる晶嵐を見遣って言った。
「まぁ頭の隅にでも置いておくわ」
亀芭はそのまま部屋の方へと歩いていって角で曲がり見えなくなった。
「素直じゃないな、全く」
そう言って晶嵐はまた目を閉じた。
結局夜まで寝続けて風邪気味になってしまった晶嵐を顔以外は亀瀬と似ても似つかない亀芭がド叱ってやったのだった。
END
素直になれと言われても難しいもんですね
閲覧ありがとうございました