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9、魔法を覚えることのできる環境を設定しましょう

明くる日は、心療内科の予約の日であった。14時過ぎに目覚めた俺は、例によって高速早着替えをして、トイレに行く余裕もなく、そのまま家を飛び出した。


駅までの道を歩きながら、スマートフォンを開くとDMが来ていた。吉田柚葉からであった。心臓がとまりかけた。おそるおそる俺は、それを開いた。



「ちわっす。何度もすみませんが、そういえば今日は心療内科の日でしたね。お越しいただくのは土曜日でも大丈夫ですよ!」



送られた時間を見ると、今朝の五時であった。俺は、急いで文字を打った。車に轢かれかけた。



「あの……亡くなられたのではなかったのですか。」



駅に着いた。滑り込んできた電車に乗り込む。TwitterのDMページにはくだんの「……」が出ている。



「はい。殺されました。ですが、それはいつものことでして。気になさらなくて大丈夫ですよ!」



「!」じゃねぇよ。俺は無視することにした。


やがて降りる駅が見えてきた。電車のスピードが落ちる。俺は立ち上がってドアの前に立った。ホームに、一人の女性が立っていた。OL風で、ハデ目の化粧をしている。目が合った。すぐにそらした。


電車が停車する。もしやと思ったが、女性の目の前で停まった。俺が降りる瞬間、その女性が呟いた。

「今日ですよ」

確かにそう聞こえた。言葉が耳から腹に落ちた。 振り向くと、女性は既に向こう側のドアの近くでこちらに背を向けて立っていた。ドアが閉まった。


おおよそ俺に向けられた言葉とは思えなかった。おそらく、ただの独り言だろう。……いや、それにしては、なんだって敬語だったのだろう。

──まぁ考えても意味のないことである。



心療内科に着いた。相変わらず予定の時間になっても前の患者の診察が終わっていなかった。スマートフォンを開くと、またもや吉田柚葉からDMが来ていた。



「そういえば今日は大事な日でしたね。ちゃんと先生の話を聞いておいた方が良いですよ。一応、質問リストを書いておきます。

①ちゃんと帰って来られるか←重要

②標準装備は充実しているのか

③そもそも自分に転生は合っているのか

まぁ、聞いても聞かなくても結局は転生することになるんですけどねww」



いい加減に無視しつづけるのもアレなので、俺は次のように質問した。



「あの……吉田さんが亡くなられた件はどうなったのでしょうか。」



すると、すぐに返信が来た。



「あぁ、それについての詳しい説明はまたお会いしたときにしますよ。基本的に俺は毎週木曜日の夜に、自殺にみせかけて殺されます。ですんで、死ぬ瞬間に別次元に飛んで回避するようにしてます。」



俺は、ぜんぜん意味が判らなかったので、「ぜんぜん意味が判りません」と送った。



「判らなくても仕方ないです。ただ、毎週木曜日に十日後の自分が殺されることだけを頭に入れておいてくだされば良いです。っていうか早く会って詳しく説明したいですねw」



俺はスマートフォンを閉じた。診察の順番が来たのであった。 ……



「あ、お久しぶりですー」

とツレは言った。

「あぁ、はい……」

と俺は生気なく言った。演技しているわけではないが、ここに来ると不思議と生気がなくなる。空気の粒が粗い感じがする。


「えー、ちょっと予定の日にちよりも早めの診察ということですが、御体の方、どのような感じでしょうか」

と伺うようにツレが言った。


俺は、ちょっと吃りながら、

「あの、体がどうというか、なんだか世界の方がおかしくなってる感じがしまして」


ツレは首をかしげた。

「世界……。世界と言えば、えーっと……」

この反応に嘘はなさそうである。俺は幾分落ち込んだ。

「あ、じゃあやっぱり僕の方がおかしいみたいです」

「いえ、あの、世界の話を少し聞かせて頂けませんか」

とツレが言った。

俺は、これまで起こったことを説明した。ポテトチップスの件とか、家のとなりの畑がなくなってたことや、未来の自分からのDMについてである。ツレが見たいと言うので、吉田柚葉からのDMを見せた。ツレは怪訝な顔をした。


「……で、つまりこのメールからすれば、先生から異世界転生についての説明があるはずなんですが……」

「いや、心当たりないですね」

「そうですか……」


まったく困ったことである。






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