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一人と一匹暮らしの日常  作者: 音葉 響鬼
2/13

『初めまして』

「おはよう。」


「おはよう。」


同級生に軽く挨拶をして、席に着く。今日は気持ちのいい朝だったなぁ。こんな日は何かいいことがありそうだ。


何てことを考えていると、早くも教師が部屋に入る。


「えー。では講義を始める。今日は動物の習性。特に犬や猫といった、我々人間の身近で生活している動物についてだ。」


ーー


「(ん〜…今日の講義は面白かったな。)」


帰り道。今日の講義のことを考えながら、我が家に向かう。


僕の住んでいるアパートは、高校を卒業する数ヶ月前に見つけた良物件。家賃も安く、部屋も悪くない。正に大学進学と同時に一人暮らしを始める学生には打って付けの物件だ。


「実家じゃ動物飼えなかったし…ああいう話を聞くと飼いたくなっちゃうよなぁ…」


僕は元々ペットの類が好きなのだが、両親がアレルギーを持っていたため、飼いたくても飼えなかったのだ。


「それにしても…父さんは犬アレルギーで母さんは猫アレルギーって…」


あの二人は僕に動物と接触させる気がないのだろうか。


まぁそれを言ったら姉の鳥アレルギーはトドメの一撃ということだろうか。


「まぁしょうがないことだけど…なんだかなぁ…」


ニャ〜……


「ん?…」


あれ?遂にペットが欲しすぎて幻聴が…


ニャ〜…


「……いや、違うな。」


丁度僕の住むアパートの方面から、子猫…?くらいの小さな鳴き声が聞こえる。


「まぁ…確かうちのアパートはペット飼ってても問題無しだったし。」


これも、僕がこのアパートを選んだ理由の一つ。


「…あ。」


いや、どこの隣人さんの猫でもなかった。


「君か…?」


僕の部屋の扉の前に、その子猫はいた。真っ黒の毛並みは、恐らく本当は艶のある美しい毛並みなのだろうが、今は薄汚れてしまっている。


「どうした?迷子かい?」


優しく撫でながら、そんなことを言ってみる。なまじさっきまでペットの事を考えていただけあって、目の前の子猫が更に愛おしく感じる。


ニャ〜…


気持ち良さそうに目を細める黒猫。見た感じやはり野良猫だろう。これだけ汚れているなら飼い主が黙っていないはずだ。


「……体を洗うのとご飯くらいならいいか。」


ーー


「うわぁ!ちょっ!暴れないで!」


シャワーを出した途端に暴れ出す子猫。子猫とはいえやはり猫。濡れるのは嫌いらしい。


「あ〜…ちょっと濡れちゃったな…」


ニャー……


僕が濡れた裾を絞っていると、申し訳なさそうに子猫が僕の手を舐める。


「ははっ。大丈夫だよ。一応制服は着替えておいたから、問題無し。」


優しく頭を撫でると、これまた気持ち良さそうに目を細める。


「(こうして見ると人間みたいだな。)」


そんなわけないか。と風呂を出た。


ーー


「やっぱりお腹空いてたのか。よしよし。」


いつだったか友人から貰ったキャットフードを出してみると、子猫は美味しそうに食べた。


「それにしても…どこの猫だろ…?」


この辺は余り猫やら犬やらの動物がいないため、こうして子猫が迷っていることなどそうそう見ないのだが…


「おっと…そろそろバイト行かなきゃ…」


玄関のドアを開け、名残惜しいが子猫を原っぱの方へ放す。


「またね。お母さん見つかるといいね。」


余り話していても名残惜しくてその場を後にできない。僕は足早にバイトへと向かった。


ーー


「あ〜疲れた…」


バイトも終わった夜の8時頃、ようやくアパートが見えてきた辺りで、大きく伸びをする。


いつもはそこまでお客さんの多くない飲食店だが、今日はとても客足が多かった。


ニャ〜…


「…あれ?もしかして…」


一瞬聞こえた子猫の声に、アパートの階段を駆け上がる。


「あっ!…やっぱり…」


案の定。聞こえた鳴き声の主は昼間の子猫だった。


「どうした?お母さん見つからなかったか?」


撫でると、相変わらず人間のように目を細める。


「ん〜…外じゃ寒いだろうし…」


行く当てが無いなら…


「…君…うちに来る?」


ニャン!


手を差し伸べると、その手に飛び乗り、腕を伝って右肩に乗る。


「よし。じゃあ家に入ろうか。」


玄関を開け、中に入り、鍵を閉める。


「(後で大家さんに話とか付けなきゃだな…)」


なんてことを考えてはいたが、内心念願の猫との生活に心が弾んでいた。


ニャン!ニャン!


と、肩に乗っていた子猫が肩から飛び降り、僕の前に着地する。


「?…どうし」




「…え?...」


次の瞬間、本の瞬きをした瞬間に、僕の前にいた子猫は消えていた。


代わりにそこにいたのは


「ニャン!」


黒い髪と黒い格好をした。一人の少女だった。

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