6、毎日投稿を心掛けましょう
その日の夜遅く、何日かぶりに「小説を読もう!」を覗いた。新着を見て、ギョッとした。
修士論文が書けないためにうつっぽくなっていたら異世界転生を勧められた件について
作者:吉田柚葉
作者の名前には覚えがあった。……というより、どこかで見たことがあるような気がした。名字が自分と同じなので、そう思っただけかもしれないが、よくは思い出せないだけで、これまでの人生のどこかの場面ですれ違ったことがある名前のような気がした。
が、それよりなにより、この長ったらしいタイトルこそが、無造作に俺の心臓をわしづかみにする粗暴さをかもし出していたのである。
つまり俺は、これが自分のことを書かれたものだとはっきり確信したのであった。
読むまでもなかったが、一応、確認の意味を込めて、その作品を開いた。
一行読んで、ため息をつく。
二行読んで、うんざりする。
俺は、心を殺し、その1500字程度の第一話を走り読みした。
そこに書かれていたのは、想像通り、俺のことに他ならなかった。すでに読んだことのあるような気がしたのは、すでに経験したことが書かれているからという単純な理由だけではないような気がした。もっと言えば、この文章が書かれた上で、俺はそこに書かれた出来事を現実世界で追体験したような気がした。順番が逆だが、俺にはそうとしか思えなかった。
俺は、検索エンジンに「吉田柚葉」と打ち込んだ。そうして、彼のTwitterを見つけると、フォローし、以下のようなDMを送った。
「はじめまして。あなたと同じ名字を持つ者です。
……いや、あなたの書いた小説のモデルになった人間だと言った方が話をする手間がはぶけて良いかもしれません。
俺は別に、そのことに腹をたてているわけではありません。ただ、あなたがなぜ俺のことをそんなにも詳しく知っているのか、あなたが何者なのかのヒントだけでも欲しくてご連絡させて頂きました。
Y.Iより」
送ると、すぐに既読になった。返信を書いているらしい。何度も、書いては消し、を繰り返しているのが判る。やがて、五分ほど経って返信が来た。
「俺は、今から十日後のあなたです。」