7、やべぇ奴とは距離をおきましょう
「俺は、今から十日後のあなたです。」
自分から荒唐無稽なメールを送ったとは言え、こうも荒唐無稽な答えが返って来ては流石に萎える。
俺は、スマートフォンを閉じた。そして、ちょっと夜風にあたろうと思い、外に出た。想像以上に寒く、出てすぐに家の中に戻った。上着を持ってこようと思ったのであったが、戻ると、散歩するのが面倒くさくなってしまった。それより何より、メールのつづきが気になった。
で、スマートフォンでTwitterを開くと、吉田柚葉は、書いたり消したり、書いたり消したりを繰り返しているようであった。ずいぶんやる気のない文章を書く奴だと思っていたが、こいつはこいつでこいつなりに文章へのこだわりがあるのかも知れない。Twitterとか見てても、結構文章についてあれこれ呟いているし(まぁ大体はピントの外れたものだが)。
そして五分ほどそれを見ていると、ついに渾身の文章が完成したらしくメールが届いた。曰く、
「おそらく、あなたは俺の言っていることを信じていないと思います。というか、信じられるわけがありませんよね。こちらとしても信じてもらえる手だてが何もありませんので、信じろ、と書いてしまいにするしかありません。」
なんだよそれ。俺は、困りつつも返信を打った。
「一応、信じる努力は致しますが、今のところ信じてはいませんw」
それなりに気を使った文面になった。なぜこんな、男なのか女なのかもよく判らんバカそうな奴に気を使わねばならんのか意味が判らなかったが、逆ギレされて厭なことを書かれては敵わんので、まぁこんなところだろう。
で、また柚葉のターンになったわけだが、相手が書いてるときにフキダシに出現する「……」が、今度は十分ほどもつづいた。こっちこそ「……」という気分だった。
で、返答は次のようなものだ。
「でしたら、ぜひ我が家にお越し頂けないでしょうか。実際に会って頂ければ、お分かり戴けると思います。」
たまげた。これはちょっと想像のつかない答えであった(「頂ける」と「戴ける」で漢字を使い分けた意味も判らなかったが)。俺は、いい加減に無視しようと思ったが、
「どこにお住まいなのでしょうか。」
と問うてしまった。深夜のテンションである。すると、今度は一瞬で返答が来た。
「隣の家です。田崎と名乗っていますが、まぎれもなくあなたです。」
すんごい変な文章だが、意味は判った。