8、最弱がすぐに最強になる
「隣の田崎さんが十日後の俺だった」
俺は、そう呟いた。口に出すと、いい加減に頭がおかしくなってしまったのが歴然と感ぜられ、悲しかった。だが、思えばこれは俺の頭が考え出した妄想ではなく、Twitterの向こうにいる吉田柚葉が主張してきたことである。だからおかしいとしたら柚葉の方なのだが、そういう頭のおかしい奴とメールでやり取りをしている自分も彼と同類であるような気がして、そうなるとやはり柚葉は十日後の自分なのかもしれないな……、とうっかり信じてしまいそうになった。いずれにしても、どうやら柚葉の正体は田崎さんであるらしいので、まぁ、ちょっと会ってみるくらいは良いか、と思った。まさか殺されることもあるまい。
「でしたら俺は、目下ニートのような身なのでwいつでも大丈夫ですよ。」
……と書いて、自分で結構傷ついた。こんなに論文のことを考えているのに俺はニートのような身なのか。畜生。もういいよ、最悪殺されても。
で、またもやくだんの「……」が続いた。
「それを言うとこちらもニートのような身なので、いつでも大丈夫です。」
と来た。どうやら例のアウディ男が柚葉であるらしい。俺は、
「では、今日の16時にでもお宅にお伺いします。それでよろしいでしょうか?」
と打った。すると、
「はい。大丈夫です。ではお待ちしております)^o^(」
と来た。急に顔文字を使ってきたことにビビるとともに、お互いに自分と会話しているにも関わらず一貫して敬語なのもなんだかよく判らないな、と思った。
そうして俺は、頭がおかしくなりそう(なった?)になりながら、ベッドの上で大の字になった。すると、昼に見た、田崎さんの家からアウディが出てくる画がフラッシュバックした。運転手のサングラスの男の顔は、うっすらとしか思い出せなかった。
そうしていつものように陰惨な夢を何度も見てはっきりと目が覚めると、既に14時をまわっていた。今日はもう田崎さんの家に行くのはやめようかと思った。しかし、ドタキャンして逆恨みされては敵わないので、嫌々でも行かなくてはならなかった。重い頭を上げて自室を出ると、腹の底で消し忘れた炎のごときものが静かにくすぶっているのを感じた。
一階に降りた。用を足してトイレを出ると、ちょうど、洗面所から母が出てくるのと重なった。
「あら、おはよう」
「あぁ、おはよう……」
「あんた、あの、田崎さんの息子さんが亡くなったって!」
顔にバシャリと冷水をかけられたに等しかった。「えぇ……」
「ねぇ……。自殺なんだって」
「自殺か」
そう言って俺は、二階に上がった。自室のドアの前に立ち、途端、この向こうに十日後の自分が立っているような気がした。
警戒して中に入ると、当然ながらそこにはだれもいなかった。
俺は、Twitterを確認した。柚葉から新たなDMが来ていた。恐る恐る確認すると、昨夜、俺が寝床についてすぐに送られてきたものであるらしかった。
で、その内容。
「あ、やっぱり金曜日で良いですか?」
いや、金曜日っていうか、あんた死んどるやんけ。