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2、一緒に転生を学びましょう

結局その日は、薬を一種類増やして診察を終えた。増えたのは、朝起きてすぐに飲むものである。代わりに、夜寝る前に飲む薬を一種類減らした。全部で七錠にするゲームでもしている気分であった。


が、正直そんなことはどうでもよかった。問題は、異世界転生である。


会計の待時間も、そのわけのわからない言葉が頭を巡っていた。論文、論文、論文……、まったくそればかりで埋め尽くされたズタズタの脳のなかに、突如として介入してきたその言葉は、ともすれば俺の聞き間違いとも思えた。いや、断じてこれは聞き間違いに違いない。しかし……。


「ちょっと異世界に転生してみるのも手かもしれませんねぇ……」


確かにツレはそう言ったのである。あまりにも、はっきりと、そう言ったのである。


そのとき、受付のおばちゃんが俺の名前を呼んだ。思考が中断された。しめて3600円だった。


診療費兼領収書を眺めながら駅までの道を歩いた。当然ながら、異世界転生を思わせる言葉はどこにもなかった。あるはずもなかった。だが、あるはずもない言葉が、あるはずもない場所で発せられたのである。

あれは、白昼夢だったのであろうか。朦朧とした意識の中、ほんの一瞬だけ、夢の世界にかどわかされたのであろうか。


そういうことは、大いにありうる。論文が書けるのが願望なら、どこか別の世界に行ってやり直したいというのも願望である。しかるに「転生」……、あまり聞き馴染みのない言葉だ。



駅についた。ホームに出て、ベンチに腰かける。スマートフォンのロックを外し、検索エンジンを開き、「転生」と打ち込む。


「転生(てんせい, てんしょう)とは、生あるものが死後に生まれ変わること、再び肉体を得ること。」


と出る。なんだ、死ななければならないのか。

俺は、幾分がっかりした。一応、Wikipediaのページに飛ぶ。すると、


1、生まれ変わること。輪廻とも。本記事で述べる。

2、環境や生活そのものを一変させること。


と出た。これで、少し安心した。「2」なら出来そうである。

検索ページに戻り、スクロールしてゆく。その結果は以下の通りである。


転生からの・・・下剋上

魔王から聖女への華麗なる転生

転生賢者の異世界ライフ ~第二の職業を得て、世界最強になりました~


これらはすべて、「小説家になろう」というサイトに投稿された小説である。ためしに『転生からの・・・下剋上』を開いた。しょっぱなから、主人公と思われる男が転職しようとしていた。

やはり「2」の意味なのか。

そう思ってもう少し読み進めると、途端、男が意識を失った。それで第一話は終わった。次の回に飛ぶ。「俺が生まれて、3日経った。」という一文が目を打った。どうやらやはり「1」の意であるらしい。


次に、『魔王から聖女への華麗なる転生』を開いた。長いのでやめた。


次に「転生 小説を読もう! 小説検索」というページを開いた。これは、「小説を読もう!」という「小説家になろう」のサイト内の小説検索ページであり、「転生」というカテゴリをまとめたものであるらしかった。


大量のわけのわからないタイトルの中から、『98の年の後は異世界へ』というものを選ぶ。しばらく読み進めると、「1」であった。


次に、『転生したので青春謳歌します!』を開いた。あらすじで「1」であることが判った。


次の、『アイムキャット ~~転生したら猫でした~~(仮)』は、たぶん読むまでもなく「1」である。



帰りの電車の中でも俺は、「小説家になろう」のフォーマットを学びつづけた。




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