(⑪)自業の果て
今回はファンタジー系です。
怖がらなくていいのだと彼は言っていた筈だ。
怖がってなどいない、なんて軽口を叩いたのがまるで遠い記憶のようだ。・・・つい昨日のことだけれど。
ああ、騙されたのだと気付くのに
そう時間は掛からなかった。
目前の檻の中で吠えるこの魔獣は檻が壊れたその瞬間に何の迷いもなく、本能のままに私を喰らうのだろう。勿論私だってタダで喰われてやる気は無い。
私を騙した愚かな男にどうにか一矢報いてやりたい。
だがしかしこの状況はあまりにも絶望的だ。
男が姿を消す前、言っていた。
この魔獣は私を喰った後、処分されるらしい。
最後の晩餐に私が選ばれるとは。
喜ぶでも哀しむでもなく。
この魔獣に心底同情してやろう。
ああ、そう言えば。
男は私の武器や道具を奪う事はしなかった。
何をしてもいい、という事ではなく。
この空間から逃げ出せる訳がないと思っているのだろう。
それを思い出して私は好機と思った。
幸運にも私は善良な市民から〈魔首輪〉なるものを強奪・・・・・・拝借していたのだ。
全く、昔から私は悪運の強い奴だな。
そう自らを嗤った時、バキンと何とも嫌な音が檻から聞こえた。いや、しかし私はもうただ死を待つだけではなくなった。魔獣を従えるコレがあれば私は餌にならなくて済むのだ。
「少し、言う事を聞いてくれよ」
――――――私の、未来の為に。
あれから数ヶ月。
怪しまれない程度に情報を集めた。
どうやら男はあれから音沙汰が無いらしい。
魔獣に喰われでもしたか、それとも行動範囲を変えたか。
どちらにしろ、もう私には関わっては来ないだろう。
そろそろ私もこの界隈から足を洗おうか。
まぁ、〈殺し屋〉なんてのは恨み恨まれての仕事だから今回の件も自業自得っちゃあそうなんだが・・・。
「簡単に斃るとは思わんでくれよ――?」
END
強い女の人を書きたかっ……た。
閲覧ありがとうございました。