『子猫…?』
「ニャン!」
「……えっと…」
動揺する僕の前にいるのは、さっきまで僕が可愛がっていた子猫ではなく、黒いドレスのような衣服を身に纏った、黒髪の少女。
…いや待て、そんな訳がない。
「えっと…君、どこから入ってきたの?」
悪魔で下手に、恐る恐る聞いてみる。
「…ニャァ?」
いや、ニャァ?って…
「(そう言えばさっきも「ニャン」って…)」
……あれ?おかしいな。
不思議がって少女を見ていた僕だが、ある重要なことに気付く。
長い黒髪の伸びる頭。そこにピョコンと、二つの大きめの耳。
「…………」
で、しっかりと本来の耳のあるべき場所を確認するが、それらしきものはどこにもない。
特徴のある猫耳が頭にあるだけ。
……そういえば若干肌が濡れているな。
露出したきめ細かな素肌は、何故か少しだけ濡れて更に色めいている。
顔を火照っているようで少し赤い。
「(まさかこの子がさっきの……いや、流石にそれは…)」
「ニャ〜?…」
僕が悶々と思考を巡らせていると、それを不思議がった少女が僕の顔を覗く。
「あ〜えっと…どうしたらいいだろう…」
戸惑う僕。それもそうだろう。いきなり可愛がっていた猫が消え、代わりに女の子が出てきたなんて、誰がすぐに冷静になれるか。
「(と、とりあえず一度頭を冷やそう!)」
決断し、玄関のドアを開けて外に出る。
「…ふ〜……」
一体どうなっているのか。先程までの猫はどこに消え、あの子は何処から現れたのか。
「(確かに僕一人で家に入ったはずなんだけどなぁ…)」
色々と考えているうちに、大分頭も冷めた。とりあえずあの子の対処をしなければ
ニャ〜…?
「ん?…あ!君!」
ふと足元からしたら猫の声に目を向けると、先程の子猫だった。
「何処に行ってたんだ…?びっくりしたよ…」
まぁ。何はともあれこれで万事解決か…
ガチャ……バタン。
扉を閉め、靴を脱いで部屋に上がった瞬間
「…うわっ!?」
いきなり両腕に重力が掛かり、危うく落としそうになる。
……ん?落としそうになる…?
「ニャア?」
「…ってうわっ!?」
僕の両腕に収まっていたのは、子猫ではなくさっきの少女。
丁度お姫様抱っこという状態だろうか。
「……って、あああ!ごめん!」
慌てて少女を床に降ろす。
「(でも…今の…)」
今度は間違いない。靴を脱ぎ、重みを感じるその瞬間まで、僕は猫を抱き抱えていたのだ。
………と、すると
「……君が………あの猫なのか?」
「ニャア?」
ーー
「ん〜……」
学校の帰り、僕はずっと唸っていた。
「(結局あの後は簡単な食事を済ませて、一応家を出る前に昼食も作り置きしておいたけど…)」
やはり、どうしたら良いか困る。
昨日のあの一件から、恐らくあの子はあの猫と見て間違いないだろう。だが、現実にそんなことがあり得るだろうか。
「(なんだか…よく分からないことが起きてるよ…)」
頭を抱えつつ、家の前に着き、玄関のドアを開ける。
「ただいま…」
「ニャン!」
で、猫語?でお出迎え。
「(一応ちゃんと二本足で立ってるし、なんなら走ってるけど…箸とか全然使えてなかったな…)」
なんだか人間なんだか猫なんだかよく分からない。
「……?」
不思議そうに小首を傾げる。
……こうして見ると無茶苦茶可愛いな。この子。
「(まぁでも…)」
分からないことは多いし、謎ばっかりだけど
「これから宜しくね。」
それでもやっぱり、あの子猫に変わりはないのだろうから
「……あ、そうだ!名前を付けなきゃ!」
肝心なことを忘れていた。
「ん〜どうしようかな…君はどんなのがいい?」
「…ニャ?」
まぁ分からないよね……
「ん〜………そうだ!…黒い髪に黒い服。全身黒尽くめだから、黒にしよう!」
「ニャン!」
これから、僕と黒の、ほのぼのとした生活が始まる。